住宅ローンの金利競争のつばぜり合いが続く中、金利以外の魅力を打ち出そうとする動きが見られます。団体信用生命保険も介護保障まで含むなど更なる進化が進む一方で、家事代行や病児保育、学童保育など生活の中で使えるクーポン付きや保険付きなど、付帯サービスの競争も激しくなりつつあります。
団体信用生命保険がさらに進化中!?
住宅ローンにおいて、金利以外の面での違いとして各金融機関が前面に出しているものの一つが、保障範囲を広くした団体信用生命保険(団信)です。一般的な団信は、借り入れ者が死亡・高度障害になった場合に住宅ローンの残高分が保険金で支払われ清算されますが、より保障範囲が広いものが数多く登場し、いまや、「3大疾病保障付き団信」はスタンダードと言っても過言ではないでしょう。この場合、死亡・高度障害のほか、がん、脳卒中、急性心筋梗塞で所定の状態になった時にも住宅ローンの残高が清算されます。
また「7大疾病保障」(三菱東京UFJ銀行)や「8疾病保障」(ARUHIや住信SBIネット銀行)といったものもあり、保障対象となる疾病の種類が増えます。対象の疾病により所定の「就業不能状態」になると、毎月の住宅ローン返済が免除され、12ヶ月など決められた期間を超えて就業不能状態が続いた場合に残高が清算されます。
一方で、全国地方銀行協会の「地銀協ライフサポート団信」では、就業不能の原因は限定されません。精神疾患を除く病気やケガで所定の就業不能状態が3ヶ月を超えて継続すると毎月の住宅ローン返済が免除され、就業不能状態が12ヶ月を超えた場合に残高が清算されます。
さらにこれらを上回るのが、静岡銀行の「新8疾病プラス」です。3大疾病および5つの重度慢性疾患(高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎)で、所定の条件に該当した場合に残高が清算されるほか、それ以外の病気やケガによる就業不能状態でも毎月の住宅ローン返済が免除され、12 ヶ月間続くと残高が清算されます。この他、リビングニーズ特約で余命6ヶ月以内と診断されても清算されるほか、配偶者特約で住宅ローン契約者の妻が女性特有のガンと診断された場合にも100万円が支払われます。
加えて、団信で意識されるようになってきたのが介護です。りそな銀行の「団信革命」では、3大疾病や16の特定状態(所定の身体障害状態)になったときに加え、公的介護保険制度で要介護2以上の認定を受けるなど、所定の「要介護状態」になったときも残高が清算されます。
死亡・高度障害の団信特約料は多くの場合は無料です(※)。しかし、こうしたプラスオンの保障が付いた団信を利用するには、金利が0.25%~0.3%程度上乗せになります。例えば3,000万円を30年、全期間固定金利1.6%、ボーナス払いなし、元利均等返済で借りるとき、プラスオンの団信の保障を付けたことで金利が0.3%上乗せになれば、住宅ローンの総返済額は約159万円増えます。それだけ払って付けたい保障か、よく検討したいものです。
金融機関名 | サービス名 | 死亡・高度障害時以外の保障内容 | 保険料 |
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住信SBI ネット銀行 |
8疾病保障特約 |
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無料 |
静岡銀行 | 新8疾病プラス |
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りそな銀行 | 団信革命 |
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金利+0.3% |
ワイド団信も広がっている
健康上の理由で通常の団信に加入できない人向けに、保険会社の引受基準が緩和された「ワイド団信」を扱う金融機関も増えました。ワイド団信は金利が0.3%程度上乗せされます。ただし、銀行等の住宅ローンは、団信に加入できないと借り入れ自体ができない場合が多いので、健康状態に不安がある人はワイド団信を扱う金融機関を選ぶのも一つの手です。
ただし、持病があっても通常の団信に入れることもあるので、まずは一般の団信に申し込み、審査が通らなかった場合にワイド団信に申し込んだ方が良いでしょう。
金融機関名 | サービス名 | 概要 | 保険料 |
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一部の金融機関 | ワイド団信 (引受基準緩和型団信) |
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金利+0.3%程度 |
夫婦連生団信も増え始めた
筆者が以前から保障設計上の注意点として指摘してきたことの一つが、共働き夫婦が2人でそれぞれ住宅ローンを借りた場合です。一方に万が一のことがあっても、団信で相殺されるのは一方の分だけで、他方の住宅ローンは残ります。また、収入合算をして連帯債務として1本で住宅ローンを借りた場合に、団信に入れるのは1人だけで、入っていない方が亡くなると、収入は半減するのに住宅ローンは残るというリスクがありました。
ここのところ、このようなリスクに対応する団信が登場してきています。
こうした問題を解消し、夫婦のどちらかが死亡した場合に、その時点で残るローン残高が全額免除されるのが夫婦団信です。最近、この夫婦連生団信が増えてきました。
【フラット35】には以前より夫婦連生団信「デュエット」がありましたが、労金でも2015年2月から「ろうきん団体信用生命保険(夫婦連生団信)」を導入しました。また、4月より三井住友銀行も連生団信付き住宅ローン「クロスサポート」を発売しました。
「デュエット」の特約料は1人分の1.56倍、労金は金利に0.1%上乗せ、「クロスサポート」は金利に0.18%上乗せになります。生命保険で備えることもできる保障ですので、見積もりをとって団信コストと比較して納得の上で利用したいものです。
<表3 夫婦連生団信>
金融機関名 | サービス | 概要 | 保険料 |
住宅金融支援機構 | 夫婦連生団信「デュエット」 |
・連帯債務者である夫婦が加入(婚約中や内縁関係も可) ・夫婦の一方が死亡・高度障害状態になると、住宅の持分や返済額にかかわらず残高が清算 |
特約料は一人加入の約1.56倍 |
三井住友銀行 | 連生団信付住宅ローン「クロスサポート」 |
・収入合算をして連帯債務者として夫婦で共同で借りる ・夫婦の一方が死亡・高度障害状態になると、住宅の持分や返済額にかかわらず残高が清算 |
金利+0.18% |
自然災害補償付き住宅ローン
さらに、自然災害補償をセットした住宅ローンも出始めています。
例えば、三井住友銀行の「自然災害時返済一部免除特約付き住宅ローン」では、2タイプあります。1つは、「約定返済保障型」で、住宅ローンを借りた家が水災や落雷、地震その他の自然災害に遭ったとき、一定期間の住宅ローン返済分が免除されます。もう1つは「残高保障型」で、地震・噴火・津波による火災・損壊・埋没または流失により全壊した場合、住宅ローン残高のうち建物分の50%相当が免除になります。保障をつけると、「約定返済保障型」が金利に0.1%上乗せ、「残高保障型」が金利に0.5%上乗せになります。
また関西アーバン銀行も「自然災害補償付き住宅ローン」を扱っています。自然災害に遭った場合に、全壊で24回など程度に応じて住宅ローンの返済が免除されます。利用する際は、金利に0.1%上乗せになります。
いずれも、火災保険や地震保険を補う保障と位置付けられます。加入している保険を確認して、補う必要があるかどうか判断しましょう。
その他さまざまな付帯サービスが!
ここまで自分で特約料を負担して選択する団信や保険を見てきましたが、最後は主に無料で付いてくるサービスを見てみましょう(有料のものもあります)。
まず、以前から注目されているのが、イオン銀行の「イオンセレクトクラブ」です。住宅ローンを借りると入会でき、5年間はイオン系列店での買い物が5%引きになります。住宅ローンの借入金額1,000万円以上2,000万円未満で年間45万円、2,000万円以上で年間90万円までの買い物で利用できます。フルに使えば、90万円×5%×5年=22万5000円がお得になります。その他、定期預金の金利優遇などもあります。
また損害保険を無料付帯するサービスも登場しており、例えば京葉銀行では、住宅ローンを借りた人向けに、「個人賠償責任保険」「交通事故死亡後遺障害保険」「生活サポートサービス」を付帯サービスとして提供しています。個人賠償責任保険は、他人の物を壊したりケガをさせるなど法的な賠償責任を負った場合に、5000万円を限度に支払われます。交通事故死亡後遺障害保険は、交通事故で死亡・後遺障害を負った場合に保険金(最高100万円)が支払われます。生活サポートサービスは、健康や医療、介護、暮らしの相談や情報提供、紹介サービスを、フリーダイヤルで受けられます。
さらに最近、話題になっているのが、新生銀行の「安心パック」「安心パックW」でしょう。基本の事務手数料5万4,000円に、安心パックは5万4,000円、安心パックWは10万8,000円を上乗せして支払うことで受けられます。
安心パックは、公的介護保険で要介護3以上と認定されるか所定の要介護状態になり、180日以上継続した場合に住宅ローンが清算される「安心保障付き団信」と、繰上返済で短縮した期間がある場合は、短縮した期間の分は元金の返済をせず利払いのみにできる「コントロール返済」が利用できます。この安心パックに、借入金額に応じて付与される病児保育や家事代行、ハウスクリーニングのサービスが利用できるクーポンがプラスされたのが「安心パックW」です。クーポンは借入金額3,000万円以上で50枚(約60万円相当額)もらえて、10年間有効です。病児保育ならクーポン2枚で1回利用、家事代行はクーポン1枚で3時間利用できます。さらに2015年4月より「東急グループプラン」が登場し、学童保育や家庭の防犯、習い事でもクーポンが利用できるようになりました。東急沿線に家を買う人には便利なサービスです。
ARUHIも7月1日より、住宅購入後の暮らしをサポートする「ARUHIメンバーズクラブ」をスタートしました。住宅ローン利用者に対し、家電、家具、インテリア、水宅配などを優待価格で提供し、将来的には、セキュリティや家事代行、育児支援、リノベーション、介護支援、ヘルスケアなどまで拡大する予定となっています。無料付帯で、すでにARUHIで住宅ローンを借りている人も利用できます。
<表4 付帯サービス付き住宅ローン>
金融機関名 | サービス名 | 概要 | 利用料 |
京葉銀行 | くらしの安心パッケージ |
・個人賠償責任保険:最高5,000万円。期間10年 ・交通事故死亡後後遺障害保険:最高100万円。期間10年 ・生活サポートサービス:フリーダイヤルで健康・医療、介護、暮らしの相談、情報提供等 |
無料 |
新生銀行 | 安心パック |
・安心保障付き団信:死亡・高度障害時以外に、要介護3など所定の介護状態で残高が清算 ・コントロール返済:繰上返済で短縮した期間内で元金返済を据え置き、利払いのみにできる。何度でも利用可。手数料は無料 |
事務手数料+5万4,000円 |
安心パックW |
・「安心パック」に、クーポンによる病児保育、家事代行、ハウスクリーニングサービスがプラス ・クーポン枚数は借入金額による(10年有効) ・「東急グループプラン」は東急グループの施設やカルチャーセンターで、学童保育や家庭の防犯、習い事のサービスでクーポンが利用できる |
事務手数料+10万8,000円 | |
ARUHI | ARUHI暮らしのサービス |
・住宅購入後の暮らしをサポートする会員サービス ・家具、家電、インテリア、外食、旅行などさまざまな優待サービスが受けられる |
無料 |
「あればいいな」ではなく必要性の見極めを
金利での競争が行き着いた今、こうした団信メニューや付帯サービスは今後、広がっていくことでしょう。住宅ローンは大きな借金であり、長期に渡って返済していくものです。したがって、その間の返済がより安心になり、サービスが増えて快適に過ごせることは、利用者にとってプラスとなるでしょう。
ただし、こうした団信や付帯メニューから住宅ローンを選ぶ、というのは順番が逆かもしれません。住宅ローンは、事務手数料や保証料、団信特約料などを含めた総コストで比較すべきなので、そうした総コストよりも団信メニューや付帯サービスが重要かというと、それはちょっと違うと個人的には思います。
基本的には総コストで比べて住宅ローン候補を絞り込み、その上で団信や付帯サービスを見て最終決定すべきだと思います。「あればいいな」程度でなく、「どうしても必要だ」という保障やサービスを見極めることが大事です。
また、実際に某銀行が宿泊やレジャー、家事代行、介護など優待価格で利用できる付帯サービスなどを今年9月末で終了すると発表した例があるように、付帯サービスなどは突然、廃止されることもあります。長く付き合える住宅ローンは冷静な目で選びたいものです。
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(最終更新日:2019.10.05)