雰囲気が沈んでいる中、インターホンが鳴る。
「誰だろ」
ヒカリが立ち上がり玄関に向かう。中に入ってきたのは背の高いいかにも仕事ができそうな顔立ちの男性だった。
「こんにちは、はじめまして。美咲と結婚する将生です」
この人が美咲さんの婚約者かあ、と私は好奇心の塊しかなく目の前の男性を見ていた。
「早かったね」美咲さんがそう言うと、将生は照れくさそうにちょっとそわそわしてと言った。そわそわしてたから早く来てしまった。そんなことを照れくさそうに言う彼は美咲さんとお似合いなんだろうなと思った。
「これお土産。ケーキ買ってきた」
「ありがとう」
「やっほー」
「やったー」
女子三人が思い思いに気持ちを吐き出すと、さっきの雰囲気とは打って変わって和やかなムードに戻っていた。
ケーキの箱を開けてみると、花と美咲さんがにやりと顔を見合わせ、私を見た。
「カスタード入ってるよ」花が言った。
「え、カスタードだめだった?」将生さんが三人に聞いた。
「ごめん、知らなかったんだ」
「大丈夫ですよ、カスタード嫌いな人っていないですもんね」
「ヒカリくらいだよカスタード嫌いなの」
「でもカステラとかは大丈夫なの、カスタードだけ」
「カステラは大丈夫なのがもっとよくわかなんいよ」
花がニヤニヤと笑いながら私をいじるのを微笑ましそうに美咲さんは見ている。
「ごめんね、教えてなくて」
「いや、でもケーキ買ってくるなんて言ってなかったし。ごめん」美咲さんと将生さんのちょっとしたやりとりを見ているだけで二人の関係性の深さを垣間見た気がした。
私達は将生さんが買ってきてくれたケーキを食べた。おしゃれなケ ーキ屋さんで買ってきたであろう生クリームが上品なケーキだった。
「もうおおかた片付いたんだね」
「うん、もう後は小物だけ」
「美咲から話は聞いてたからあれだけど、いざヒカリちゃんと花ちゃんを見るとなんだか不思議な感じだね」
「美咲さんから私たちのことどんなこと聞いてたんですか?」花が興味津々満載で将生さんに尋ねる。
「うん、花ちゃんは明るくておもしろいって聞いてるよ」
「なにそれ、美咲さんなんかバカな女の子みたいに聞こえるんだけど」
「そんなことないって」
「じゃあ、ヒカリは?」
「ん、ヒカリちゃんはおとなしくて頭のいい子って聞いてるよ」
「なにそれー。美咲さんぜったい私のこと馬鹿にしてるじゃん」
「だからそんなことないって」
笑いながら美咲さんが花に弁明する。いつだってこの三人だと笑いが耐えなかったのだ。
「にしてもここ初めてきたけどいい家だね」将生さんがぼそっと口にした。
「なくなっちゃうのか、もっと来たかったな」
何気なく発した言葉に私たち三人も心の中でうなずいていた。ここはもうすぐ取り壊される。
将生さんは家の隅々を見ていた。柱の木、障子、タンス、気になったものをじっくり見ている。
「将生は好奇心の塊だから」美咲さんが説明してくれた。