窓からは微かな風が吹き込み、頬をなでていく。
「ほんとに自分でも思うよ。平凡を絵に描いたような人生だなって。まあそれでもたまに幸せを感じる瞬間があるから、これはこれで良かったんじゃないかなって……」
穏やかな光に、包み込まれるような感覚を覚える。
「でも、ときどき考えるんだ。……もし自分に超能力があったら、エスパーだったら……テレパシーを使って何度も自分の気持ちを伝えただろう。君の心の全てを読み取ろうとしただろう。会いたくなったら、夜中であっても、迷惑だとしても、瞬間移動で会いに行っただろう。予知能力で未来を覗いて、2人が離れかけているのが見えたら、その距離を縮めるために全力を尽くしただろう。……君に向かってくる車があったら、念力で遥か遠くに吹き飛ばしただろう」
まぶたの裏に、彼女の姿がくっきりと浮かんだ。
「……僕は君が好きだった。真希のことが大好きだった」
ゆっくりと目を開ける。
立ち上がって窓から外を見ると、夕暮れが迫った空は朱色を帯びようとしていた。聞いているだけで恥ずかしくなるような言葉を連発したにも関わらず、私には何の迷いも照れもなかった。
と、部屋に着信音が響いた。カバンからスマホを取り出して見る。メールが一件届いている。送信欄には知らないアドレス。そしてタイトル欄にはこうあった。
[私の思いを、受け取ってください]
ハッとして体が固まった。「まさか、そんなこと……」
画面をタップして本文を開く。
そこには、[余命宣告を受けたが家族もいないので、遺産を受け取って欲しい。そして自分の分まで人生を楽しむために使って欲しい。これは決していたずらではない。連絡をくれた人の口座にすぐに2000万円振り込む]という旨の内容が書かれていた。最近ではすっかり見かけなくなったタイプの迷惑メール。それがこのタイミングで……。
「なーんてね」
そう言って舌を出す真希の姿が見えたような気がしたが、それは西陽を受けて反射するスマホ画面の陰影だった。
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