遺産相続に関する民法が40年ぶりに改正! 配偶者にとって何が変わる?

1980年以来40年ぶりに遺産相続にかかわる民法が大幅に改正されます。改正の大きな目的は「残された配偶者の住まいや生活の安定化」「介護などに貢献した配偶者や親族への配慮」などです。遺産相続を機に家族が争うことがないよう、正しい改正内容を知っておきましょう。

40年ぶりの民法改正で、遺産相続のルールが大きく変わる!

2018年7月に公布された法律案は、1980年に配偶者の法定相続分が3分の1から2分の1に引き上げられて以来の大きな改正です。日本人の平均寿命は1980年に男性73.35歳、女性78.76歳でしたが、2016年には男性80.09歳、女性87.26歳と男性は6.74歳、女性は8.5歳伸びています。しかも女性は男性より7歳ほど長寿です。もし、夫が3歳年上であれば、残された妻はその後も約10年間一人で生きていかなくてはなりません。

長寿化とともに残された配偶者の生活が困窮することがないように、配偶者の住まいや財産を守るのが、今回の改正の大きな目的です。他にも婚姻期間20年以上の夫婦や、介護に貢献したにもかかわらず相続権がない親族への配慮、遺言書の作成の簡略化などの改正が行われます。

以下、主な改正点についてお伝えしていきます。

配偶者居住権が新設されます(2020年4月1日施行)

配偶者居住権とは、所有権がなくても配偶者が今後も賃料を払うことなく、自宅に住み続けられる権利です。

たとえば、3,000万円の自宅と3,000万円の預貯金を配偶者と子ども2人が相続する場合で考えてみましょう。現行の民法では配偶者は不動産や金融資産を含めたすべての遺産の1/2が法定相続分となります。

しかし、遺産の中には自宅も含まれるため、自宅を配偶者が相続すると、残った3,000万円の預貯金は子ども2人で1,500万円ずつ分けることになります。これでは配偶者は自宅を相続しても生活の糧である預貯金の取り分ゼロとなってしまい、その後の生活が心配になります。

それどころか、預貯金がほとんどなく主な財産が自宅のみとなれば、自宅を子どもと分けることはむずかしく、別居の子どもが権利を主張すれば、最悪の場合売却して分けなければなりません。

相続発生後も配偶者が安心して自宅に住み続けられ、生活資金の確保もしやすくするために創設されるのが配偶者居住権です。

現行民法と配偶者居住権を利用した遺産分割の違い

配偶者居住権が成立するためには以下のような要件が必要です。

【1】配偶者が遺産である建物に相続時に住んでいたこと
【2】 以下のいずれかのケースを満たすこと
(ア) 遺産分割協議書に「配偶者居住権」が明記されている場合
(イ) 遺言書に「配偶者居住権」が明記されている場合
(ウ) 家庭裁判所の審判に「配偶者居住権」が明記されている場合

配偶者居住権は終身で配偶者が自宅に住み続けることはできますが、建物所有者の承諾を得なければ増改築や譲渡、賃貸に出すことはできません。また、通常の必要費は配偶者が負担するなど、所有権に比べると弱い権利となっています。さらに、実際の法律の運用については未定で、配偶者居住権の評価をどのようにするかなど詳細は決まっていません。

終身の配偶者長期居住権とともに、配偶者を短期的に保護する配偶者短期居住権も創設されます。他の相続人が相続することが確定した日、または相続開始から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までは、配偶者が無償で居住できる権利です。遺産分割協議書または遺言書への明記が必要です。

結婚期間20年以上の夫婦を優遇(2019年7月1日施行)

婚姻期間が20年以上の夫婦に限り、配偶者間で自宅を生前贈与または、遺贈した場合、遺産分割の対象としないことになります。

たとえば相続人が配偶者と子ども2人で、夫から2,000万円の自宅と500万円の預貯金を生前に贈与されていたとします。現行の民法では複数の相続人の中で配偶者だけが2,500万円を特別に生前贈与されたことになり、相続時には2,500万円も相続財産にもどして、相続人3人で分割することになっています。これでは生前贈与をしても配偶者を守ることができません。

今回の改正では、婚姻期間20年以上の夫婦に限っては、生前贈与された2,000万円の自宅は相続財産の対象から外されます。その結果預貯金の500万円のみ相続の対象となり、配偶者は自宅に住み続けることができます。

介護に対する貢献度を評価(2019年7月1日施行)

法定相続人ではない親族が生前に看護や介護で貢献した場合、現在の民法では遺言書がない限り、遺産相続はできません。たとえば義父を介護する、子どもはいるが遠方に住んでいるため近くに住んでいる妹が看護をおこなった、などという場合、嫁や妹に相続権はありません。今回の改正では親族に限りますが、看護や介護に貢献度の高かった親族は、法定相続人に特別の貢献分を金銭で請求できるようになります。

しかし、貢献度が認められるには「1年以上他の仕事をせず親の財産維持に貢献した」などハードルが高いのが現実です。

遺言の作成が今までよりも簡単に(2019年1月13日施行)

自筆証書遺言の作成や保管が簡素化されます。

自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自筆し、これに押印することによって成立します。自筆証書遺言は簡単に書くことはできますが、日付や署名捺印などに不備があったり、内容があいまいだったりと、実際に相続が発生した時には要件を満たしておらず、効力が発生しない恐れもあります。

また、家族に遺言書の存在を伝えていなかったために、保管場所がわからず遺言書が紛失してしまったり、偽造される可能性もあります。開封時には法定相続人全員が立会いの下、家庭裁判所の検認が必要など、一般の人にとっては複雑なルールもあります。

今回の改正では以下の3点が簡略化、利便化されます。

【1】「全文を自書」から不動産や預貯金などの財産目録については、ワープロやパソコンでの作成が可。
【2】 自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになる。
【3】 家庭裁判所の検認は不要

公証人が書く公正証書遺言とともに、現行制度の特徴を下表にまとめましたので、今回の改正点とあわせて確認してみてください。

まとめ

以上、今回の遺産相続にかかわる民法改正の概略についてお伝えしました。

日本の社会はここ数十年で「家(財産)は長男が引き継ぐ」時代から「法定相続通りに平等に引き継ぐ」という考え方に変わってきました。考え方の変化に伴い、民法上の平等を追求したり、相続税対策など経済的メリットのために、配偶者を飛び越して次の世代の子どもに自宅を相続させることも増えています。

そのため、高齢の配偶者が安心して自宅に暮らし続けることができなくなる事例や事件も増えています。こうした社会の変化に対応しようとしているのが、今回の民法改正です。

遺産分割は家族の話し合いで、法定相続分通りではなくどのように分けても自由です。本来は「配偶者居住権」を明記しなくても、家族の思いやりで配偶者が住み続けられることが理想です。また、看護や介護など見えにくい貢献についても同様です。

しかし、家族の事情や経済的な事情で配偶者や看護や介護に貢献度の高い親族の権利を守ることが難しいときは、今回の改正点を活かして、弱い立場の人、貢献度の高い親族を守ることも必要な時代なのではないかと思います。

(最終更新日:2019.10.05)
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