【ARUHIアワード11月期優秀作品】『家族ルール』小山ラム子

「う、うん。先生にも許可とって部室でミーティングしてたの」
「ほら、花とはちがうの」
 勝ち誇ったように言うお母さんに、花はポツリと「私だって友達の相談にのってた」と呟いた。
「今言ったってだめ。本当かどうかもあやしいし」
「あ、そう。別に信じなくてもいいけど」
 花は乱暴に靴を脱いでからすぐに自分の部屋へと向かっていった。
「あ! 花! ちゃんと手洗って! もう、これもルールにするからね!」
 お母さんが追い打ちをかけるようなことを言う。
「あんまりルールつくるのもどうかと思うけど。それに例外があったときに今みたいに言われちゃうよ」
 ショックから立ち直り、今度は私がお母さんに物を申す。
「そんな細かくしたらきりがないでしょ」
「そうなんだけどさ」
 それを言ったらいくらルールをつくってもきりがないじゃないか。
「ほら、早く中入って。手伝って」
「はいはい」
 夕飯の準備をしていると誰かが私の背中をつついてきた。振り返るとそこにはバツが悪そうな顔をしている花がいた。さっき言ったことを気にしているのだろうか。
「姉ちゃん、どっかにトレイない?」
 でも謝る気はないようだ。
「トレイ? どうするの?」
「二階で食べる」
「え? 二階持ってくの?」
「だ、だめ! 夕飯は家族みんなで食べるの!」
 奥にいたお母さんがあわてたように言う。
「なにそれ。それもルール?」
 花はうんざりしている様子だ。私もそんな気分だ。でも花と気持ちはちがう気がする。
「ルールがどうとかじゃない! そんなこと家族として当たり前のことじゃない!」
 お母さんがこれまでで一番怒っているような声をあげる。
「じゃあルールにはしないってこと?」
「しない! そんなことまでルールにしてどうするの!」
「ふーん。ルールじゃないなら別にいいじゃん。じゃ、私二階で食べるから」
 花はさっさとトレイに自分の分の夕飯をのせて二階へとあがっていってしまった。
「もう、あの子本当意味分かんない」
 お母さんがため息をつきながら料理を机に運ぶ。お父さんがそれを受け取りながら「まあそういう年頃なんだろう。しばらく放っておいたほうがいいんじゃないか」なんて言う。分かってるんだか分かってないんだか。
「あのさ、そもそもお母さんってなんで家族ルールなんて決めようと思ったの?」
「え? だから言ったじゃない。友達がそれ決めてうまくいったって話してくれたから」
「そうじゃなくてさ。だって元々うまくいってるならそんなルール決めようとも思わないでしょ。なにがうまくいってないって思ってたの」
「それはまあ……花の態度が悪いことだけど」
「花の態度が悪いからルール決めようって思ったの? でも逆効果になってない?」
 私のもっともな指摘にリビングがシンと静まり返る。重い空気の中、口火を切ったのは意外なことにお父さんだった。
「そうだな。むしろ花の態度はどんどん悪くなってるな」
「じゃ、じゃあスマフォ見ててもいいから下に来なさいって言えばいいの?」
 お母さんが反論する。それもちがうだろう。
「花がスマフォ見なくたっていいような状況にすればいいんじゃないの」
 私とお父さんとお母さんはご飯中にもよく話をするが、花はそこに加わらない。スマフォを見ていたほうが楽しいのだろう。
「でも花は話しかけたって空返事しかしないじゃない」
 またもやお母さんが反論する。
「興味ないことだったからじゃないの」
「花の興味あることってなに?」
「そのときによってちがうと思うけど……でも何かしらはあるでしょ」
「なんでこっちが花に合わせなきゃいけないの。こっちはちゃんと三人で盛り上がってるのに」

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