住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2020年4月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
こんにちはブロガーの千日太郎です。新型コロナウイルス(以下、新型肺炎)の感染拡大リスクで米長期金利が市場初の1%割れとなり、米連邦公開市場委員会(FOMC)は3日に0.5ポイントの緊急利下げを決定しました。
緊急利下げは2008年10月のリーマンショック以来ですが、3月の【フラット35】金利は下がったとは言いながら、歴史的な米利下げと比べると小さな下がり幅でしたね。
当初は3月の完成引き渡しを予定していた人の中には、新型肺炎の影響で物件の引き渡しが4月に延びる人が出てきています。そうなると、住宅ローンの実行も4月になり、適用金利は4月のものになります。
この情勢下で特に気になる4月の【フラット35】はどうなるのか?わかりやすく解説します。
新型肺炎の感染拡大と長期金利の動向
こちらは2019年12月から日米長期金利の推移をとったグラフです。特に米国の長期金利が20日あたりを境として大きく低下しています。これは新型肺炎のリスクを大きく見た投資家たちが株式を売却し安全資産の債券を買ったためです。
さらに2月17日に米アップルが業績予想を下方修正したことがきっかけとなり、世界経済への実害が具体的に認識され、さらに本格的なリスクオフへと動きました。同時に各国への感染者の拡大が明らかとなり、3月に入ってからの米国の長期金利は史上初で1%を割り込み、0.7%台まで下がっています。米長期金利がここまで急降下するのはこれまで見たことがありません。
日米中央銀行の対応
この長期金利の下落を受けて3日に米FOMCが0.5ポイントの緊急利下げを行いました。これは2008年のリーマンショック以来のことですが、その政策金利の推移をグラフにしてみました。
一度に0.5ポイント下げるということがどれほど異例のことであるかが分かりますよね。リーマン後に米政策金利は2015年12月から上昇に転じましたが、日本の政策金利はむしろさらに下がりマイナス金利となって今に至ります。
今後どれだけ不況が続くかは不透明ですが、今回の新型肺炎による景気後退リスクは、中央銀行の対応レベルとしてリーマンショック級の一大事ということです。
市場関係者の間では17、18日の米FOMCでさらに0.25%の追加利下げがあるのでは?と期待されており、ドル安・円高のリスクが高まりやすい状況にあります。そうなってくると日銀の黒田総裁が円高にどう対応するかにも注目したいところです。
この日米中央銀行の動向が、20日ごろに発表される住宅金融支援機構の機構債の表面利率に多大な影響を与えることでしょう。
長期金利の動向から【フラット35】の金利が予想できる訳
【フラット35】の金利を予想するにあたり、20日ごろに発表される住宅金融支援機構の機構債の表面利率というものが何なのか?を理解しておく必要があります。
住宅ローンの【フラット35】を融資するのは住宅金融支援機構という国の機関なのですが、わたし達が融資を申し込む窓口については、民間の銀行が代行して行う形をとっています。そして、わたし達が住宅ローンとして借りるお金は、住宅金融支援機構が金融市場から調達して貸しているのです。
典型的な例として「買取型」という【フラット35】のスキームを図にすると以下のようになります。
住宅金融支援機構が民間金融機関からフラット35の債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて「機構債」という形で販売するという仕組みになっています。機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を国が取り扱う安全な債券という考えで購入します。そのため、表面利率は国が発行する債券=10年国債の利回りに連動する傾向があるのです。
4月の【フラット35】金利は3月20日ごろに発表される機構債の表面利率によって決まります。それに大きく影響するイベントとして米政策金利の追加利下げがあるのか?日銀はどう対応するのか?がすごく大事なのです。
実際の長期金利の推移と【フラット35】金利
過去の長期金利と【フラット35】金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
【フラット35】の金利は毎月20日ごろに発表される機構債の表面利率によって決まるため、ちょうど20日ごろの長期金利の影響を強く受けます。なので、機構債の表面利率が発表される20日ごろの長期金利がどのくらいの水準になるか?が予想のポイントになります。
2月末に長期金利が大きく下がったのに、3月の【フラット35】の金利が大して下がらなかったのは、長期金利が下がり始める前の段階で機構債の表面利率が決まり発表されたからです。
執筆時点で長期金利は-0.1%から-0.15%のあたりを行ったり来たりしている状態です。この水準のまま機構債の表面利率が発表されれば3月より4月の方が低金利になるでしょう。さらに前述したように日米中央銀行の動向とそれが市場にどう受け止められるかによっても大きく変動しそうです。
まとめ
【フラット35】については、3月20日ごろの長期金利の水準で4月の金利がほぼ決まります。そして、さしあたり2週間という期限であらゆるイベントを自粛している中でも感染者は日々増え続けています。
今から短期間に事態が好転することはまず想定できませんから、少なくとも【フラット35】については下がるという考え方が合理的でしょう。
しかしそれでも予想は予想であり、実際の金利動向が異なってくる可能性は大いにあり得ることです。今後、住宅ローンの実行までの間に、「どんな事件が起こり、それに金利がどう反応するのか?」を正確に予想することは非常に困難です。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。
(最終更新日:2020.11.17)