2020年は、大阪都構想に揺れた大阪府。日本有数の大都市・大阪の子育て環境は、どのような現状にあり、今後どのように変化していくのでしょうか。大阪府の待機児童問題について調査し、市区町村の取り組みについて紹介します。
大阪府全体の待機児童数は減少傾向
大阪府全体の待機児童数は、全体としては減少傾向にあります。特に、2017年から2018年の減少が顕著で、500人以上減少しています。大阪府のなかで、2020年4月現在、最も待機児童数が多いのが、和泉市の51人です。僅差で、島本町の50人、泉大津市の42人と続きます。2019年は137人と最多だった東大阪市は、38人に激減しています。
施設の増設と保育士確保施策の成果
待機児童数が大きく減少した要因の一つが、施設の増設です。大阪府では、2020年に203ヶ所の施設を増設し、定員を7,590人分増やしました。2019年の待機児童数は589人だったため、理論上は待機児童ゼロになってもおかしくないはずです。しかし、利用希望者も大きく増加したため、人数減少にとどまっています。
また、他県と同様、大阪府でも保育士確保の施策を行っています。待機児童が発生する原因には、施設不足と保育士不足の二つが考えられます。いくら受け入れ用のハード(施設)を準備しても、ソフト(保育士というマンパワー)がなければ、受け入れ児童数を減らさざるを得ません。
大阪府では、特定の地域だけで働くことができる地域限定保育士試験の実施や、潜在保育士の復職支援を実施し、人材の確保に務め、ソフト面を強化しています。
茨木市・吹田市は人口増にもかかわらず減少
市町別に見てみると、茨木市・吹田市は、市全体の人口が増えているにもかかわらず、待機児童は減少しています。茨木市の人口は、およそ28万人、吹田市の人口は、およそ37万人と、大阪府のなかでも比較的大きな市です。
長年100人を超える待機児童がいた茨木市では、2020年の待機児童はゼロ。吹田市も16人と健闘しています。
待機児童ゼロは28市町村
大阪府には43の市町村があり、うち28市町村で待機児童ゼロを達成しています。6割以上の市町村で待機児童ゼロを実現しているのは、評価できる点です。大阪府は、国の支援策である「安心子ども基金」を利用し、保育所を整備。また、既存の幼稚園を幼保一体型の認定こども園に移行させる支援を行い、受け入れ人数を増やしています。
2020年4月時点で待機児童ゼロの市町村は、高槻市、豊中市、枚方市、八尾市、寝屋川市、池田市、貝塚市、守口市、茨木市、泉佐野市、河内長野市、松原市、大東市、箕面市、柏原市、羽曳野市、門真市、高石市、泉南市、阪南市、豊能町、能勢町、忠岡町、熊取町、岬町、太子町、河南町、千早赤阪村です。
問題は「隠れ待機児童」
数字を見ると、大阪府の待機児童問題は大幅に解消されているように感じますが、実際に聞こえてくる声は違っています。その原因は、「隠れ待機児童」と呼ばれる存在です。
真の待機児童数が見えなくなる理由
「隠れ待機児童」と呼ばれるのは、潜在的な入所希望者です。国は、2001年に待機児童の定義を決め、改定を加えながら全国の統計を取っています。大阪府は、この定義に準拠し、下記の四つのケースを待機児童に数えない形で待機児童数を計上しています。
【待機児童に数えない事例】
・地方単独保育施策利用児童数
・求職活動中のうち、求職活動を休止している者
・特定の保育所等を希望している者
・育児休業中の者
出典:大阪府「保育所等利用児童数・待機児童数」
決してこれらの事例を軽視しているわけではありません。大阪府は、それぞれの項目について対象人数を把握し、公表しています。
隠れ待機児童数が多い市町村は?
待機児童に数えない事例を含めた待機児童数を計算すると、大阪市が最も待機児童が多いという結果になりました。ほかの市と比べてもその数は突出しています。待機児童ゼロとされていた市町も、相当数の隠れ待機児童がいる実態が見えてきました。
どの市も、「特定の保育所等を希望している者」が最多です。兄弟を同じ保育所に通わせたい」「自宅から一番近い保育所に通わせたい」と考えるのは当然のことです。「求職活動を休止している者」についても、保育所が決まらなければ子どもを預けて求職活動ができず、かといって職が決まっていなければ保育所に預けられないというジレンマのなかで、やむを得ず求職活動を休止しているケースも多そうです。共働き家庭にとっては、より実感に近い数値だと言えるでしょう。
隠れ待機児童数が少ない市町村は?
隠れ待機児童を含めた待機児童数が50人以下の市町村を表にしました。隠れ待機児童も含めてゼロの市町村は、能勢町、岬町、太子町、河南町、千早赤阪村の五つです。
待機児童解消のための施策
大阪府は、待機児童解消のために各市町村を支援しています。預かる人数を増やすためには、施設の増設と保育士確保が不可欠です。空いた土地が少なく、民間が進出するには資金的に難のある地域には、府営住宅の空室利用を推進するといった施策を進めています。ほかにも、各市町村単位ででさまざまな取り組みが行われてます。
【大阪市】保育所付きマンション
大阪市は2018年に、大規模マンションを建設する際は、増加する保育需要への対策も含めて事前に計画を提出し、協議するよう条例を策定していました。
しかし、業者側が保育施設を整備しても、市の認可制度は希望者のポイント制を取っているため、マンション住人が必ずしも入所できるとは限らず、業者にとってのメリットが薄いことが難点でした。
そのため、2022年に建設される大規模マンションに併設される保育施設には、住民が優先的に入所できるという特例を設けました。優先期間は5年間ですので、就学前のお子さんを持つ家庭にとっては十分です。現在、東淀川区に小規模保育施設を併設した大規模マンションの建設が進んでいます。
市長は、今後もこうしたタイプのマンション建設を推進していくと述べています。隠れ待機児童が突出して多い大阪市の新たな取り組みといえるでしょう。
【寝屋川市】待機児童ZEROプランR
寝屋川市は、待機児童ゼロを継続している市です。隠れ待機児童も2020年4月の時点で26人と、比較的少なくなっています。寝屋川市では、独自に「待機児童ZEROプランR」を策定し、年間を通して待機児童ゼロを目指しています。
プランは、保育士確保を重視したもので、保育士の処遇改善、住居借り上げ費の補助、潜在保育士が就労した場合の補助など、経済的なバックアップが手厚くなっています。注目したいのは、保育士の子どもの優先入所です。就学前の子どもを持つ保育士さんにとっては働きやすい市と言えます。
また、寝屋川市には0~2歳児を対象とした「待機児童保育施設」があります。希望する保育所へ入れない子どもを一時的に預かってくれる施設です。入所の基準については保育課へ問い合わせてみましょう。子どもが入所できず、求職活動をあきらめている人にとっては、ぜひ活用したい施設です。
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待機児童数だけでなく、隠れ待機児童数にも注目を
大阪府で子育てしながら働くなら、ぜひ隠れ待機児童数にも注目してみましょう。各市町村の実数は、大阪府のホームページで公開されています。また、各市町村では独自の取り組みがあります。それぞれの市町村が公開しているホームページをチェックするほか、まずは保育課に問い合わせてみるのが近道です。
(最終更新日:2024.04.19)