【ARUHIアワード11月期優秀作品】『家族ルール』小山ラム子

 確かに私達がだす話題は昨日の紅葉スポットみたいに、別に加わることに困らない話題だ。でもそれこそさっきお父さんが言っていたみたいに、花はそういうお年頃なのだろう。ま、だからといって放っておくのはちがうと思うけど。
「だって家族は仲がいいほうがいいじゃん」
 さっき花に言った言葉が口をついてでる。花は「家族が全てじゃない」なんて返してきたけれど。まあ、家族が全てではないという人もいるだろう。でもそういう問題ではない。少なくとも私はあんたが部屋で一人でご飯を食べてるなんてやだよ。
「ああ、それだった」
 お母さんが独り言のように呟いた。
「そうね。花の態度が悪いからじゃない。それが悲しかったからだ。私が悲しかったから。家族で仲良くいたかったから」
 そうだ。ルールはルールでも家族が仲良くなるための家族ルールだ。しばりつけるためのルールじゃない。がんじがらめのルールであってたまるか。そんなものからは解放させてくれ。せめて我が家だけでは。家族の前だけでは。
「じゃあ決め直さないとね。まずは夕飯中にスマフォをいじってはいけない、はどうしようか」
 私の言葉にお母さんがキョトンとした顔をする。
「え? だからそれはやめようって話になったじゃない。みんなが楽しめる話題を話そうってことになったんでしょ」
「それだよ! 夕飯のときはみんなが楽しめる話題を話す。そういうルールにすればいいじゃん」
 お母さんが合点がいったような顔をした。
「ああ、そうね。そういう風に決めればいいんだ」
「ね。そうやって決めていこう」
 私とお母さんのやり取りにお父さんが「花もここにいたほうがいいのにな」と小さな声で言う。そうだね。家族全員で決める。それが最も重要だ。ルールがどうとかではない。決めるまでの話し合いが大事なんだ。
「私もそう思う。お父さん呼んできて」
「え。お父さんが呼んでちゃんと来るかなあ。咲のほうがよくないか?」
「大丈夫、来るって」
 お父さんは「そうかなあ」なんて自信なさそうにしながらも二階にのぼっていった。しばらくしてから花と一緒におりてくる。花の目はちょっとだけ赤くなっていた。でもその表情はすっきりとしている気がする。
「あのさ、姉ちゃん」
 めずらしく花が下を向きながら言いづらそうに口をもごもごさせている。なるべく優しい声で「なに?」と聞いてみた。
「さっき、あの……ごめん」
 消え入りそうな声になりながらも花はさっきのことをちゃんと謝ってくれた。私は花の頭を撫でる。大丈夫だ。この子は優しい子だ。
「いいよ。本気で言ってないこと知ってるから」
 花は顔を上げて今度は私の目をちゃんと見てから、もう一度「ごめん」と言った。そんな花を見てお母さんが「花」と呼びかける。
「お母さんもごめんね。花のことちゃんと聞かないうちに勝手に色々ルール決めて」
 花がお母さんの方に身体を向ける。
「私も、その、ごめん。さっきお父さんから色々聞いた」
 それを聞いて私とお母さんが同時にお父さんを見る。お父さんは「わ、悪口じゃないからな?」なんて何も言ってないのに弁解しはじめたのでお母さんと私は同時にふきだしてしまった。そんなこと思ってるわけないじゃん。
 笑ったおかげでだいぶ空気がやわらかくなった。花が「残りの晩ご飯もってくる」と二階にのぼっていく。その間に私は紙と鉛筆を全員分用意する。
 さあ、ここからまた家族ルールの再構築だ。

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