クリスマス当日の予定は、夜の6時から田中のデートが始まり、8時から桐生の参加するイベントが開始されることになっていた。
夕方前に集合した2人は打ち合わせをして、6時前に田中のデートの場所であるフランス料理のレストランに到着した。
桐生は田中が好きな女性について、「まあ、田中とデートするぐらいだから、正直あまり美人ではないだろうなあ」などと勝手に想像していた。
しかし、レストランで会った女性は、名家のお嬢様といった感じの落ち着いた雰囲気の美人だった。
「この女性が田中とデート?」
桐生は驚きを隠せなかった。田中には悪いが、「どうしてこんな美人が田中なんかを好きになるんだ?」と思わずにはいられなかった。
彼女が連れてきた友人と桐生のあいさつが終わると食事がスタートした。
田中はワインのメニューを見たが、選び方どころか名前すらさっぱりわからず、あせっておどおどしている。
そのとき、桐生が口を開いた。
「お前、このワインが好きだったな。俺も飲みたいからこれにしないか?」
と言って、ちらっと田中を見てうなずく。
田中はハッとして、「おお、そうだな。俺が大好きなこれにしよう」と答えた。
田中の彼女も「私もこのワイン好きです」と言ってくれた。
桐生の機転でなんとかワイン選びはうまくいった。
その後もところどころで桐生が田中をうまくサポートしたこともあり、田中も次第に緊張が解けてきたようで、彼女とも自然に会話ができるようになっていき、2人の会話も弾んでいた。
こうして、最後までいい雰囲気のままレストランでの食事は終了した。田中と彼女は今度は2人で会う約束をして、その日は別れた。
田中のデートは大成功だった。
「よし、行こう!」
無事にデートを終えた2人は、急いでアニメキャラのイベント会場に向かった。
なんとか時間に間に合って会場に到着した2人は、会場の中に入った。
そこには、間もなく始まるイベントを前に興奮を抑えきれないアニメキャラのファンの、普通の人にとってはちょっと異常と思えるくらいの熱気が漂っていた。
イベントに初めて参加した桐生はその熱気に圧倒され、会場の入り口付近でおどおどしている。
「ここじゃよく見えないから、前のほうに行こう」
そのとき、田中が興奮気味のファンをかき分けて、桐生を会場の前のほうに移動させる。桐生はそんな田中を頼もしそうに見ていた。
いよいよ、イベントが始まった。少しすると、アニメキャラの声優によるライブが始まった。それぞれのファンが熱狂しているが、桐生はどうしたらいいかわからない。
「そんなあせるなよ。自分の好きなように楽しめばいいんだよ」
田中が声を掛ける。
田中のアドバイスに従っているうちに、桐生は会場の熱気と雰囲気にも慣れてきて、逆にこの雰囲気が心地よく感じられるようになってきた。
そして、最後に桐生は声優にプレゼントを渡し、いっしょに写真を撮ることもできた。桐生はイベントを心から楽しむことができた。
こうして、2人は最高のクリスマスを過ごすことができた。
デートとイベントを無事に終えた2人は、以前に行った居酒屋で酒を飲んでいた。
「今日は最高の一日になったな。乾杯!」
さっきから2人は、このように何度も乾杯して酒を飲んでいる。
2人はこれ以上ないくらい満足した表情を浮かべていた。
「しかし、お前の彼女があんな美人だったとはな。うちの女子社員が見たらびっくりするぜ」
桐生がからかうように言うと、
「アニメキャラや声優の姿に興奮したお前の姿を見たら、お前を見てキャーキャー言ってる女子社員がどんな顔をするだろうな」
田中がニヤニヤしながら言い返す。
「おいおい、やめてくれよ」
桐生が慌てて答える。
「ま、今回のことは2人だけの秘密にしておくか」
桐生がニヤッとして田中を見る。
「そうだな」
田中も笑いながらうなずく。
2人は、今夜もう何回目になるかわからないくらいの乾杯をした。
こうして、2人にとって特別な日、最高の一日が終わった。
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