久々の晴天。
肩書きすら無くなった私は丘の上の霊園地帯を目指す。どうしても、大西さんには直接、謝らなくてはならない。
すっかり見晴らしのよくなってしまったお庭。ちょうど、縁側に大西さんは腰掛けていた。私に気づくと、例の微笑みで迎えてくれた。
「本当に、すみませんでした」
「いいの。むしろあなたにはお礼をしたいくらいなんだから」
隣で今にも泣きそうな私だったが、思わず顔を上げた。
「お礼?」
「そうよ。あのケヤキね、本当のこと言うと、すっごい邪魔だったの。だってどんなにお天気に恵まれても、あのケヤキのせいで光が入りこまないでしょう?でも、保存指定樹林だから、無下には扱えないし、ねえ?」
大西さんは、そう言うといたずらっぽく笑った。確かにそうだ。木漏れ日なんて、所詮は木陰の一部だ。遮られることのない陽光が縁側に、庭に、町に降り注ぐ。
「お礼、何がいいかしらねえ」
そうですねえ。私に残ったのは実家暮らしという事実だけだ。もしあのアホな先輩の説を信じるなら、実家暮らしでいる限りライターとして再起できるかもしれない。
私は塀の向こうから覗く霊園を眺めながら考える。「この辺り、かっこいい卒塔婆はないですかねえ」とは、言えなかった。
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