共働き世帯の増加などから、利便性の良い立地の家探し人気は年々高まっています。分譲マンションは、新規供給戸数が頭打ち状態で価格も高止まりしている状況で、新築・中古にこだわらず比較検証する購入者が増えているようです。中古マンション購入者の選択理由は「価格が適切だったから」(69.2%)、「住宅の立地環境が良かったから」(59.7%)が上位に挙げられ、設備に関しても「間取り・部屋数」や「住宅の広さが十分」など中古物件の魅力が判断材料となっています(参照「平成29年度 住宅市場動向調査報告書」)。リノベーション物件の増加やリフォーム費用も一緒に住宅ローンが組める【フラット35(リフォーム一体型)】の活用も中古マンション選択を後押ししています。
一方で、中古マンションでは、経年に伴う修繕積立費の負担、以前からの入居者の高齢化や新規入居者の車離れによる空き駐車場の増加などが課題となってきています。そうした中、マンションの共有スペースや空き駐車場などの空間を外部とシェアし、利用料を得る「稼ぐマンション」が増えています。不動産の未活用スペースに注目し「稼ぐ」ソリューション提案を行っている軒先株式会社の西浦明子さんに話をうかがいました。
「スキマハンター」が見つけた「稼ぐマンション」の「儲かる」仕組み
西浦明子さんの名刺には、軒先株式会社・代表取締役の横に「スキマハンター」と並記されています。創立は2008年、自身が物販事業を開始するため店舗を探したところ、不動産契約のハードルの高さを実感し、「空きスペースをシェアする」不動産活用に気づいたそうです。
「従来、不動産業界の空間活用は、専用の設備を整えて2年以上の契約を前提に長期の安定収入を図る重厚長大型でした。利用する側も同じ場所での経営成功が目標であったので、貸す側と借りる側の目的はマッチングしていたんです。しかし、ビジネスが多様化し、起業スタイルも変化しました。店舗の内装費や賃貸の固定費に大きなリスクを背負いたくない。そうした借りる側には「ちょっとした場所」を「使いたい時に使いたい」というニーズが増えていましたが、対応できる不動産がなく、不動産所有者側からすれば資産活用の機会を逃していました。弊社は、空き店舗だけでなく、店舗の軒先やマンション敷地の一角など不動産の「スキマ」に、実は貸したい・借りたいの取引を発生させるチャンスがあることをお伝えし、仲介事業を実現しています」(西浦さん)
重厚長大に対して軽薄短小、「不動産のコンビニ化」と呼んでいる同社の「軒先ビジネス」には、累計約7000件の「スキマ」スペースが登録され、約10000件の出店者が日にち貸し・時間貸しで利用しています。デパ地下に出店しているスイーツ店やメーカーが新製品をプロモーションするために短期間出店したり、ランチ弁当のキッチンカーが1日数時間営業したり、利用者も利用目的もさまざまです。
「そうした利用ニーズでは「軒先」であることはむしろメリットなんです。人通りがある場所に出向いて一見さんの相手と対面接客できる。新たな顧客の掘り起こしにもなる。また、たとえばランチ弁当が500円で100食売れた場合、売上げは50000円です。場所代にかけられるのは10%が限界。「軒先ビジネス」では、昼時の3時間を3000〜4000円で利用できます。貸す側からすれば1日数千円の売上げですが、1か月の平日は毎日利用され、今まで未活用だったスペースから月に数万円を「稼ぐ」ことができます」(西浦さん)
住み慣れた風景のまま、「稼ぐ」仕組みを活用する
同社が5年ほど前から取り組むもう1つのスペースシェア事業は、空き駐車場を活用した「軒先パーキング」です。月極駐車場や個人宅の空き駐車場のほか、近年では、マンションの管理組合と契約を結ぶ事例が増えています。2012年に国税庁が、マンション管理組合が区分所有者以外にマンションの駐車場の使用を認めた場合、収益事業に該当する・該当しない場合の見解を発表(マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について(照会))したことで、積極的な運用気運が高まっているのです。管理組合から見た場合、空き駐車場の有効利用には、「コインパーキング」「カーシェアリング」「軒先パーキング」などの選択肢があります。西浦さんは、管理組合に出向きマンションの住人に事業説明のプレゼンをすることもあり、現場の声からはマンション独特のニーズがあることが分かります。
「自分たちが暮らす場でもあり、風景が大きく変わるような設備工事を望まない組合員の方が多いですね。また、新規入居者が駐車場利用を望んだ場合にすぐに切り替えられる要望も強いのが特徴です」(西浦さん)
駐車場を借りる側だけでなく、貸す側の手軽さも「軒先パーキング」が選ばれる理由になっていると言います。数車分空いていた場合、1台分をカーシェアリング、数台分を「軒先パーキング」で運用し、収益の様子見をすることも可能です。「軒先パーキング」では、駐車場料金の設定にダイナミック・プライシングを実施。人気の高い日の駐車料金を高く設定しています。都心の大型イベント会場近くの登録駐車場では、1台分で月に約6万円を「稼ぐ」事例もあるそうです。
積極的なシェアスペースでマンション価値とエリアの価値を高めていく
「軒先パーキング」は、従来、路面の駐車場でのみの運用でしたが、同社はIHI運搬機械株式会社とIoTプラットフォームを共同開発。ゲート式駐車場でも、利用者がスマホを使って出入りできるスマートゲートシステム「aQmo(アクモ)」によるサービスの提供を開始しました。将来的には、「aQmo」を使い、オートロック式のマンション内の共有施設も外部に貸し出せるようにしたいと西浦さんは言います。
「物販店舗と同様に、教室やサークル利用としてのシェアスペースのニーズが高まっています。専業主婦の方が、週に1、2度。地域の人を集めて教室を開きたいといった場合、マンションの集会スペースやパーティールームなどは最適な空間です。本来、マンションは充実した設備を持った建物です。それが地域に開かれることで、マンションが地域に必要とされ、マンションが地域を活性化させる拠点となっていくと考えています」(西浦さん)
地域の拠点となるマンションは、不動産価値を高め、エリアの魅力も高めていく。そこに不動産業界も注目し、中古マンションの空間活用にとどまらず、これからの新築マンションでも、開発段階からそうしたシェアスペースのノウハウを取り入れたいという要望・相談が増えているそうです。
これからの家探しは、立地の良さ、設備の良さはもちろん、プラスアルファとしての「稼ぐ空間」の有無も判断材料の1つとなっていくのではないでしょうか。
取材・画像協力:軒先株式会社(コーポレートサイト、軒先ビジネス、軒先パーキング)
(最終更新日:2019.10.05)