住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2020年7月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
新型コロナウイルスの感染拡大が景気に与えたダメージは甚大です。6月5日に内閣府が発表した4月の景気動向指数の速報値は前月比7.3ポイント低下の81.5と、統計を開始した1985年1月以降で最大の下落幅となっています。
しかし一方で各国の経済活動が再開されたことにより、投資家心理が上向いたことで比較的安全な資産とされる債券には売りが出て、債券価格が下がり長期金利は上昇しています。
このまま、実体経済とは乖離して長期金利は上昇していくのか?【フラット35】金利はどうなっていくのか?わかりやすく解説します。
7月の【フラット35】金利予想の前提
7月の【フラット35】金利を予想するにあたって、わたしは6月20日ごろまでの長期金利の動向を予想しています。
【フラット35】金利は毎月の20日ごろに住宅金融支援機構が発表する機構債の表面利率によって決まります。金利を予想する前提としてこの機構債の表面利率とは何か?を理解しておく必要があります。
住宅ローンの【フラット35】を融資するのは住宅金融支援機構という国の機関なのですが、わたし達が融資を申し込む窓口については、民間の銀行やモーゲージバンクなどが代行する形をとっています。そして、わたし達が住宅ローンとして借りるお金は、住宅金融支援機構が金融市場から調達して貸しているのです。
典型的な例として「買取型」という【フラット35】のスキームを図にすると以下のようになります。
住宅金融支援機構が民間金融機関からフラット35の債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて「機構債」という形で販売するという仕組みになっています。
機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちにとって日本の住宅ローンの債権は安全資産と認識されているため、その表面利率は国が発行する債券=10年国債の利回りに連動する傾向があるのです。
そのため、7月の【フラット35】金利は6月19日ごろまでの長期金利の動向が影響するのですが、6月上旬の時点ではその長期金利が上がってきているのが心配な面です。
不況なのに長期金利がなぜ上がるのか?
経済活動が再開されたとは言っても、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えこむために世界が負ったダメージは甚大なものです。それなのになぜ金利が上がってしまうのでしょうか?教科書的には、不況下では安全資産の債券(日本国債)が買われ、債券価格が上がり利回り(長期金利)が下がるというのがセオリーです。
コロナショックから直近までの長期金利(日本の10年国債利回り)と日経平均株価の推移をグラフにしました。
3月の「コロナショック」で株価の下落とは逆方向に長期金利が上昇してしまったのが発端です。コロナショックではリスク回避が行きすぎて安全資産まで売りに走ったために、債券価格が下って長期金利が上がるという現象が起きたのです。
これは一時的なショック状態であり、数日で長期金利は下がったのですが、緊急事態宣言の間は外出自粛によって取引が活発に行はわれなかったこともあり0%で推移しました。コロナショック前2月18日ごろの長期金利は-0.05%でしたが、このコロナショックを境としてベースが上がってしまったのです。
長期金利が決まる仕組みは債券価格の取引相場によります。コロナショック後も債券価格が安くなっているということは、リスク回避型の投資家にこのショック状態が残っていて債券を手放しやすくなっているのが理由です。
そして、経済活動が再開されたことでリスク選好型の投資家が安全資産の債券を売り、株を購入する動きになったことで、さらに債券価格が下がって金利が上がります。
このように、リスク回避型とリスク選好型の両方のタイプの投資家が債券を売りやすい市況となっていることが、6月上旬に見られた長期金利の主な上昇要因なのです。
米FRBが2022年までゼロ金利政策を維持する方針を表明
そして6月10日には、米連邦準備理事会(FRB)が2022年末までゼロ金利政策を継続する方針を示しました。これを受けて翌日の米国市場は、リスクオンの修正で株安となり債券が買われて長期金利が低下しました。
日本の長期金利はベースが低いので動きに乏しいですが、米国の金利低下が波及して再び下がり始めています。
中央銀行の政策表明により一夜にして金利動向が反転する背景には、新型コロナウイルス感染症の第2波に対する根強い不安があり、それが投資家を極端な行動に走らせているのだと思います。
実際の長期金利の推移と【フラット35】金利
過去の長期金利と【フラット35】金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
【フラット35】の金利は毎月20日ごろに発表される機構債の表面利率によって決まるため、ちょうど20日ごろの長期金利の影響を強く受けます。なので、機構債の表面利率が発表される20日ごろの長期金利がどのくらいの水準になるか?が予想のポイントになります。
直近では、6月の【フラット35】が決まった前日の長期金利の終値は5月の0.01%から0.01ポイント下がって0.00%となっています。そして、【フラット35】の金利も5月の1.30%から0.01ポイント下がって1.29%となっています。
つまり7月の【フラット35】の決まる20日ごろの長期金利が6月の0.00%からどれだけ上がるか?or下がるか?というところが予想のポイントになります。前述したように、目下の動向としては非常に不安定なのが心配なところです。
まとめ
この記事では執筆時点(6月上旬)に入手可能な公開情報を基礎として予想を立てていますので、その後の状況の変化によって金利動向が変化することは十分にあり得ます。
実体経済の復活はまだまだ先であり、今の金利上昇は期待だけの絵に描いた餅なのですが…フラット35の金利はその時の長期金利の影響をモロに受けます。引き続き、日々の金利動向に目を配っておくことをお勧めします。
今後、住宅ローンの実行までの間に、「どんな事件が起こり、それに金利がどう反応するのか?」を正確に予想することは非常に困難です。ある程度複数の金利タイプで審査を出しておき、想定外の事態に対する保険としてください。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。
(最終更新日:2020.11.17)