「申し訳ございません! こちらの手違いがあったみたいで!」
エレベーターの扉が開くや否や、待ち構えていたかのように、作業服を着た男性と、マンションの管理人がふたりに向かってばたばたと声をかけてきた。どうやらエレベーターの点検作業に日時変更があったのだけれど、その通知に行き違いが起きたらしい。時間にしてみればほんの数分だったけれど、エレベーターの中に閉じ込めてしまった経緯をあわてた口調で説明していた。輝子と望美は平謝りする作業員さんに、困り果てながらも、顔を見合わせて笑いあった。
「今度顔を合わせたら、ゆっくりお茶でも飲みましょう。もっと広くって落ち着いた場所でね」輝子は別れ際に望美にそう言った。望美も「お話しできて、良かったです。今度新しいハンカチ、プレゼントさせてくださいね」とにっこり笑った。そうしてふたりは互いに手を振り、マンションのエントランスで別れた。
望美は少し歩いたのちに立ち止まった。スマートフォンを取り出して、番号をタップする指先には小さな、けれどもはっきりとした決意が込められていた。
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