令和2年度の税制改正大綱が閣議決定されるとともに、確定拠出年金制度の今後の改正案も固まってきました。セカンドライフへの備えとしての有効なツールである確定拠出年金制度の主な今後の改正案をチェックしておきましょう。
確定拠出年金に関する改正案の主な3つ
今回の税制改正大綱で取り上げられた確定拠出年金に関する改正案の目玉は主に3つになります。
【1】会社員のiDeCo加入要件の緩和
【2】iDeCoや企業型DCでの掛金を積み立てられる期間の拡大
【3】受取開始時期の範囲の拡大
それでは詳しく見ていきましょう。
【1】会社員のiDeCo加入要件の緩和
まず、会社員のiDeCo加入要件の緩和ですが、その前に会社員の加入要件を確認しておきましょう。
現状、企業型DC(企業型確定拠出年金)の制度がある会社員は、会社の規約の定めがあって、会社が事業主掛金の上限を引き下げていないと、そもそもiDeCoに加入することができません。
これが、会社の規約の定めがなくても、加入できるようになるとのことです。
なお、iDeCoで積み立てられる金額は、全体の限度額から事業主掛金を引いた残額の範囲内となる見込みです。つまり、企業年金がある会社は、「1万2,000円-事業主掛金額」、その他は「2万円-事業主掛金額」までiDeCoで毎月積み立てられるようになるわけですね。
ちなみに、会社でマッチング拠出が導入されている場合には、マッチング拠出かiDeCo加入かを選べるようになる見込みです。
iDeCoとの併用ができると得をする人はこんな人
まず、事業主掛金が少ないケースです。
DCは退職金制度のひとつなので、企業によって当然、毎月の掛金額が変わりますし、通常、個々によっても掛金額が変わります。例えば事業主の拠出額が月3,000円の場合、他に確定給付企業年金などの企業年金制度があれば1万2,000円-3,000円=9,000円まで、他に企業年金等の制度がなければ20,000円-3,000円=1万7,000円までiDeCoで積み立てをすることが可能となります。
もちろんiDeCoで積み立てた部分は所得控除を活用できるので、税制面でのメリットを受けつつ、セカンドライフに向けた積み立てを増やすことができますね。
事業主掛金が少なくてマッチングが導入されているケースも同様です。マッチング拠出制度とは、事業主掛金に自分の給与の一部を上乗せして掛金額を増やすことができる制度です。マッチング拠出した金額は全額所得控除が活用できる点がメリットですが、事業主掛金額と同額までしか上乗せできません。
仮に事業主掛金が3,000円であれば、上乗せできる金額も3,000円が上限となり、事業主掛金額が少額の場合には所得控除のメリットをあまり受けられませんでした。
今回の改正が実現すれば、iDeCoかマッチング拠出か、積立金額の面で自分にとってより有利なほうを選択できるようになるわけです。
また、商品のバリエーションを増やしたいケースでも効果的です。勤務先のDCに投資したい商品がない場合や分散投資の枠を広げたいなど別のタイプの商品を活用したい場合には、余っている枠を活用したりマッチング拠出ではなくiDeCoを活用することで投資商品のバリエーションを増やすことも可能です。
ただ、iDeCoに同時加入することで投資額が増えれば税メリットは増加しますが、iDeCo加入のコスト負担も増えることになるので要注意です。また、事業主掛金が増えれば、iDeCoで積み立てできる金額も変わるので、掛金額の管理も忘れずに!
【2】iDeCoや企業型DCでの掛金を積み立てられる期間の拡大
最長65歳までiDeCoに加入可能に
これは今後、セカンドライフへの備えとして70歳まで働く人が増えることが予想されることを受けた改正案です。
まず、iDeCoでは国民年金被保険者(※)であれば、最長65歳までiDeCoに加入できるようになる見込みです。
(※)国民年金被保険者
1.第1号被保険者:60歳未満
2.第2号被保険者:65歳未満
3.第3号被保険者:60歳未満
4.任意加入被保険者:保険料納付済期間等が480月未満の者は任意加入可能 (65歳未満)
ここで注意したい点が、「国民年金被保険者であれば」という点です。例えば、60歳以降、再雇用制度で厚生年金に加入をして働けば、第2号被保険者にあたるので最長65歳までiDeCoに加入して積み立てを続けられることになります。
あるいは、国民年金の保険料納付済期間が480月に満たない場合は60歳以降も任意に国民年金に加入できるので、任意加入者についても加入期間中はiDeCoで積み立てられるわけです。
一方で、第1号被保険者である自営業者や第3号被保険者である専業主婦の人については60歳以降は国民年金の被保険者ではなくなるため、残念ながらこれまで通りiDeCoへの加入はできません。もちろん今後、「国民年金加入期間が65歳まで」と制度が改正されれば65歳まで加入は可能です。
厚生年金被保険者(70歳未満)が企業型DCに加入可能に
次に、企業型DCでは厚生年金被保険者(70歳未満)を加入者とすることができるようになる見込みです。
実は、企業型DCへの加入要件は大きく2つ、厚生年金に加入していること、労使で定められた規約で加入が認められていることです。
これまでも厚生年金については70歳まで加入することはできましたし、企業によっては65歳まで加入者として掛金を拠出できるように規約で定めているところもありましたが、今回正式に、企業型DCについては規約で定められていれば70歳まで加入できるようになるわけですね。
なお、制度改正後に再雇用などで60歳以降働く場合でも、時短勤務等で厚生年金に加入していなければ、企業型DCには加入できませんし、厚生年金に加入していても会社の規約で認められていなければ企業型DCには加入できない、という点には注意が必要ですね。
もし、再雇用で働き、厚生年金には加入しているけれど、会社の規約で企業型DCへの加入が認められていないというケースであれば、iDeCo加入することで65歳まで積み立てることは可能です。
【3】受取開始時期の範囲の拡大
現在、DCでは受給開始時期については積立期間終了後の60歳から70歳までの間で選択できます。これが70歳以降も選択できるようになる見込みです。具体的な期間としては、厚生年金の加入期間や公的年金の受給開始時期を最長75歳までに改正する案もでていることからも、DCでも60歳から75歳までの好きな時期に受給開始できるようになる可能性が高いです。
セカンドライフを取り巻く制度は今後も変化していくことが予想されます。自分が何歳まで働いて収入を得るのか、セカンドライフでどんな暮らしをしたいのか、公的年金をいつから受給するのか、いくらもらえるのか、さまざまな要素も踏まえた上で、確定拠出年金制度をどう活用していくのかを考える必要もありますね。