2010年から続く新築マンション価格の高騰は、2020年以降に変化の予測がされるものの、まだまだ高止まりの状況にあります。そのため、新築マンションの買い控えも言われる中、中古マンション市場が活性化し、注目を集めています。都市部で暮らしたい、でも新築は高い。しかし中古の価格であれば、修繕費を加えても割安感があるためです。
中古マンション市場に目を向けると、「リノベーション」という言葉がひんぱんに出てきます。「リノベーション済み物件」も多く、築年数からは異なる印象の内装が目を引き、目移りさえするほどです。選択肢の多さや自分なりの住まいの実現の可能性など、夢が広がるその一方では、「リノベーションって何?」「何を基準で見比べればいいの?」の「そもそも」に悩むことも。東京都の青山で、中古物件リノベーションのセミナーも開催している、「無印良品のリノベーション 青山店」を訪ね、「そもそも」の疑問を1から聞いてみました。
戸建て住宅で培った経験を築40年の団地のリノベーションに活かす
運営する「株式会社 MUJI HOUSE」は、「無印良品の家」を2004年から販売。青森県から鹿児島県まで30拠点を展開し、木造戸建て住宅の販売をしています。豊田輝人店長は、一級建築士の資格を持ち、リノベーションの相談に具体的な事例を交えて応じています。あの「無印良品」と「家」の距離感への戸惑いをまずは正直に聞いてみました。
「無印良品のアイテム数は7,000超。『無印良品の家』もその1つという考えですが、ほかのアイテムを包み込む『器』がコンセプトです。ノートや食器、家具など、生活に密着した無印良品の商品開発は、社会に対するアンチテーゼを正しく提案することを基本にスタートしました。家づくりでもそれは同じです。使い心地が良く、無駄を省いた理にかなったかたちや機能を持ち、愛着を持って永く使える。『無印良品』には、みなさん、シンプル、ナチュラルというイメージを持つかもしれません。でも私たち自身が、そうしたイメージで『これが無印良品らしさ』とはしていないのです。愛着を持って永く使える家とは何か。それを常に考え続け、追求してきました」(豊田店長)
「無印良品」がマンションのリノベーションを手掛けたのは、2012年、UR都市機構(以下、UR)の賃貸団地の再生事業に参加したのがきっかけだったそうです。
「当時、団地の入居者の高齢化が進み、その活性化のためにも若い人の入居を促進したいというのが課題でした。初年度は20戸程度でしたが、好評だったため、戸数や対象団地を拡大。現在までに約800戸の実績があります」(豊田店長)
最初は「MUJI×UR」というコラボレーションの話題性が先行した部分もあったそうですが、住む人に評価され、URとの事業が現在も継続。それがきっかけとなり、「無印良品の家」で培った高性能・高品質の生活空間の実現を集合住宅に採用し、質の高い居住空間を実現しました。それが「無印良品のリノベーション MUJI INFILL 0」のスタイルとして、今、注目を集めています。いったい、どんな特徴があるのでしょうか?
マンションに求められる快適さとは「高品質な空間」の実現
「無印良品のリノベーション」では、「MUJIINFILL 0」という商品を販売しており、次の4つの特徴があります。
・廊下や居室を区切る間仕切りを設けない「一室空間」
・室内の温度環境を快適にする高断熱のリノベーションを標準化
・フルスケルトンからスタートする施工
・日本の住空間に合った素材とサイズ
これらがすべて「『マンションのリノベーションの基本』であってほしい」と豊田店長は言います。中古マンションでは、「室内環境の快適さ」が意外に見過ごされているからです。
「戸建てに比べ、マンションは室内の温度環境が安定しているという印象を持っている人も多いのですが、実は、1階は寒く、最上階は暑いなど、同じ建物の中でもそれぞれ外部の影響を大きく受けるものなのです。さらに窓際、南北間などでも差が生じます。それを居室ごとの冷暖房で調整しているのが実情です。私たちは、1戸の室内全体を均質な温度環境とし、我慢せず、どこにいても快適な環境にしています」(豊田店長)
マンションは、基本的に大きなコンクリート箱の中に各住戸が収められています。外壁のコンクリート躯体の内側が「室内」。「MUJI INFILL 0」では外壁に薄く高性能な新規断熱材を取り付け高い断熱性能を確保。
さらに共有部分のため手が加えられない既存窓の内側に、複層ガラスのインナーサッシを取り付けて3層ガラスにしています。これらにより、室内を丸ごと高断熱にでき、冷暖房効率の高い高品質な空間にしています。
そして、高品質な温度環境を生かして、室内を「一室空間」として活用し、壁による間仕切りを設けない自由な生活スタイルを提案しているのが大きな特徴です。「無印良品」の家具を用いて、家族構成の変化に合わせた可変性のある間取りを自由にアレンジして、生活の場を自分で作り出すライフスタイルの提案です。
「中には、間仕切りのないことが不安で、せめて寝室は間仕切りが欲しいと思う方も多いですね。もちろん間仕切りを作ることも可能ですが、移動式家具を自由に動かせば、寝室さえその時々で自由に場所を選べます。室内の使い方が格段に広がるのです。さらに、たとえば一般的には4人家族であれば70平米が必要とされていますが、間仕切りを移動可能な家具にすることで効率化が図れて、60平米程度で同様の生活も可能になることがあります。現在、首都圏の中古マンションは、平米単価が約50万円とも言われているので、10平米の差はとても魅力です」(豊田店長)
戸建て住宅やURの築年数の古い団地に対応した家具や建材の開発で、日本の一間(約1,820mm)、半間を基準にしたモジュールの家具を数多く取り揃えているので、さまざまな生活空間のアレンジが可能です。
「よく言われるのが『ちょうどいいね』という感想です。家は住む人の暮らしを入れる器。空間を提供することに止まり、前には出ず、何を盛り付け、楽しむかは住む人の楽しみです。そうした環境をリノベーションで提供したいですね」(豊田店長)
フルスケルトンで安心を「見える化」
豊田店長は、リノベーションで最も重視するのは「安心・安全」と断言します。しかし、「リノベーション済み」の物件の、内装の見た目と価格だけを検討しても住まいの品質は分かりません。絶対、欠かせないのはフルスケルトンにして、裏側をしっかりチェックすることだそうです。
リノベーションをするにあたり、豊田店長が「ここだけは必ず」と言うチェックポイントをまとめました。
□建物が新耐震基準(1981年6月1日以降の確認申請)を満たしているか? あるいは、耐震診断済か?
□フルスケルトンの状態での確認が可能か?
□施工現場の立ち合い確認は可能か?
□(施工会社の)リノベーション施工済みのマンションの見学は可能か?
「実際、壁紙を剥がしてみると駆体のコンクリートにヒビが入り、そこから雨漏りをしていた。水廻りの配管が腐食していた。電気配線の設備が古かったり、劣化していたり、そういった経年劣化は『あって当然』と考えるべきでしょう。『リノベーション済み』の物件も、もちろんそれらはクリアされているべきですが、自分の目で確かめられるのが、一番の納得と安心につながると思います」(豊田店長)
「無印良品のリノベーション 青山店」では、予約なしでも見学は可能。もっとしっかり中古マンションのリノベーションを知りたい人には、毎月セミナーを開催しています。毎回20から30名の参加者で賑わい、中古マンションの「あるある」な悩みや疑問がビギナーでも分かりやすいと好評だそうです。
日々情報が増え、調べれば調べるほど、結局リノベーションって何だろう? と悩む人も増えていると思いますが、具体的な事例を見て、知れば知るほど、逆に「そんなことから聞いてもいいのか」が分かり、さらに質問したくなることが、今回、豊田店長の話を聞きながら実感しました。
リノベーションは、知識ゼロでも気にせず疑問を解消し、物件にはスケルトンの状態から関わることで、その奥深さと面白さを楽しめる。それが将来のマイホームの納得・満足にもつながることでしょう。
取材協力 無印良品のリノベーション 青山店
https://www.muji.net/renovation/
※「無印良品のリノベーション」の個別相談・セミナー参加は、事前予約制です。