ワイン漫画として全世界で1,000万部以上を発行し、世界中で高く評価されている『神の雫』。その原作者がワインのある“暮らし”を提案する連載です。敷居が高く、手を出しにくいイメージを払拭する “飲みテク”を伝授。毎月給料日に、自宅で飲むことを前提に、手頃な価格で楽しめるワインをご紹介します。
ボジョレー・ヌーヴォって、つまり、なに?
例年、11月の第三木曜日になると「ボジョレー・ヌーヴォー解禁!」とうたう広告がコンビニや酒屋の店頭に踊り、ネットニュースでも「今年のヌーヴォーの出来栄えは…」などといった話題が流れてくる。しかし実はボジョレー・ヌーヴォーってなんのコトなのかよく知らない…という人も多いのでは?
ワインは情報の塊のようなお酒である。だから何も知らないで飲むよりは、知識をちょっとかじった上で飲んだ方が美味しく感じるし、もっとワインのことを知りたくもなる。ということで、今月のお題は「ボジョレー・ヌーヴォー」である。
そもそも「ボジョレー」とは、フランスのブルゴーニュ地方ボジョレー地区でつくられるワインのこと。ヌーヴォーとは、フランス語で「新しい」という意味で、つまりボジョレー・ヌーヴォーは、ボジョレー地区で、その年に収穫した葡萄でつくられる新酒という意味だ。
普通、ワインは秋の収穫後に長い熟成期間──長いものでは年単位──を経て出荷されるが、ボジョレーは熟成という行程を経ずに瓶詰めされる。まず、摘んだ葡萄をつぶさずにタンクに入れて密封し、タンク内に発生した炭酸ガスを利用して、葡萄の酵素で発酵、アルコールを生成させ、色素を抽出するという方法だ(生産者によってはタンクに炭酸ガスを人工的に注入してつくる場合もある)。
この方法でつくると、赤ワインでも渋味や苦みが少なく、葡萄ジュースのようにフレッシュな味になる。熟成させないので、深みや複雑さは期待できないが、渋くも苦くもなく、ライトで飲みやすい。だから、新酒の状態でも十分に楽しめる。
このような製造方法がフランスで認められたのは1951年。そもそもは地元の農家が、その年のワインの出来栄えをチェックする目的で、即席でワインをつくってみたのが始まりらしい。ところがつくってみると、思いのほか甘い香りのフルーティなワインができた。試しに出荷してみたところ、パリのビストロで大人気になり、70年代には世界中に輸出されるようになったという。
しかし、人気の陰で問題も起こった。「新しさ」が売りのワインだけに、まだワインとして未熟な状態のものまで早め早めに出荷し、先行メリットを享受しようという業者が出てきたのだ。そうした状況を改善するために、フランス政府が解禁日を設け、“フライング出荷”を禁止するに至った。
「11月第三木曜日午前0時までは飲むべからず」というお約束は、85年に定められた。ボジョレーは仕込みから1ヶ月ほどで完成するので、10月末ごろには瓶詰めされ、解禁日前には空輸でワインが届けられる。でも、世界のどの国でも解禁日はちゃんと守っている。ワインを売る者同士の、紳士協定のようなものだろう。
先進国で一番早くヌーヴォーが飲める日本
日本は時差の関係でアメリカやヨーロッパよりも早く解禁日が訪れるので、例年お祭り騒ぎが起きる。輸入量も日本が世界で一番多く、メルシャンの調べによれば2017年の輸入量シェアで日本は49%を占め、2 位のアメリカに30%以上の差をつけている。なんと、輸出されるボジョレー・ヌーヴォーのおよそ2本に1本は、日本で飲まれていることになる。