コロナ禍で気づいた家の大切さ、答えは「トカイナカ」にあるか、否か~経済アナリスト親子対談 森永卓郎×森永康平~

この記事は12月16日(水)に発売されたARUHIマガジン初のムック本『コロナ時代にどう変わる?知らなきゃ損する家とお金の話』から転載しております。

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コロナを機に変わった生活みんながムダに気づいた?

─コロナ禍は人々の生活にどのような影響を与えたと考えていますか?

卓郎

一番大きいのは四半世紀続いてきた東京への一極集中傾向の潮目が変わったこと。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告では2020年7月から3カ月連続で東京が転出超過になっている。これは今までなかった傾向だね」

康平

「なるほどね。僕はクレジットカードの決済情報を基に算出した消費動向指数を見てみたんだけど、ステイホームで4月から5月、一気に落ちた外食の消費は10月後半に緩やかに戻っている。居酒屋のデータを見ると、男女で差があって、女性のほうが低い指数で推移してる。コロナ前は男女の消費指数の伸び率にそこまで差がなかったのになぜか。もしかしてステイホーム中に流行した家飲みやリモート飲みが、女性を中心に定着したんじゃないかと思っていて。夜遅くまで続く外での飲み会とか、コロナ前に惰性でしていた行動様式を振り返ってみたらムダな行動だったと気づいてしまったというか。仮に今後、新型コロナウイルスのワクチンや特効薬ができても完全には以前のように戻らないかもしれない」

─なるほど、ご自身の生活についてはいかがですか?

卓郎

「私は自宅が埼玉県の所沢市、それも市の中心部からは離れた自然のある場所で、事務所が東京。コロナ前は月曜日の昼に東京に出て、ずっと事務所に泊まり、金曜日の夜に自宅に帰るという暮らし方だった。しかし、今、事務所に泊まるのはせいぜい週1回。残りの日は家に帰るか、あるいは家でリモートワークするようになった。東京に行く機会が激減したもんね」

康平

「僕も平日の過ごし方が変わったよ。自分の会社の経営に加えて、いくつかの会社で役職を兼任しているから、コロナ前の平日の夜は会食や講演、セミナーに出席することがほとんどだった。それがコロナでほぼ全部なくなって家にいるように。夜、外に出ることはほとんどなくなった感じはある。まあ結局、家で仕事はしているんだけど」

─全体的な景況感についてはどのように見ていますか?

卓郎

「この前、『年収200万円でもたのしく暮らせます』(PHP研究所)という本を出したけれど、タイトル通り、今後は年収200万円時代が来ると予想したんだ。ここ数年、世界的にグローバル資本主義の弊害が噴出し始めていて、コロナに関係なく世界的なバブル崩壊が近かった。コロナ禍はそれを加速させたにすぎない。10年以内には平均年収200万円の時代が来るよ」

康平

「コロナの影響で日本の実質GDPは大幅減少。企業業績もボロボロなのに日経平均株価はすぐに2万3000円前後まで回復した。どこか違和感はあるね」

コロナ時代でどのような家を持つべきか

─この本のテーマはコロナ時代の「家」と「お金」なのですが、今後はどのような家を持つべきでしょう?

卓郎

「たぶん、それについては康平とまったく意見が合わないと思うんだけど(笑)、私は先の著書でも“トカイナカ”を推奨している。“トカイナカ”は都会と田舎の中間。ずっと住んでいる所沢がまさにそう。なんといっても不動産価格がめちゃくちゃ安い。所沢に引っ越したのが1985年、35年前なんだけど、不動産価格が今とほぼ変わらない。値上がりしていないんだ」

康平

「安いことは確かだよね」

卓郎

「康平はステイホーム中に会食や講演とか、やることなくなったと言っていたけど、私は所沢ですごく忙しかった。所沢の家の近所に畑を借りているんだけど、毎日4時起き。日の出の遅い今は6時起きで畑に出ているよ。人もいないから自動的にソーシャルディスタンスも取れているしマスクもいらない。コロナ禍でもパソコンがあればオンラインでほとんどの会議や打ち合わせはできるから、仕事も基本的に今まで通りにできた。年収200万円時代になったら、不動産価格も安く、自然の中で暮らせて、リモートで大半の仕事ができる“トカイナカ”に家を持つのが理想だよ。東京に住むメリットを感じないもん」

康平

「趣味のB宝館(*所沢にある卓郎氏が趣味で集めたミニカーやお菓子のオマケなどを約12万点所蔵する個人博物館)もあるしね。赤字みたいだけど(笑)」

卓郎

「今は従業員もいなくて家族経営だから赤字は減ったよ(笑)。講演やイベントが全部中止になったから、空いた時間でB宝館の整理をしていた。だから、ステイホーム中は畑と博物館でスケジュールがパンパン。楽しいといえば楽しい時間だった」

康平

「趣味が楽しいのは理解できるから、それはいいんだけど、普通の人が“トカイナカ”で生活するのは、なかなか大変なんじゃないかな。リモートワークだけでたくさん稼げる人ならいいけど、現状それは少数派で、多くの人は物理的に都内に住んでいないと収益機会になかなか出合えない。僕だったら、都心に住むのが予算的に厳しいならば、ちょっと都心から離れるけど23区内、みたいな場所の方がいいと思う。所沢の奥から都心に通うのはやっぱりそれだけで疲れちゃうよ」

卓郎

「いや、所沢は行く気になったらすぐ東京に行けるんだよ。私は“出稼ぎ”って呼んでいるんだけどね(笑)。電車に乗ってしまえば特急なら池袋まで30分かからない。ただ、康平の言うことも一理あって、リモートワーク中心の働き方であっても完全リモートという人は少なくて、週に1、2回は東京のオフィスに出なければいけないケースがあるのも確か。だから勧めているのは“イナカ”ではなく“トカイナカ”なんだ」

コロナ禍だからこそ家の大切さに気づく

「トカイナカに引っ越してくれば、低い収入でも 楽しく暮らせると思うんだけどなあ」(卓郎氏) 「変化するとしてもすぐではなくて、 結局、世代交代が必要なんだと思います」(康平氏)

─「イナカ」と「トカイナカ」をどう定義づけるか、という話かもしれませんね。人それぞれの感覚もあるので、意見が分かれそうです。

康平

僕もコロナ禍で家に対する見方が変わったのは確かなんですよ。コロナ以前の僕は、月曜日から金曜日は夜の会食も仕事とするならば朝から晩まで働いて、家に帰っても風呂に入って寝るだけ。家は風呂があって、安全に寝られればいいという考え方でした」

─それがコロナ禍で変わった?

康平

「ええ。今回は感染症でしたが、地震などでも家から身動きが取れない状況になったら失職するリスクはあるんだな、とリアルに感じました。だから、収入源を複数持ったり、かつその中のいくつかはリモートでできる仕事にするのが理想かも、と思い始めています。そうなると家の存在、大事さが以前とはガラッと変わるんです」

─確かにステイホーム中、リモートワークをしてみたら自宅がいかに仕事に対応していないか気づいた、という意見は目立ちました。

康平

今後は家が職場にもなり得る。そう考えると家を買うということは、より“自分に対する投資”として思えるようになってきました。まあ、若い頃から高いお金を払ってでも都心に住んでいたのは、所沢の実家から都心のオフィスまでの地獄のような通勤ラッシュから逃れるためなので、これも一種の投資ではあったのですが」

卓郎

「あの過酷なラッシュはね、もうないよ。コロナでだいぶ緩和されている」

康平

「でも、またいつ戻るかわからないじゃない」

卓郎

「うーん、たぶん完全には戻らないと思うなあ。最初に触れた住民基本台帳人口移動報告ね、あれで面白かったのは、3カ月の間に東京から流出した人の移動先。ほぼすべてが神奈川・埼玉・千葉なんだ。首都圏以外の地方へはほとんど動いていない。つまり、東京に住んで働いていた人が東京近郊の家に移り始めているんだと思う。だからか、わが家の周辺なんてマンションの建設ラッシュ。『こんな所の物件、買う人いないでしょ』なんて思っていたら、けっこう売れている。なんというか、東京に見切りをつけている人が増えているんじゃないかなあ」

災害が起きたときも安心!?「トカイナカ」のメリット

─おふたりの家に対する考え方は異なるのかもしれませんが、ただ、東京・都心への一極集中に変化があるかもしれない、という点は共通している印象です。

康平

「ただ、変化するとしてもすぐではなくて、結局、世代交代が必要なんだと思います。これまでの価値観やライフスタイルが染みついている人はなかなか変えられない。だけど、僕より下のデジタルネイティブといわれるような世代がメインプレイヤーになる時代が来れば、自然と働き方も変わってくるし、家のあり方も変わります。スマホもろくに使えない、ウェブ会議の設定も自分でできない、そんな人が会社の幹部にいるうちは完全に変えるのは難しいですね」

卓郎

「私はもっと早くその時代が来ると思うな。理由のひとつは災害。首都直下地震がいつ来てもおかしくない時期だし、もし来たら都心のビル街はともかく住宅街の多くは火の海になると予想されている。あるいは各地に大雨をもたらしている線状降水帯。それが東京に居座ったら荒川あたりが決壊して23区の3分の1くらいが浸水してもおかしくない。東京23区は時間雨量75ミリまで耐えられるように対策を進めているけど、今年の梅雨だって、たとえば鹿児島の鹿屋市とか時間雨量100ミリの大雨が降っている。世代交代より前に、こうした災害が東京を襲う気がする」

─親子で都心と郊外の家を共有するといった方法はどうですか?

康平

「うーん、ウチは妻も都心の企業で働いているので今は現実的ではないかなと思います。僕も妻も都心が仕事の拠点なのに、子どもが所沢の保育園、幼稚園、小学校に通っていたら、どうしても無理が生じるでしょうね。子育てしたことある人はわかってもらえると思いますが。ほら、親父は子育てしていないから(笑)」

卓郎

「してたよ!(笑)」

康平

「いやいや、ウチは母親が専業主婦で家にずっといて僕らの面倒を見ていたから、親父は東京でがっつり働けたんだって。まあ親父が悪いということではなく、昔はそれが多数派だった。でも今は共働きが主流。それはぜいたくをしたいんじゃなくて、2人で働かないとかつてのひとりが稼いでいた時代の世帯年収に届かず生活が安定しないから。親父の言うことはわかるけど、現実的に難しい家庭も多いんだよ」

卓郎

「いや、だからこそ『トカイナカ』に引っ越してくれば、低い収入でも楽しく暮らせると思うんだけどなあ」

康平

「今の時代、きちんとした教育を子どもに受けさせようとすれば、昔の子どもより教育費もかかってしまう。やっぱり難しいよ」


卓郎

「それはお金のかかるお受験とかするからだよ」

康平

「と、こんなふうにかみ合わないのもジェネレーションギャップ。さっき言った世代交代の話につながってくる(笑)」

─ただ、いち早く「トカイナカ」に拠点を移し、今はリモート中心で仕事をしている卓郎さんは、年齢とは裏腹に若い世代に近い印象もあります。

康平

「親父は会社員ではなくひとりで仕事しているから、いろいろとキャッチアップはするんだよね。新しいことに対応できないとダイレクトに自分の仕事に影響が出てくるから。その点、大企業だと、それは部下にやらせればいいとなっちゃう」

卓郎

ちなみに『トカイナカ』は災害にも強い点があるんだよ。自然や畑がたくさんあるから自給自足しやすい。お店に頼らなくても周囲に食料があるから、仮に1ヵ月、家の周りが封鎖されたとしても食いつないでいける。東京はそういった点がとても脆弱。お店は配送がストップすれば商品がなくなるし、家も狭いから備蓄機能が低い。大量の食料の備蓄は難しいよね」

康平

「確かにそれは言える。都心で夫婦と子どもひとり、あるいは2人という家族の場合、かなり世帯収入がないと広い家に住むのは難しい。備蓄機能という観点では郊外、『トカイナカ』の家の方が有利だとは思う。都心だと家や周囲がロックダウンして何も援助がなければ1週間くらいで食料が尽きそう」

卓郎

「ちなみにB宝館にも飲料水をたくさん備蓄しているから」

康平

「赤字の趣味というわけじゃないんだね(笑)」

お話しいただいた人
森永 卓郎さん
経済アナリスト
獨協大学教授。専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル)など著書多数。

お話しいただいた人
森永 康平さん
株式会社マネネ CEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。著書に『MMTが日本を救う』(宝島社)などがある。

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