確定申告のシーズンになると注目される「医療費控除」。1年で使った「医療費」が一定額以上になった場合に確定申告すると、所得控除が受けられ、納めるべき税金が少なくなる制度です。医療費控除の対象となる「医療費」には、治療費や薬代などだけでなく、通院のための交通費も含まれます。医療費控除の制度の対象となる交通費について見てみましょう。
家族分の医療費も対象になる「医療費控除」
まずは、医療費控除のしくみを確認しておきましょう。
医療費控除とは、納税者本人やその人と生計を一にする配偶者その他の親族のために、1年間に支払った医療費がある場合に、下の式で計算した金額を医療費控除額(最高200万円)として、所得金額から差し引くことができる制度です。
所得税の税率は所得額が大きいほど高くなるので、家族の中で税率の高い人(所得の多い人)が、その他の家族の分の医療費もまとめて申告すると、節税効果が高くなります。
下の式を見るとわかるように、所得の合計額が200万円以上の場合は、対象となる医療費の額が10万円を超えていないと、医療費控除はできません。
医療費控除額 = その年に支払った医療費の総額 - 保険金などで補てんされる金額 - 10万円
※所得の合計額が200万円未満の場合は所得の合計額の5%が医療費控除額となる
さて、この医療費控除の対象となる「医療費」は、いわゆる医療費として思いつくような診察料や入院費、薬代等だけでなく、通院のための交通費も含まれます。ただし、どんな交通費でも対象になるわけではなく、「医師等による診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要な費用」が対象となります。
医療費控除の対象となる交通費について具体例を見てみましょう。
公共交通機関に支払った交通費は、医療費控除の対象
通院のために電車やバス等の公共交通機関に支払った交通費は、医療費控除の対象となります。電車やバス等を日常的に利用する場合には領収書は発行されないので、支払う都度、利用日や行き先の病院等、交通機関名、実際に支払った金額を記録しておき、申告のときに困らないようにしておきましょう。
交通系ICカードを利用した場合と切符を買った場合では、端数の関係で金額が異なる場合がありますが、控除の対象となるのは実際に支払った金額です。ICカードの使用履歴を券売機で印刷しておくと、記録しやすいでしょう。
また 、通勤・通学定期券を所持している場合、定期分の経路の交通費は医療費控除の対象外となります。
「クルマ」による通院費は、原則適用対象外
「クルマ」で通院することもよくありますが、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代は医療費控除の対象外です。
タクシーで通院する場合のタクシー代は、原則的には医療費控除の対象外です。
ただし、病状から見て急を要する場合や、電車・バス等の利用ができない場合には、その全額が医療費控除の対象になります。
たとえば、突然の陣痛でタクシーを利用して入院した場合のタクシー代は、医療費控除の対象となります。
医療費控除の対象となる交通費は、案外幅広い
そのほかの通院のための「交通費」も、「医師等による診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要な費用」という条件を満たせば、原則として医療費控除の対象となります。
〇付き添い者の交通費が、医療費控除の対象になることも
例えば、幼い子どもは一人で通院することができないので、付き添い者は、「医師等による診療等を受けるため直接必要」ですよね。したがって、患者である子の分だけでなく、付き添いの親等の交通費も医療費控除の対象となります。
ただし、子どもが入院していて、親が付き添うために通院する場合の交通費は医療費控除の対象にはなりません。患者本人は入院していて、通院するわけではないからです。
〇医師の訪問診療のための送迎費用も医療費控除の対象
病状によっては、患者が通院するのではなく、医師の訪問診療を受ける場合もありますね。その場合の医師の送迎費用も、医療費控除の対象となります。
〇遠隔地の病院で診療を受けるための旅費も控除対象になることも
遠隔地の病院でなければ治療ができないような病気にかかり、主治医の指示により遠隔地の病院で治療する場合に、自宅からその病院への旅費も、医療費控除の対象となります。ただし、近所の病院でも治療が可能な病気であれば、遠隔地の病院への通院費用は「医師等による診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要な費用」とはみなされず、医療費控除の対象とならない場合もあります。
×実家で出産するための帰省費用は、控除対象外
妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用やそのための通院費用は医療費控除の対象になります。また、前述したように、出産のための緊急事態でバスや電車の利用が難しく、タクシーを利用して入院した場合には、タクシー代も医療費控除の対象となります。
ただし、実家で出産するための帰省費用は、控除対象とはなりません。
医療費控除を受けるには、確定申告が必要
医療費控除を受けるには、通常は確定申告の不要な年末調整を受ける会社員等であっても、確定申告が必要です。申告の際は「医療費控除の明細書」を作成して、申告書に添付して提出します。医療費控除の明細書は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
医療費控除の明細書に記入するのは、以下の5項目です。通院のための交通費は、「その他の医療費」の区分で記載します。
1)医療を受けた方の氏名
2)病院・薬局などの支払先の名称
3)医療費の区分(診療・治療/医薬品購入/介護保険サービス/その他の医療費)
4)支払った医療費の額
5)4)のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額
まとめ
最後に今回紹介した、医療費控除の対象について一覧表にまとめると以下の通りとなります。
大きなケガや病気をしなければ、家族の分を合わせても治療費や薬代だけで年間の医療費が10万円を超えることはあまりないかもしれません。でも、通院のための交通費も合わせれば、まとまった金額を医療目的で支払っているご家庭もあるのではないでしょうか。通院の際には医療費控除を受ける可能性も考えて、通院の際の交通費について記録しておき、「医療費控除の明細書」にスムーズに記載できるようにしておきましょう。
(最終更新日:2021.04.16)