アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、3つのテーマで短編小説を募集する「ARUHIアワード」。応募いただいた作品の中から選ばれた10月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。
12月に入った頃、桐生と田中の2人の男性社員が休暇を申し出た。しかも、その日は2人とも同じ12月25日、クリスマスの日だ。
12月は会社にとって1年で最も忙しい時期だった。毎年、年末まで土日でさえ休みはあまり取れず、毎日遅くまで仕事をするのが当たり前のようになっていた。
2人とも忙しい時期どころか普段からほとんど休みを取らないので、「よりによって、なぜ1年で1番忙しいこの時期に?」と周りの社員は不思議に思った。
休暇をほとんど使ったことがない2人だったこともあって、上司も嫌とは言えず、休暇を許可した。
桐生と田中の2人は同期入社で、年齢はともに30歳でしかも独身。
しかし、社内での評価は全く正反対のものだった。
主任を務める桐生は、仕事もでき、まさに会社のエースとして活躍していた。将来の出世も間違いなしと言われている。
性格もよく上司からも部下からも好かれ、しかもイケメン。当然、女子社員からもモテモテだ。
一方の田中は、仕事もあまりぱっとせず、いまだに何の役職にもついていない。見た目もはっきり言えばブサイクで、しかも太っている。そして、アニメオタクだ。性格は悪くはないのだが、無口で表情も暗いことから、女子社員からの人気はもちろん全くない。
社内では、クリスマスに休暇を出した2人のことがちょっとした話題になっていた。
「あの2人はクリスマスに何をするの?」をテーマにした女性社員の昼休みのおしゃべりは大いに盛り上がった。
「あの田中がクリスマスに休暇を取ってどうするの? 彼女もいるわけないのに」
「アニメキャラの誕生日とかクリスマスとかのイベントにでも行くんでしょ?」
「絶対そうよね。あいつにはそれしかないわよね」
女子社員は田中のことを小ばかにした感じで言いたい放題言っている。
一方、桐生については……
「桐生さんは絶対彼女とデートよね?」
「いいなあ、うらやましいわ。相手はどんな人かな?」
「きっとすごく美人な良家のお嬢様とかなのよ」
「ひょっとして、うちの社員とか……」
「うそー、誰、誰?」
田中のときとは違い、女子社員はくやしいような、うらやましいような表情を浮かべながらおしゃべりしている。
しかし、実際は彼女らの予想は全く外れていた。というか、全く逆だった。
12月も中旬に差し掛かった頃、桐生が会社の帰り際に田中に声を掛けた。
「ちょっと話があるんだが、これから時間あるか?」
田中は桐生の言葉を待っていたかのように返事をした。
「実は俺もお前に話があったんだよ」
2人は仕事の帰り道に居酒屋に寄って話をすることにした。