所得税や住民税の負担を軽減できる制度として代表的なものに「住宅ローン控除」「ふるさと納税」がありますが、上手に利用すると大きな節税効果が生まれます。控除の仕組みと効果的に控除が受けられる活用方法を確認しておきましょう。
「住宅ローン控除」はまず、所得税から控除される
まずは、「住宅ローン控除」「ふるさと納税」のそれぞれの控除の仕組みを確認しておきましょう。
「住宅ローン控除」は、個人が住宅ローンを利用して住宅を購入または増改築した場合に、年末の住宅ローン残高をもとにして算出した金額が所得税から控除できる制度です(図表1)。
図表1 住宅ローン減税の概要
所得税から控除しきれなかったぶんは、翌年の住民税からも一部控除されます。
住宅ローン控除を受ける初めの年は確定申告をする必要がありますが、2年目以降は、確定申告の必要のない会社員等は年末調整で控除を受けることができます。
住民税からの住宅ローン控除額は次のいずれか小さい額
1.所得税の住宅ローン控除可能額のうち、所得税から控除しきれなかった額
2.所得税の課税総所得金額等の額×5%(最大控除可能額9万7,500円)
※平成26年4月1日以後入居で、住宅の取得費用に含まれる消費税額が8%または10%の場合は、所得税の課税総所得金額等×7%(最大控除可能額13万6,500円)
「ふるさと納税」の利用方法は2通り
一方、「ふるさと納税」は、任意の自治体に寄附したお礼として特産品などを受け取ることができ、実質的な自己負担2,000円で寄附金額に応じて所得税・住民税の控除が受けられる制度です(図表2)。
所得税を対象とするふるさと納税の控除額は、総所得金額等の40%が上限、住民税の控除額(基本分)は総所得金額等の30%が限度です。
住民税の特例分は「ふるさと納税額-2,000円×(100%-10%〔基本分〕-所得税の税率)」で計算されますが、この金額が住民税所得割額の20%を超えると、所得税、住民税(基本分・特例分)の3つの控除額の合計額は「ふるさと納税額-2,000円」の全額を控除できなくなり、実質負担額が2,000円を超えることになります。
「ふるさと納税額-2,000円」の全額が控除される限度額の目安は、総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」で確認できます。
所得税からの控除を受けるには、年末調整を受けた会社員等であっても、確定申告をする必要があります。
図表2 ふるさと納税で受けられる控除額
確定申告をせずに、ふるさと納税によって「ふるさと納税額-2,000円」の控除を受けるもう一つの方法に、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」というものもありますが、利用するには図表3のような条件を満たす必要があります。
したがって、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」は、確定申告が必要な自営業者はもちろん、通常は年末調整を受けることで確定申告不要な会社員であっても、住宅ローン控除を受ける初めの年や医療費控除を受ける年など確定申告を行う年には、利用することができません。
「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を受けられる条件
・確定申告の不要な給与所得者等であること
・ふるさと納税先の自治体数が5団体以内であること
・ふるさと納税を行った各自治体に申請すること
住宅ローン控除を受けている人が、ふるさと納税を利用すると?
住宅ローン控除を受けている人もふるさと納税を利用できますが、住宅ローン控除額が大きかったり、もともとの納税額が少なかったりすると、控除しきれない場合があります。
そもそも、納めるべき税額以上の控除は受けられないので、前年までの所得税額・住民税額からその年の税額の見当をつけておきましょう。また、どれくらいふるさと納税を行うかを考える前に、年末のローン残高がいくらになるかをローン償還表などで確認して、住宅ローン減税の控除限度額も確認しておきましょう。
両方の控除を受ける場合の影響は、ふるさと納税の控除の手続きを確定申告で行うか、確定申告せずに「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用するかで異なります。条件を満たすことができるなら、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用したほうが、住宅ローン控除をフルに活用することができます。
確定申告する場合
確定申告を行って、住宅ローン控除やふるさと納税の控除を受ける場合は、次のような順番で控除されます。
図表3 住宅ローン減税&ふるさと納税の控除の5ステップ(確定申告する場合)
Step1でふるさと納税の所得控除が行われることにより、所得税の計算のもととなる課税総所得額が小さくなることで、所得税・住民税が少なくなります。
所得税が少なくなると、Step3で所得税から差し引ける住宅ローン控除額が少なくなり、Step4で住民税から差し引く住宅ローン控除の残額が大きくなります。住民税から差し引ける住宅ローン控除額には上限(課税所得金額の7%/最大13万6,500円)があるため、住宅ローン控除額を最大限に控除できない場合が出てきます。
最後に、Step5で住宅ローン控除後に住民税の残額がなければ、ふるさと納税による控除は受けられません。また、住民税に残額がある場合でも決められた上限以上の控除は受けられないので注意が必要です。
「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用する場合
「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用する場合には、ふるさと納税の控除額は所得税から控除されることはなく、翌年度の住民税から全額を差し引かれることになります。したがって、ふるさと納税を行っても所得税額への影響はないため、確定申告する場合に比べて、所得税から差し引ける住宅ローン控除額は多くなります。
ふるさと納税を行うことによって、適用できる住宅ローン控除額が少なくなるということはありません。確定申告をしない会社員等であれば、確定申告するよりも「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用したほうが、住宅ローン控除をフルに生かすことができます。
一方、所得税から住宅ローン控除額を引ききれず、住民税からも住宅ローン控除額を差し引いた結果、住民税額が残らなければ、ふるさと納税による控除は受けられません。住宅ローン控除後の住民税額を考慮したうえで、ふるさと納税額を検討しましょう。
「iDeCo」や「医療費控除」と併用する場合の注意点
住宅ローン控除やふるさと納税は、個人型確定拠出年金(iDeCo)や医療費控除とも併用できます。これらの所得控除を受けると納めるべき所得税・住民税額が減るので、住宅ローン控除額を十分に活用することができなかったり、ふるさと納税の自己負担2,000円で寄附できる上限額が低くなったりする場合があります。
ふるさと納税サイト等のシミュレーションでは、各種控除額を入力して試算できるものもあるので活用して自己負担2,000円で寄附できるふるさと納税額を確認するとよいでしょう。
(最終更新日:2021.04.27)