【ARUHIアワード10月期優秀作品】『介護ヘルパー鞠子の苦悩と幸せ』長井景維子

介護ヘルパーの資格を取ったのは、もうかれこれ10年前になる。同居していた義母を病気で亡くし、何か喪失感に襲われて、義母を病院で世話してくれた看護師と介護ヘルパーに感謝したことをきっかけに、近所の講座を受けて、なんとか取得できた。資格を取っても使うことなく、専業主婦で美紅を育てた。今回は美紅も高校生になり、新居のローンの支払いもあり、しばらくぶりに社会に出て働こうと思ったのだった。今、同居している義父の将来の為にも、自分の親の為にも、そして自分たち夫婦の将来の為にも、介護の分野で今働いておくことはプラスに働くように思えた。

義父はもうじき80になる。極めて元気で、矍鑠とした老人で、読書が趣味で、時々山に登り、パソコンでインターネットも自由に操る。義母が亡くなり、新築する時に義父の方からプライバシーが欲しいと言われて、新居は一階と二階にそれぞれキッチンとお風呂のある、二世帯住宅にした。玄関は共通にして、中を自由に一階二階と行き来できるように建てた。鞠子は義父のことは頼もしく思っており、時々、飼い猫のミーシャを義父に預けて家族で旅行に出かけることもある。義父は義父で、健康なので、自分の友達と勝手にそこここに旅行している。義母がかわいそうだったなあ、と、時々仏壇に手を合わせながら思うこともある鞠子だった。

面接はなんとかクリアして、採用が決まった。
「初めまして。小宮山鞠子と申します。よろしくお願いします。」
スタッフのミーティングで挨拶して、その日の勤務が始まった。

お手洗いに行きたそうな人をお手洗いに連れて行ってあげる仕事から始まった。杖をついている人には手を差し伸べて、転ばないようにゆっくりと。車椅子の人はゆっくりと車椅子を押してあげる。そして車椅子から立つのを手伝う。転ばないように細心の注意をする。お年寄りの体重が全て両腕にかかり、腰をかなり酷使する。

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