祥ちゃん。サクラはもうすぐ、あなたのところへ行っちゃうの?この2日間、ほとんどご飯を食べないの。獣医さんは、「老衰」だって。点滴を打って無理やり栄養を摂らせることもできるけど、本人がもう要らない、っていってるのに、無理やり栄養を摂らせると、かえって苦しいんだって。
でも祥ちゃん、このままサクラを行かせることは、私も佑人も苦しいです。サクラの年齢を考えたら、自然なことではあるけれど、わかっているけど、苦しいです。
だって、私たち、サクラにどれだけ支えてもらってきたことか。祥ちゃんにもわかるよね。祥ちゃんはたった8年で私の前から消えちゃったけど、サクラは15年も私を支えてくれたのよ。祥ちゃんの分も。
私、わかるんだ。サクラはもともといい子だったけど、祥ちゃんが逝ってから、ますますいい子になりました。祥ちゃんの代わりに私たちを守らなきゃ、って、がんばってくれていたのよね。
私が仕事と家事と育児で疲れてイライラして、佑人に声を荒げそうになると、いつもサクラが間に立って、私をなだめてくれました。
私が台所仕事しながら、考え事に沈んでいると、よくサクラがかそばに来て、つんつん、って、鼻で私の足をつついたの。「お母さん、あたしがついてるよ」って、言ってくれていたのよね。そんなとき、サクラに抱きついて何度も泣きました。サクラは私の頬をペロペロ舐めて、なぐさめてくれたのよ。
私がなかなか佑人の相手をしてやれなくても、佑人がなんとか素直に育って無事に小学校を卒業できたのは、サクラがいてくれたから。私が家に仕事を持ち帰り、佑人を寝かしつけてやれなくても、サクラが佑人と一緒に寝てくれた。朝もサクラが佑人を起こしてくれました。学校から帰った佑人を玄関で出迎えてくれたのもサクラだし、一緒に遊んでくれたのも、サクラだよ。卒業式の日、中学校の制服を着て出かけていく佑人を、サクラは尻尾を弱々しく振りながら、玄関で見送ってた。佑ちゃん、立派になったね、って言ってくれているみたいだった。
そのサクラがいなくなったら、私はどうしたらいいの?
わかってる。今、サクラは生きるのがしんどいの。このままあなたのところへ行かせてあげた方が、サクラは楽。
わかっているけど、苦しいよ。生きるのがしんどいサクラを見ているのも苦しいし、サクラを送るのも、苦しい。
祥ちゃん、苦しいよ。