将来マイホームの住み替えを考えている人、所有している不動産をより高値で販売したい人は、「ホームステージング」について知っていて損はありません。ホームステージングとは、海外で広く実践されている不動産価値を上げるための手法です。日本でも広まりつつあるその技術と効果を、具体例を挙げて説明します。
ホームステージングとは?
不動産売買を加速する手法として注目されているホームステージング。日本ではまだあまりなじみのない言葉ですが、いわゆる「おうちのドレスアップ術」です。できるだけ早く、より高く不動産を売るために、さまざまな演出を行います。特に中古物件の売買に真価を発揮する点に注目です。
アメリカ発祥のホームステージング
ホームステージングの概念は、アメリカで生まれました。アメリカでは、購入した家を手入れして不動産価値を上げ、住み替えの時期が来たら資産として売却するという考え方が主流です。そのため、リフォームをしたり、お気に入りの家具やインテリア小物をしつらえたり、家をドレスアップしていきます。こうした演出方法を体系的にまとめたものがホームステージングです。
実は、この手法は日本の住宅展示場にも取り入れられています。モデルハウスにはソファやテーブルが置かれ、来場者がおしゃれで快適な生活をイメージできるよう、演出されていますね。しかしそこには、山になった洗濯物や、玄関に散らばる靴、こまごまとした生活用品は置かれていません。
ホームステージングを取り入れることで、家をより素敵に見せ、購買者の意欲を高めることができるわけです。
進化するホームステージングの可能性
人口が減少し、都市部でもいずれ「家余り」の状態が来ると予測される中、ホームステージングは、注目の技術といえるでしょう。しかし、ホームステージングは売買のための演出法にとどまらず、家を片付け、整理し、よりよく暮らす(Quality of Lifeの向上)手法としての可能性を持っています。
いずれは売却することを見越して、所有者がホームステージングで家の中の片付けや整理、リフォームまで行い、手放すときまでよりよい生活を送る、といった活用の仕方もできます。
海外では重視されていませんが、日本では、住宅に傷を付けることを嫌う傾向があります。そのため、日本式のホームステージングでは、演出のために釘を打つなど家を傷つけない、家具を運び込む際も床や壁を汚さないようするなどの配慮がなされています。そのほか、和洋折衷の間取りやコンパクトな居住空間など、海外との生活スタイルの違いを考慮した、日本らしいホームステージングが確立されています。
ホームステージングを利用するメリット
ホームステージングを実施するのは、不動産の売り手(売り主)であることが多いようです。費用についても、本来であれば、売り主が負担するのが普通ですが、不動産仲介会社が負担するケースもあります。なかには、売却の際に無料のサービスとして提供してくれる会社もあるようです。
逆に言えば、それだけの費用を払っても実施するメリットがあるということになります。
売り手にとってのメリット
売り手側にとって、より早く、より高く不動産を手放せることがホームステージングの最大のメリットです。
不動産仲介の事業をしている法人を対象とした調査によれば、ホームステージング後の内覧者の数は増加傾向にあるとのこと。「大幅に増えた」「わずかに増えた」を合わせると、80%以上のケースで内覧者数が増加しています。
また、売却期間は短くなる傾向にあります。「大幅に短くなった」「わずかに短くなった」を合わせると、90%以上のケースで短くなっています。
多くの内覧者が現われ、売却期間も短くなるということは、値下げの必要が少なくなり、結果的により高く売ることができるというわけです。
具体的な成約までの期間は、以下の通り。3ヵ月以内に80%が成約しています。
成約までの期間が短縮される理由は、ホームステージングが買い手の購買意欲を高めてくれるからだと考えられます。
使用感のある物件は、買い手のチェックが厳しくなりがちですが、ほどよく演出することで物件に対する印象が格段によくなります。
買い手にとってのメリット
ホームステージングを実施することで、買い手側にもメリットがあります。何といっても、購入後の生活を具体的にイメージできることが最大のメリットです。
家に何もない空間は、とても広く見えるものです。しかし、荷物を運びこむと、意外にスペースが足りなかったり、天井が低く見えたりします。メジャーで測るだけでは、空間の感覚は分かりにくいものですが、テーブルやテレビなどが置かれていると、実感しやすくなります。
また、ホームステージングの手法では、住宅の優れた点をより強調する演出がとられます。購入希望者は居住スタイルのヒントを得ることができ、入居後の満足度の向上につながります。
新築物件であれば、不動産会社がイメージ作りのためにモデルハウスやモデルルームを作っていることがほとんどです。しかし、中古物件ではこうした販売促進のための手法が用いられるケースを見かけることは稀です。
ホームステージングは、生活のイメージをふくらませ、購入前と購入後のイメージのずれをより少なくしてくれます。
ホームステージング実例【空き物件】
すでに退去が済み、空室になっている物件は、生活のイメージがわきにくいという問題があります。この場合、ホームステージングを行うことにより、購入希望者の意識を高めることができます。
資産価値をワンランクアップさせる演出
画像提供:株式会社ホームステージング・ジャパン
こちらは、2013年以来、年間2,000件以上に及ぶ物件のホームステージングを手がける、株式会社ホームステージング・ジャパン(代表取締役 クハルスキー・ルーカス)による事例です。上質な家具やインテリア、観葉植物などを設置することで、空間のクオリティが向上していることがわかります。
ホームステージングは、不動産の資産価値を高める技術です。特に立地や建物の状態などが悪くないのに、買い手が見つからず悩んでいるケースなど、高い効果が期待できると言えるでしょう。
また、ホームステージングが「売れる物件」をつくる作業であるという点も重要です。購買層の求めるイメージを的確に捉え、よりよい印象が残るような演出を施します。そのため、居住者のためのホームステージングとは異なる視点が必要になります。
物件売買のための複合的サービスを用意している企業には、内覧用の家具やインテリア小物の貸し出しサービスもあります。それらを買い手が気に入って譲り受けたいという場合は、そのまま購入できるケースもあるようです。
加えて、株式会社ホームステージング・ジャパンのように、ステージング効果をより高める、360度VR撮影などの撮影サービスが利用可能な場合もあります。
ホームステージング実例【居住中物件】
続いて、居住中の物件のホームステージングの実例を見てみましょう。
散らかった印象のリビングがスッキリと変身
画像提供:日本ホームステージング協会
こちらは、一般社団法人 日本ホームステージング協会会員による事例です。ホームステージング前(上)とホームステージング後(下)を比較してみてください。生活感に満ちていた空間が見違えるように生まれ変わり、物件本来の魅力をうまくアピールできているのが分かります。
ホームステージングでは、専門家の視点で、居住者が意識しにくい優れた点を強調した演出が施されます。日本ホームステージング協会代表理事の杉之原冨士子さんによれば、ホームステージングのポイントは、「記憶に残るフォーカルポイントをつくること」にあります。フォーカルポイントとは、視線が集まる場所のこと。居住中ホームステージングとは、売主の生活感や個性的なものを片付けて、フォーカルポイントとなる小物で空間のイメージアップを図り、内覧者の目をひきつけ、よりよい印象を与える手法」と言えるでしょう。
特に国内のケースでは、多くの人が苦手とする片付けが、空間演出の第一歩と言えるかもしれません。これも、実際の現場であがった声をもとに杉之原さんが提案している日本的なスタイルの一つです。
ホームステージングで適切な演出を施すことができれば、居住中の家庭に他人を招くことに対する抵抗感が薄まります。結果的に、居住中でも多くの内覧を受けることができ、販売促進につながるのです。
ホームステージングでスムーズな住み替えが可能に
売り手にとって、長く住んできた思い出の家が、安く見積もられて売られていくのは寂しいもの。自分たちが納得して家を手放すためにも、ホームステージングという手法があることを知っておいて損はなさそうです。
人生100年時代といわれる昨今、ライフステージの変化とともに住み替えをする人も増えています。ホームステージングを利用することで、より短期間で、資産価値を大幅に下げることなく、住み替えられる可能性が高まるでしょう。
大切な不動産をより資産価値のあるものにするために、ぜひ覚えておきたいですね。
取材協力および画像提供元
一般社団法人日本ホームステージング協会
株式会社ホームステージングジャパン