いっつも「なにを描いてるか分からない」って言ってた瞳にプレゼントです。私が有名な画家になるまで大切に取っておいてね。
結衣から残されたメッセージはあまりに短かった。しかし、よくみると何度も書き直したような跡が紙に残っている。瞳は目頭が熱くなるのを感じながら、細い指先でラッピングされた袋のリボンを丁寧に解いた。そして結衣が瞳へ残していったものと対面する。それは額縁に入った一枚の絵。
描かれていたのは、コーヒーを淹れている瞳の姿だった。
「こんなのいつの間に……」
瞳は声を震わせながら絵をなぞる。いつも奇抜な色合いをしている結衣の絵とは違う、そのままを描いた絵だ。瞳は絵に触れた瞬間、初めて結衣の絵を、見ている世界を理解する。
もしかしたら同じ景色を見ているつもりでも、二人の目には違ったものが映っているのかもしれない。瞳はずっとそう思っていたが、それは間違いだったのだ。二人が並んで見ていた景色は確かに同じ色をしていた。修学旅行の時に見た夕日も、合唱コンクールで優勝して一緒に流した涙も、二人の思い出は全て同じ色だった。
その事実に気づいた時、ずっと我慢していた結衣への思いが溢れ、瞳は声をあげて泣いた。結衣にとっての優しさがコーヒーであったように、それは瞳にとってかけがえのない優しさだったのだ。
泣いている瞳の姿が、コーヒーを飲んで涙をこぼした結衣と重なる。正反対な二人は、お互いに与えあった優しさで同じ色に染まっていった。
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