2021年度の税制改正において、住宅ローン減税の適用条件が床面積50平方メートル以上から40平方メートル以上に緩和される見込みです。これまでは適用を受けられなかったコンパクトタイプのマンションでも減税の対象になる可能性が高く、シングルやDINKS世帯にとっては大きなチャンスの年になるかもしれません。
おさらい:住宅ローン減税制度とは?
住宅ローン減税制度というのは、一定条件満たす住宅を、返済期間10年以上のローンを組んで買った場合、所得税や住民税が控除される制度です。会社員の場合、源泉徴収されている所得税や翌年の住民税がゼロになったり、減ったりします。これを利用できるのか、できないのかで、実質的な負担額が大きく違ってきます。
控除額は年末ローン残高(一般の住宅は上限4,000万円、長期優良住宅などは上限5,000万円)の1%で、控除期間は10年ですが、現在は時限措置として13年間に延長されています。
たとえば、借入額が3,000万円の場合、13年間の控除額の合計は253.6万円で、4,000万円だと346.4万円が上限になります。これは、税額控除ですから、これ以上の所得税・住民税を納めていることが条件であり、これ以下の控除額になる人もいますが、それでも、この住宅ローン減税を利用できるかどうかが、購入後の家計に大きく影響してくるのは間違いありません。
住宅ローン減税の適用条件が緩和される見込み
その住宅ローン減税の適用条件が緩和され、利用できる人が増えそうなのです。
図表1 住宅ローン減税制度を利用できる要件
・自ら居住する住宅であること
・借入金の返済期間が10年以上であること
・中古住宅の場合、築20年(マンションなどの場合は築25年)以下であるか、耐震性能を備えていること
・床面積が50平方メートル以上であること→2021年度からは床面積要件が40平方メートル以上になる見込み
・合計所得金額が3,000万円以下であること→2021年度からは40平方メートル以上50平方メートル未満に関しては合計所得金額を1,000万円以下に引下げの見込み
床面積の要件が緩和されコンパクトマンションでも減税に?
2021年度から緩和される予定になっているのが、床面積50平方メートル以上という要件で、税制改正案が国会で成立すれば、40平方メートル以上に緩和されます。
一戸建ての場合、通常は50平方メートル以上ですから、あまり気にすることはないでしょうが、マンションだと50平方メートル以下の物件も少なくないので、影響は小さくありません。特に、シングルやディンクスをターゲットとするコンパクトタイプのマンションのなかには、40平方メートル台の住戸が多くなっています。
これまでは、住宅ローン減税を受けられないのであれば、購入はやめよう、あるいは多少無理しても広めのマンションにしておこうとしていた人たちも、40平方メートル台のマンションを安心して買えるようになるのです。
その意味では、コンパクトタイプのマンションを考えている人たちにとって、2021年は大きなチャンスの年といっていいのですが、分譲会社はそれを逆手にとってくる可能性があるので、十分な注意が必要です。
参考:政府広報オンライン
専有面積ではなく「登記簿面積」が問題になる
しかし、専有面積が40平方メートル以上であっても、住宅ローン減税の適用を受けられないケースがあることを知っておいてください。
住宅ローン減税の適用条件である床面積40平方メートル以上というのは、マンションのパンフレットや契約書などで使用される専有面積ではありません。登記簿上の面積を指す点に注意が必要なのです。
一戸建ての登記簿上の面積は図表2にあるように、壁の中心線(壁芯)から測定した広さである一方、マンションなどの共同住宅の登記簿上の面積は、壁の内側(内法)から測った面積になります。
ちなみにマンションの「専有面積」は一戸建ての登記簿上の面積と同様に壁の中心線(壁芯)から測った数値になっています。
このため、物件にもよりますが、専有面積が42平方メートルほどあっても、登記簿上は40平方メートル未満といったケースがあり得ます。パンフレットなどの専有面積を見て、「40平方メートル以上だから住宅ローン減税が受けられる」と思っていても、登記簿上は40平方メートルに満たないことがあるのです。
40平方メートル台前半の物件を買うときには、念のために登記簿上の面積がどうなのかを確認しておく必要があります。
コンパクトタイプの面積圧縮の動きが始まる?
マンションの間取りと床面積の広さの関係を見ると、2LDK、3LDKはほぼ間違いなく50平方メートル以上ですが、1LDKや2DKは微妙なところです。
これまでは、住宅ローン減税の適用を受けられるようにしようと、分譲会社の多くは登記簿面積を50平方メートル以上としてきました。50平方メートル未満にすると売りにくくなりますから、これは当然の戦術です。
今回の制度改正が実施され住宅ローン減税の床面積要件が40平方メートル以上ということになれば、50平方メートル以上にする必要はないため、1LDKや2DKの面積を狭くする、いわゆる面積圧縮の動きが始まるかもしれません。
ただでさえ、用地取得費が上昇し、建築費も高止まりするなど、マンション分譲の採算性が悪化していますから、分譲会社にとっては面積圧縮によって採算性を高める千載一遇のチャンスかもしれません。
それでいて値段が安くなっていない場合には、実質的には高くなっているわけですから、住宅ローン減税を利用できるからといって安易に飛びつくのは考えものです。
40平方メートル台の住戸の価格が高くなる?
もうひとつ問題が考えられます。
分譲会社としては、住宅ローン減税が適用されない50平方メートル未満の物件に関しては、売れ行きが悪くなることを懸念して、50平方メートル以上の物件より1平方メートル当たりの単価を安く設定してきたといわれています。
それが40平方メートル台でも住宅ローン減税の対象になるとなれば、安くする必要はありません。50平方メートル以上の住戸と同様の単価でも売れると判断して、値付けが高くなる動きが出てくると予想されます。
その意味では、この税制改正が注目される前に販売が始まった物件であれば、40平方メートル台の住戸が安くなっている可能性があります。そんな物件に注目してみるのもいいかもしれません。
大前提:税制改正が国会で成立すること
以上でみてきたように、40平方メートル台のマンションの購入を考えている人にとって税制改正は大きなチャンスですが、分譲会社などの思惑に躍らされてしまうと失敗する可能性もあります。目先の損得だけではなく、本当にこの物件でいいのかどうか、シッカリと判断して物件を選ぶようにしてください。
なお、40平方メートル台でもOKになるのは、国会で税制改正が成立することが大前提なので、国会の動向にも注目しておきましょう。