住宅ローンを大きく分けると、住宅金融支援機構の【フラット35】と民間金融機関の住宅ローンに分けられます。同じ住宅ローンでありながら、金利や金利タイプの違いだけではなく、利用条件や審査基準など、借り入れから返済に至るまでさまざまな相違点があります。2つの住宅ローンの違いはどこにあるのかを見ていきましょう。
それぞれの住宅ローン、基本的な違いは?
まずは、2つの住宅ローンの基本的な違いから見ていきましょう。
【フラット35】は、住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して融資する住宅ローンで、多くの金融機関で取り扱っています。住宅金融支援機構は、国土交通省と財務省が所管する独立行政法人で、民間金融機関が取り扱った【フラット35】の債権を買い取り、それを証券にして投資家に販売するのが基本的な役割です。
そのため、【フラット35】の商品内容や利用条件は、住宅金融支援機構が定めた基準に則って販売されるため、金利や事務手数料以外は、どの金融機関から借りても同じです(その他オプションサービス等に違いがあることもあります)。
それに対して民間金融機関の住宅ローン(以下、民間住宅ローン)は、主に銀行や信用金庫が独自に開発して融資する住宅ローンです。いわば各金融機関のオリジナル商品であるため、金融機関ごとに商品内容や利用条件が異なり、保障や優待サービスなどの付加価値オプションサービスを付けている金融機関もあります。
このように、国と民間が「協力」して住宅ローンを販売するのか、住宅ローンを「自前」でつくって販売するのかが、【フラット35】と民間住宅ローンとの基本的な違いです。
<図表1 取り扱う金融機関>
【フラット35】 | 民間住宅ローン | |
---|---|---|
取り扱い金融機関 | 住宅金融支援機構と提携する全国の銀行、信用金庫、モーゲージバンクなど | 銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協など |
ローンの対象となる利用条件は?
次に、借りる人やローンの対象になる物件の利用条件を見てみましょう。
例えば、借りる人は年齢満70歳未満、日本国籍または永住許可を受けている人など基本的な要件はどちらも同じです。ところが、勤続年数や最低年収ついて【フラット35】では要件を定めていませんが、民間住宅ローンでは、金融機関ごとに勤続年数や最低年収などの基準が決められていて、一般的に【フラット35】よりも利用条件は厳しくなります。
つまり、長く同じ会社に勤務して安定収入があり、年収の基準を満たしている人なら、基本的にはどちらの住宅ローンでも利用できます。一方で、転職して間もない人や派遣社員、自営業者など、収入の継続性や安定性にやや不安のある人なら、民間住宅ローンよりも【フラット35】の方が利用しやすいといえます。
また、物件については、特に建物の取り扱いが異なります。【フラット35】では、床面積や耐久性・断熱性など、住宅金融支援機構独自の基準を満たす必要があります。そのため、【フラット35】で借りる場合は、建物の検査を受け、建物が基準を満たしていることを証明する「適合証明書」を取得します。ただし、あらかじめ検査済みの物件であれば、適合証明書の手続きが簡素化されたり、省略できる場合があります(※)。一方で、民間住宅ローンでは、【フラット35】のような適合証明書の取得は不要です。
さらに、土地から探して注文住宅を建築する場合もあるでしょう。【フラット35】、民間住宅ローンともに、土地の購入資金と建物の建設資金を含めた借り入れは可能ですが、融資されるタイミングに違いがあります。
一般的に土地購入から注文住宅建築の場合は、土地の購入資金、建物の着工金、中間金など数回に分けて資金を支払う必要があります。しかし、【フラット35】は、完成した建物に融資するのが基本のため、土地の購入資金、建物の着工金、中間金の支払いには、住宅ローンとは別に「つなぎ融資」を用意しなければなりません。つなぎ融資の資金は、最終的に建物完成時に融資される住宅ローンと相殺して返済されます。
一方で、民間住宅ローンの場合は、金融機関によって取り扱いが異なります。【フラット35】と同じように、つなぎ融資が必要になる場合や、土地購入時、建物着工時、中間時、引き渡し時など何回かに分けて融資してくれる金融機関もあります。
また借地権付き住宅についても違いがあります。民間金融機関の場合には、地主が地方公共団体や、宗教法人等で所有状態が安定していれば借入れできることがありますが、基本的には借り入れは難しいと言われています。
ただし、【フラット35】では、土地に第1順位の抵当権を設定することなどの一定の要件を満たせば、借地権の取得と建物の購入費用を合わせて借り入れできるので利用しやすいでしょう。(提携金融機関によっては利用できない場合もあります。)
その他、民間住宅ローンではリフォームや購入に伴う諸費用(手数料や保証料、火災保険料、引越し費用など)にも住宅ローンが利用できるのに対し、【フラット35】ではリフォームのみの目的や(借り換えを除く)諸費用に利用することはできないといった違いもあります。
<図表2 主な利用条件の比較表>
【フラット35】 | 民間住宅ローン※ | |
---|---|---|
借りられる人 |
|
|
借りられる住宅 |
|
|
借地権 |
|
|
利用目的 |
|
|
返済期間 |
|
|
借入金額 |
|
|
利用条件の違いだけでなく、借入可能額を決める審査方法や金利をはじめ、諸費用、繰り上げ返済などの取り扱いにも違いがありますので、それぞれ見ていきましょう。
住宅ローン借り入れ審査の基準は?
前述のように基本的な利用条件を満たした場合でも、無制限に住宅ローンを借りられる訳ではありません。借入可能額は「返済負担率」といって、借りる人の年収に占める住宅ローンやその他の借り入れの年間返済額の割合で決まります。
例えば、【フラット35】の返済負担率は年収400万円を境に基準が変わります。年収400万円未満の返済負担率は30%以下、400万円以上では35%以下と決められていて、通常はこの基準内に収まっていることが必要です。年間返済額の計算に使われる金利は、審査時点での借入金利になります。(図表3参照)
<図表3 【フラット35】返済負担率の試算例>
借入金額:3,500万円 |
|
年収500万円の場合 | 年収380万円の場合 |
年間返済額 129万4,212円÷500万円=25.9% (借り入れできる) |
年間返済額 129万4,212円÷380万円=34.1% (借り入れできない) |
民間住宅ローンの返済負担率は銀行ごとに決められていますが、基準を公表しているわけではありません。一般的には30~35%以下と言われていて、収入によって返済負担率の基準が変わるのは【フラット35】と同様です。
また、返済負担率の試算には、適用金利よりも高い審査金利と呼ばれる金利で計算される場合があります。これは、変動金利(半年型)などの場合で、将来金利が上昇して返済額が上がった場合でも、借り手の返済に支障がないかどうかを見るためです。
<図表4 審査基準の比較>
【フラット35】 | 民間住宅ローン |
・返済負担率 ・審査金利:審査時の借入金利 |
・返済負担率 ・審査金利:4%(金融機関による) |
金利タイプ・金利水準は?
金利タイプや金利水準の違いについても見てみましょう。
金利タイプには、「全期間固定金利型」「当初固定金利型」「変動金利型(半年型)」の3種類があります。【フラット35】は、全期間固定金利型のみですが、民間住宅ローンでは基本的にすべての金利タイプを取り扱っています(一部、全期間固定金利型を取り扱っていない場合もあります)。
なお、一部の民間金融機関では、【フラット35】と変動金利型(半年型)を組み合わせた、ミックスローンが可能な場合もあります。
金利は一般的に全期間固定金利型が最も高く、当初固定金利型、変動金利型(半年型)の順に低くなります。(※)金利は毎月見直されますので、申込時と融資実行時の金利は違う場合もあります。
また、住宅ローンの金利には、店頭金利と適用金利があります。民間住宅ローンの金利は、ほとんどの場合、各銀行が独自に決める「店頭金利」から、金利を引き下げた「適用金利」が実際に融資される金利になりますが、【フラット35】には、基本的に民間住宅ローンの変動金利型(半年型)や当初固定金利型でみられるような金利の引き下げはありません。
民間住宅ローンの金利引き下げ幅は、多くの場合、借りる人の職業や年収などを審査した上で決まります。変動金利型の店頭金利は2.475%の場合が多いのですが、例えば審査によって店頭金利から1.7%引き下げることになれば、適用金利は0.775%となります。
ただし、【フラット35】の中には、国の施策により一定の性能基準を満たす住宅には当初5年間または10年間、0.6%金利が引き下げられる【フラット35】Sがあります。【フラット35】Sの金利が適用されると、変動金利型(半年型)並みの金利で借りられる場合がありますが、6年目または11年目以降は引き下げ前の金利に戻ります。
<図表5 金利タイプと金利例>
【フラット35】 | 民間住宅ローン | ||
全期間固定金利型 | 変動金利型(半年型) 当初固定金利型 全期間固定金利型 |
||
返済期間15~20年 | 融資率9割以下 | 1.31% |
・変動金利型(半年型) ・当初固定金利型(10年固定) ・全期間固定金利型 |
融資率9割超 | 1.44% | ||
返済期間 | 融資率9割以下 | 1.54% | |
融資率9割超 | 1.67% |
住宅ローンの諸費用は?
住宅ローンを借りるには、事務手数料・保証料・団体信用生命保険料などの費用が必要です。事務手数料は、【フラット35】・民間住宅ローンのどちらで借りた場合でもかかります。
【フラット35】の事務手数料には、定額方式(3~30万円程度)または定率方式(借入金額×2%程度)があり、取り扱い金融機関によって異なります。民間住宅ローンでは定額方式が主流で、費用は3万円程度の所が多くなっています。
保証料は、保証会社に保証してもらうための費用で、民間の住宅ローンでは基本的に保証料が必要で、一括で支払う方法と住宅ローンの金利に上乗せして支払う方法があります。一方、【フラット35】では保証料は不要です。
団体信用生命保険(団信)にも違いがあります。団信は、住宅ローンを借りた人が死亡または高度障害になった場合に、残高分の保険金が支払われ、住宅ローンが清算される住宅ローン専用の生命保険です。民間住宅ローンでは、ほとんどの場合保険料は金利に含まれ、費用負担はありません。
一方、【フラット35】の場合、団信への加入は任意のため、加入を希望する場合は別途「機構団信特約制度」を利用します。特約料は、住宅ローン残高に応じて返済終了まで年払いで支払います。
ここで気をつけておきたいのは、団信は基本的に生命保険のため、健康状態や病歴によっては加入できないこともあることです。民間住宅ローンは、団信に入ることが借り入れの要件となっており、健康上の理由から団信に入れなければ、基本的に住宅ローンを借りることができません。
それでも借り入れを希望する場合、団信加入が任意である【フラット35】を選ぶか、銀行によっては団信の引受基準を緩めたワイド団信を取り扱う場合もあります。ただし、ワイド団信では金利が0.3%程度高くなります。
住宅ローンの諸費用は現金で用意するのが基本ですが、自己資金が少なくて諸費用を用意できない場合もあるでしょう。その場合、民間住宅ローンでは諸費用分も含めて借り入れできる金融機関もあります。
一方、【フラット35】では(借り換えを除く)諸費用分は借り入れできません。そのため、別途諸費用ローンを用意している金融機関もありますが、諸費用ローンの金利は通常の住宅ローンよりも高めです。
<図表6 住宅ローン諸費用の違い>
【フラット35】 | 民間住宅ローン※ | |
手数料 | ・定額方式、定率方式 | ・主に定額方式 |
保証料 | ・なし |
・あり(一括払込み・金利上乗せ) ・借入金額や返済期間、返済負担率によって異なる |
団体信用生命保険 |
・任意加入 ・金利上乗せ ・団体信用生命保険に加入しない場合、借入金利-0.2% |
・原則として加入必須 ・保険料は金利に含まれる ・ワイド団信もあり |
その他 | ・諸費用(借り換えを除く)を含めた借り入れはできない | ・諸費用を含めて借り入れできる |
繰り上げ返済時の違いは?
住宅ローンの繰り上げ返済についても、必要な最低金額や手数料の取り扱いについてそれぞれ違いがあります。
【フラット35】では、繰り上げ返済の最低金額は住宅金融支援機構のインターネットサービス「住・My Note」経由の申し込みでは10万円から、金融機関の窓口では100万円からで、どちらも手数料は無料です。
民間住宅ローンでは1万円から繰り上げ返済できる銀行が多く、ネット銀行の一部では1円から繰り上げ返済ができます。手数料は、インターネット経由なら無料、金融機関窓口では有料など、銀行ごとに決められています。また、金利タイプや繰り上げ返済する金額に応じて、手数料がかかる場合もあります。
計画的に貯蓄して繰り上げ返済できれば利息の軽減にもなり、定年前の返済完了への道にも近付きます。返済開始後はこまめに繰り上げ返済を考えている場合は、借り入れ後の利便性も考えた住宅ローン選びが必要です。
<図表7 繰り上げ返済時の違い>
【フラット35】 | 民間住宅ローン |
・最低金額: ・手数料: |
・最低金額: ・手数料: |
ここまで、【フラット35】と「民間住宅ローン」、それぞれの違いを見てきました。
住宅ローン選びでは、金利タイプや金利の高低の違いだけではなく、住宅ローンの利用条件が自分の家計や働き方、購入予定の住宅にマッチしているかどうかを見ることが必要です。
その上で、基本的な要件に合う住宅ローン商品の中から、借り入れに必要な諸費用の違い、繰り上げ返済など住宅ローンのメンテナンスの容易さを含めて、総合的に選んでいくことが大切です。
長期で返済の続く住宅ローン選びでは、将来のライフプランはもちろん、借り入れ時や借り入れ後のことを含め、じっくりと比較して判断してみましょう。
●ARUHIの【フラット35】はこちら
【ARUHI】全国140以上の店舗で住宅ローン無料相談受付中>>
(最終更新日:2021.04.27)