年金保険料や健康保険料、生命保険料に医療費…。生活を送る中で払う「お金」には、払わなければならないものがあります。払ったほうがよいものもありますね。所得税や住民税の「所得控除」には、こういった「払ったお金」を対象とするものがあり、確定申告をしないと受けられないものもあります。確認しておきましょう。
所得控除とは
「所得控除」とは、納税者それぞれの状況に応じて税負担を減らせるように設けられている制度で、扶養控除などの生計を一にする親族等の状況に応じて適用できる控除と、社会保険料控除や生命保険料控除などの一定の理由でお金を支払った場合にできる適用控除があります。
所得税の計算方法は図表1のようになりますが、給料や年金、事業などの収入から必要経費を差し引いたもの(所得)に税率を掛ける前に、差し引くことができるのが「所得控除額」です。図表1でいえば、Bの段階で所得控除額を差し引きます。所得金額から所得控除額を差し引くと、税率を掛けられるもとの金額が小さくなるので、その分所得税額が小さくなるというわけです。
<図表1>
支払った金額の全部もしくは一部が所得控除の対象に
所得控除(物的控除)には、図表2のようなものがあります。会社員等の場合、社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除などは年末調整で適用されますが、雑損控除や医療費控除、寄附金控除(「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用しない場合)は確定申告をしないと受けられません。
<図表2 所得控除(物的控除)>
今回は、「雑損控除」「医療費控除」について、詳しくみてみましょう。
一定以上の損害があった場合の「雑損控除」
近年は、地震や台風などの大きな被害が全国で相次いでいますね。災害によって住宅や家財などに損害を受けたときは、確定申告を行って、「雑損控除」もしくは「災害減免法(原則として、損害を受けた年分の所得金額が1,000万円の場合に対象となる)」のどちらか有利なほうを選んで、所得税の全部または一部の負担を減らすことができます。雑損控除は、盗難や横領による損失がある場合にも適用されます。
「雑損控除」は、その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年間繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。
<図表3 雑損控除と災害減免法>
医療費控除額の計算の際は、受け取った保険金額などは差し引く
病気やケガ、妊娠・出産など、「病院への支払いが大変だった」年には、「医療費控除」が受けられる場合があります。これは、納税者や生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費が一定額以上である場合に、最高200万円の所得控除が受けられる制度です。
控除の対象となる「医療費」は、医師や歯科医師による診療や治療の対価のほか、助産師による分娩介助の対価や医薬品の購入費用など、かなり幅広いものです。ただし、容姿の美化のための整形手術の費用や健康診断の費用、予防接種のための費用などは対象外となります。控除額の計算の際には、受け取った保険金などは差し引いて計算することに注意してください。
次にご説明するセルフメディケーション税制は選択制になります。
<医療費控除額の計算方法>
たとえば、所得の合計額が200万円以上の人が、その年中に支払った医療費が50万円、受け取った保険金が10万円の場合、医療費控除額は30万円(50万円-10万円-10万円)となります。医療費控除額が同じ場合、収入(所得金額)が多いほど適用される所得税率が高いので、節税効果は高くなります(図表4)。
<図表4 医療費控除額30万円の節税効果>
<図表5 所得税の速算表 2019年分>
セルフメディケーション税制の控除額は、最高8万8,000円
薬局で購入した医薬品代が多くかかった…という場合には、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の対象となる場合があります。対象となるのは、納税者自身が健康の保持増進および疾病の予防として一定の取り組み(人間ドック、インフルエンザの予防接種など)を行っていて、納税者とその生計を一にする親族のために「特定一般用医薬品等購入費」がある場合です。対象となる医薬品は、購入した際の領収書にセルフメディケーション税制の対象となることが表示されており、品目一覧が厚生労働省のホームページに記載されています。
この制度は、2021年12月31日までの期間限定の制度で、確定申告をしなければ適用されません。「医療費控除」とは選択制になります。
<セルフメディケーション税制に係る医療費控除額の計算方法>
このように、災害による損害が大きい場合(雑損控除)や医療費が多くかかった場合(医療費控除)には、確定申告を行えば、税負担の減少という形で、かかったお金の一部を取り戻すことができます。
これらの申告をするには、領収書を添付したり明細書を作成したりと手間もかかりますが、申告書の作成は、国税庁ホームページの「確定申告書作成コーナー」などを利用すれば、それほど難しくないので、取り組んでみてはいかがでしょうか。
【参考】