親の土地に家を建てる。“相続”でモメないために親ができる4つのこと

これから家を建てようとしている方の中には、実家がある親の土地に建てる方もいるでしょう。親の土地に建てると、土地の取得費がかからないため、負担を大幅に軽減することができます。ただし、将来、親が亡くなって財産を相続するときに、兄弟同士でトラブルにならないようあらかじめ配慮しておく必要があります。

親の土地に家を建てると、親名義の土地の相続で揉める可能性が

実家の敷地に住宅を建てることができれば、土地を取得するための費用がかからず、住宅の建築資金のみを準備すればよいため、大幅な負担の軽減を図ることができます。実家を建て替え、親子で二世帯住宅を建てる場合も同様です。

このような場合、土地と建物の名義は、下図の例のようになります。

親が所有する土地に家を建てる場合、親から無償で借りる土地に自分の家を建てることになりますが、このこと自体には何の問題もありません。親に地代を払う必要もありませんし、土地の贈与もないため贈与税を払う必要もありません。

将来懸念されることは、親が死亡した後、財産を相続する際に、遺族間で揉めないかどうかです。一人っ子の場合はすべての財産を一人が相続することになるため問題はありませんが、兄弟姉妹がいる場合、簡単に分けることができない土地の相続でトラブルにならないとも限りません。

相続時のトラブルを回避するためのために、あらかじめ配慮すべきこと

親の土地に子どもが家を建てた場合、親はその子どもに自分の土地を相続させたいと思い、子どもも自分の家が建っている土地を親から相続したいと思うでしょう。

兄弟姉妹間のトラブルがなく、円滑に遺産分割が進み、遺族が納得して相続する方法について、あらかじめ主体的に検討し、準備する必要があるのは、家を建てる子どもではなく、土地を子どもに提供する親です。親の認識が足りない場合は、家を建てる子どもから親へ働きかけを行ったほうがよいかもしれません。

なお、二人の親のうちの片方が亡くなる「一次相続」で、残った親(配偶者)が土地を相続する場合には、子ども同士のトラブルは起こりません。しかし、その後残った親が亡くなる「二次相続」のときに、遺産分割をめぐって兄弟姉妹間のトラブルに発展する可能性があります。

トラブルを防ぐには、あらかじめ対策を講じておく必要があります。

4つのケース別に対策をチェック

父親がすでに死亡し、母親が持っている実家の敷地に、子どもAが自分の名義で家を建てたケースを例にとって、主な対策を考えてみましょう。なお、子どもAと子どもBは兄弟であり、子どもAの家が建っている部分の母の土地の価値は1,000万円とします。また、この家族構成の場合、子どもAとBには、母親の財産を2分の1ずつ均等に相続する権利があります。

父親:死亡
母親:実家の敷地の土地所有者
子どもA:実家の敷地に自分名義で家を建てた、かつ母親の財産を2分の1ずつ均等に相続する権利を有する
子どもB:母親の財産を2分の1ずつ均等に相続する権利を有する

【1】事前に母親から子どもA、Bに意思を伝えておく

まずは、母親から、子どもAとBに対して、事前に自分の意思を明確に伝え、互いに納得してもらっておいたほうがよいでしょう。この場合の意思とは、「家を建てる子どもAに、将来自分の土地を相続させたい」という内容です。子どもAとBには母親の財産を均等に相続する権利があるものの、相続時に当事者間で合意できれば、実際にはどのような分け方をしても構いません。そのため、事前の親子間の合意形成には、トラブルを未然に防ぐ効果があります。

ただ、生前の合意には法的拘束力がないため、実際に母親が亡くなったあと、子どもBが自分の権利を主張しはじめた場合は、トラブルになる可能性があります。

【2】子どもAに相続させる土地の価値と同じくらいの財産を、子どもBにも準備しておく

子どもAとBには、母親の財産を2分の1ずつ均等に相続する権利があるため、子どもAに相続させたい土地の価値1,000万円と同等の財産(預貯金など)を、子どもBが相続できるように母が生前に準備できれば、子どもBの不満を抑えることができます。なお、子どもAとBに相続させる財産をあらかじめ特定しておきたい場合は、母が生前に遺言を書く必要があります。

【3】母が遺言を書いて、子どもBの相続する権利を縮小させる

子どもAに相続させたい土地の価値1,000万円と同等の財産(預貯金など)を、子どもBのために準備できない場合などは、母親が遺言を書けば、子どもBが相続できる権利を縮小させることができます。ただし、権利をまったくなくすことはできません。遺族の生活保障等のために、一定の相続人には最低限取得することができる遺産の取り分(遺留分といいます)が認められており、この家族構成の場合、子どもBの遺留分は母の財産の4分の1です。

したがって、母親が、最低限全財産の4分の1を子どもBに相続させ、土地1,000万円を含めその他の財産を子どもAに相続させる内容の遺言を書けば、土地を確実に子どもAに渡すことができます。ただし、母親が亡くなったあとの子どもAとBの関係が悪化する可能性があります。

【4】子どもAが土地を相続し、子どもBにはAが金銭を払う(代償分割)

母親の相続財産が土地しかないような場合には、母親が死亡したあとに子どもAとBが協議をして、代償分割という方法を使えば、子どもAが土地を相続できます。

代償分割とは、相続人のうちの一人または数人が不動産などの現物の資産を相続し、他の相続人に代償金(または代償財産)を支払って遺産を分け合う方法です。

土地しかない相続財産を均等に相続しようとすると、土地を売却してお金に換える方法しかありません。しかし、土地を売るためには、その上に建っている子どもAの家もセットで売却しない限り買い手は現れないでしょう。結果、子どもAは住まいを失ってしまいます。

また、土地を子どもAとBが共有する形で相続すると、やがて困ったことが起こります。子どもAにとっては、自分の家が建っている土地を自分の自由にできません。子どもBにとっても、土地を売却して換金するにはAの承諾が必要ですし、そもそもAの家が建っている土地に買い手は現れないでしょう。

代償分割を使う場合は、1,000万円の土地を子どもAが相続し、あとで子どもAからBに500万円の代償金を支払います。こうすることで、結果的にはAとBが公平に相続したことになります。

なお、代償分割をするときは、母親が亡くなったあとに子どもAとBが行う遺産分割協議の結果を記す「遺産分割協議書」にその旨を明記する必要があります。明記しなければ、代償金は相続とは無関係の贈与とみなされ、贈与税の対象となります。

まとめ

親の土地に子どもが家を建てる場合、子どもにとっては住宅を取得するときの負担が軽減できるメリットがあり、親にとっても子どもが近くに住んでくれると老後に安心です。しかし、将来、相続時に兄弟姉妹同士でトラブルが起こることのないように、あらかじめ準備して対策を講じておく必要があります。
親としては、どのような方法が実現可能で適しているかを検討する必要があります。親が高齢になって判断力が衰える可能性もあるため、子どもの立場からも考えておいたほうがよいでしょう。

(最終更新日:2019.10.05)
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