先の見えない世の中だからこそ、自分の判断基準を軸にした家選びを~経済評論家・岸 博幸さんインタビュー~

この記事は12月16日(水)に発売されたARUHIマガジン初のムック本『コロナ時代にどう変わる?知らなきゃ損する家とお金の話』から転載しています。

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リアルな経済活動は来夏以降回復するのではないか

コロナ禍で世界的に落ち込んだ経済状況。もちろん日本も例外ではなく、さまざまな業界から悲鳴が聞こえてくる。しかし、一方で11月にはニューヨーク市場でダウ平均株価の終値が最高値を更新。東京市場でも日経平均株価が29年ぶりに一時、2万6,000円台を回復するなど、金融の世界では対照的な状況となっている。

「コロナが大変だ、ということで世界中で金融緩和をガンガンやった結果、お金が余るといった状態になり、無意味に株価が上がっているんです」

いわば一種の「コロナ(金融)バブル」ともいえよう。ただ、我々の生活で気になるのはやはり日本の実体経済。

「現在、日本の経済状況は当然ながらかなり悪いです。コロナ禍でさまざまな需要が消えてしまったのだから致し方ないですよね。しかし、政府も既に第一次、第二次と補正予算を組み、菅政権も第三次補正予算の編成に着手している。こうした財政出動で、ある程度は失った需要を埋めることができると思います。ただ、多くの人の関心は、では『コロナ後』はいつ訪れるのか、という点にあるでしょう」

岸さんはその時期を来年(2021年)の夏くらいではないか、と予測する。

「理由はまず最近の製薬会社の動きを見ると、来年前半にはコロナ対策のワクチンがある程度出回ると考えられること。さらには延期になった東京オリンピックが開催され、政府が正しい政策対応をすれば回復軌道に乗っていくのではないでしょうか。もちろん、『コロナ後』とはいえ、まったく感染者がいなくなるということでもないでしょうし、予測不能の事態も起こりえるので断言はできませんが」

「正しい政策対応」とは具体的に何を示すのか?

「シンプルに改革を進められるか、です。コロナ禍で顕著になったデ ジタル化の遅れは当然として、コロナ以前から議論されていた生産性の低さ、克服できていないデフレ状況など、そういった問題をいかに克服できるか。コロナで社会の価値観が変化した部分もありますし、世界経済も回復軌道に乗ることを考えれば、日本もほどほどの成長は期待できると思いますよ

なかでも岸さんが重要視するのは「生産性」だ。

「私が話す生産性は、あくまでマクロ経済。経済全体の生産性が低 いと社会全体が厳しくなる、という視点です。ただ、改革があまり進まず経済全体が厳しい状況が続いたとしても、すべてがダメというわけではない。全体が厳しくても地域経済、各自治体がそれぞれの経済の生産性を上げていけば、そのエリアの潜在成長率は高まっていく。それは地域ではなく、各産業、各企業に当てはめても同じことが言えます」

それは「個人」にも当てはまる。

経済学上、個人の賃金は生産性の高さに比例して上がっていくんですよ。今の日本はまだ規今の日本はまだ規制が多いので実感しにくいかもしれません。ただ、近年は年功序列など従来のシステムが崩れ、新しい働き方もどんどん可能になっています。要は個人レベルできっちり生産性を上げている人はちゃんと稼ぐことができる。だから政治や経済全体に不安があっても、みんなの将来が暗いということはなく、地域、産業、企業、個人ごとに成果を出しているのであれば、それほど悲観的になる必要はないのではないでしょうか」

家を持つことは将来の不安を払拭する手段のひとつ

では住宅購入に関わる不動産市場の見通しはどうだろう。コロナ以前はオリンピック後の暴落などもささやかれていた不動産市場だが、変化はあるのだろうか。

コロナ以前から不動産価格はオリンピック後にドカンと下がる、といった見方がありましたが私は否定的です。理由は、不動産価格はイベントに連動しているわけではなく、金融市場に連動しているから。そう考えると現在は世界的に異常な金融緩和をしていて、しかも、これは当分の間、5年、へたすれば10年くらい続く可能性もある。金融市場が緩和基調の場合、不動産価格は下がりません。だから、オリンピック後の暴落もないと考えています

不動産市場関連でいえば、人口減少もあり日本の空き家率が高まっていることなどを理由に「無理をして今、住宅購入をする必要はない」といった意見も耳にする。だが、岸さんは、それも違うという。

「確かに人口が急減して空き家が目立つエリアはありますが、一方で東京を筆頭に都市圏にはまだまだ人間がいる。そういった地域特性を無視した意見なんですよ。ある程度の資産性も担保できる都市圏の物件、あるいは資産性に関係なく自分が快適に過ごせると納得できる物件ならば、住宅購入は大事な投資だと思います

理由のひとつは先の読みにくい時代の中で、将来も住む場所があることが安心につながるからだ。

「老後までにどれくらい稼ぎたいかという目標や見通しはあっても、どうなるかは誰にもわかりません。そう考えれば老後の収支におけるコストは減らした方が何かと安心でしょう。また住まいにかかるお金をある程度、予測できるのも利点。賃貸の場合、今の日本はデフレですが、仮に将来、インフレになれば家賃相場が現在より上がる可能性もありますから」

住宅購入はよく調べて自分の判断で決めるべき

「ただ、私自身は住宅の資産性に関しては、どこまで追求するか本人次第だと思うんです。投資ではなく自分が住むだけの家で、その住み心地や暮らしに満足していれば、極端な話、資産性を追求する必要はないじゃないですか。資産性はあればラッキーくらいの気持ち。つまり、住宅についてはその人の価値観やライフステージで求めるものや考え方はまったく変わってくる。その判断を自分でできるようにしておくのが大事です」

個人の生産性次第で収入が変わってくる時代であれば、なおさら理想的なライフスタイルもその人次第となるはず。

「収入は個人が自分で生産性を上げられれば上がっていく、と言いましたが家の購入についても同じ。自身の働き方や暮らし方のプランを自分で考え、公的な購入支援の有無や自治体ごとのサービス、施策などの情報も自分で取りに行き、自分の資産形成も考えたうえで購入を検討すべきです」

いくら評価が高い物件でも、自分とミスマッチであれば価値はないに等しい。

「さらにITバブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災、そして今回のコロナと、10年に1回くらいは何らかの災害や想定外の出来事も起きています。そういったリスクも勘案しなければいけないでしょう。そのうえで自分にとって買うべき価値がある、買っても大丈夫という家なら多少高くても買っていいと思いますよ」

岸 博幸さん

経済評論家
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
小泉政権では経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などの秘書官を歴任し、不良債権処理、郵政民営化などの構造改革を推進。現在は経済評論家としてさまざまなテレビ番組でコメンテーターを務めるほか、avexの顧問なども兼任。

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(最終更新日:2020.12.28)

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