【ARUHIアワード12月期優秀作品】『この木漏れ日がすごい』洛田二十日

 特設ページはもちろん閉鎖。ただいくら発起人とはいえ騒動を故意に誘発したわけではないので刑事責任を取らされることはなく、編集長も友人も許してくれた。許してくれたが、仕事はクビ。今度こそ、私は廃業。
 
 久々の晴天。
 肩書きすら無くなった私は丘の上の霊園地帯を目指す。どうしても、大西さんには直接、謝らなくてはならない。
 すっかり見晴らしのよくなってしまったお庭。ちょうど、縁側に大西さんは腰掛けていた。私に気づくと、例の微笑みで迎えてくれた。

 「本当に、すみませんでした」
 「いいの。むしろあなたにはお礼をしたいくらいなんだから」
 隣で今にも泣きそうな私だったが、思わず顔を上げた。
 「お礼?」
 「そうよ。あのケヤキね、本当のこと言うと、すっごい邪魔だったの。だってどんなにお天気に恵まれても、あのケヤキのせいで光が入りこまないでしょう?でも、保存指定樹林だから、無下には扱えないし、ねえ?」
 大西さんは、そう言うといたずらっぽく笑った。確かにそうだ。木漏れ日なんて、所詮は木陰の一部だ。遮られることのない陽光が縁側に、庭に、町に降り注ぐ。
 「お礼、何がいいかしらねえ」
 そうですねえ。私に残ったのは実家暮らしという事実だけだ。もしあのアホな先輩の説を信じるなら、実家暮らしでいる限りライターとして再起できるかもしれない。
 
 私は塀の向こうから覗く霊園を眺めながら考える。「この辺り、かっこいい卒塔婆はないですかねえ」とは、言えなかった。

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