田中が不思議そうな顔をしながら尋ねる。
「もちろんなれるさ。いや、お前じゃなきゃダメだなんだ。実は……」
今度は桐生が恥ずかしそうな顔をした。なかなか次の言葉が出てこない。
「どうした、はっきり言ってくれなくちゃ話が進まないぜ」
桐生が意を決したように大きくうなずいて口を開く。
「実は……俺はある女性アニメキャラに本気で恋をしている」
驚きのあまり田中の表情が固まった。
「お前、今何て言った?」
「だから、アニメキャラに本気で恋をしている」
真っ赤な顔をした桐生が消え入りそうな声で繰り返す。
田中は、会社のエースとして活躍し、女性にもモテモテの桐生の衝撃の告白に開いた口がふさがらなかった。
「アニメオタクのお前なら、俺のこの気持ちもわかってくれると思うが……」
桐生の言葉に田中がハッとしてうなずく。
「おお、もちろんわかるさ。俺もずっとアニメキャラの女性に恋をしていた。かわいいからなあ」
桐生がうれしそうにうなずく。
「そうなんだよ。本気になってしまうと、もう彼女しか目に入らないんだよ」
桐生がニヤニヤしながら遠くを見る。その表情には仕事もできてイケメンでモテモテの面影はどこにもなかった。
「わかった、わかった。それで俺に頼みって?」
ニヤニヤしている桐生とは正反対に田中が冷静な口調で尋ねる。
「実はクリスマスの日が俺の好きなキャラの誕生日なんだ。そして、誕生日とクリスマスを併せたイベントがクリスマスに開催される」
好きなアニメキャラの誕生日のイベントには何度も行ったことがある田中がうなずく。
「あれはいいぞ。本当にそのキャラが好きなファンだけが集まって、そのキャラの声優も来たりする。好きなキャラの生の声が目の前で聞けるし、プレゼントを渡したり、いっしょに会話をすることもできる」
田中の説明に桐生はうれしそうに目を輝かせている。しかし、すぐに弱々しい表情を浮かべた。
「しかし、俺はそういったイベントに行ったことがない。聞くところによると、熱狂的なファンが集まって、なかなか近寄り難い独特の雰囲気があるって言うじゃないか?」
「まあ、そういうところも多少あるかもしれないなあ……」
田中が思い出したように答える。
「1人で初めて行くのには、正直言ってかなり不安がある。そこで、頼みなんだが……お前もいっしょにイベントに来てくれないか?」
「俺もいっしょに?」
「頼む。いっしょに来て俺がそのイベントの雰囲気に入っていけるように、あとは声優さんとうまく会話ができるように俺をサポートしてくれないか?」
田中は、イケメンの桐生が懇願するように自分を見ている姿を見ると、ちょっとおかしくなった。同時に、なんとか力になりたいとも思った。
「わかった。俺もいっしょに行くよ。お前をしっかりフォローするよ」
「ありがとう、助かるよ」
桐生が満面の笑みを浮かべる。
こうして、2人はお互いがうまくいくように協力し合うことを約束した。
そして、いよいよクリスマスの日がやって来た。