毎年9月頃に公表される都道府県地価調査。今年は9月18日に「令和6年都道府県地価調査」が発表されました。コロナ禍を経てオフィス通勤者も回復し、インバウンド需要の増加など経済活動が活発化。株価もこの1年で大きく上昇しました。全国平均の地価は、3年連続で上昇しています。今回は「令和6年都道府県地価調査」から見た、これからの住宅価格について考えます。
首都圏新築マンション価格が上昇 背景には、土地価格の上昇と建築費の高止まり
首都圏新築マンション価格の上昇が止まりません。不動産経済研究所が発表した「首都圏新築分譲マンション市場動向2024年度上半期(2024年4月~2024年9月)」によれば、2024年度上半期の首都圏における新築マンションの平均価格は、前年同期比117万円アップ、1.5%上昇の7,953万円。東京23区はさらに上昇度合いが大きく、前年同期比4.5%上昇となる1億1,051万円となっています。
いっぽうで、発売戸数は前年同期比 29.7%減の 8,238 戸。コロナ禍の2020年を下回り、過去最少となりました。東京23区の2024年度上半期の供給戸数は3,242戸となっており、前年同期比で42.9%も減少。中古市場を含めたマンションの需給を圧迫させる要因となり、都心の中古マンション価格は大きく上昇しています。
新築マンション価格が上昇している大きな要因が、原価の多くを占める地価と建築費の上昇です。2024年9月に発表された令和6年都道府県地価調査によれば、2024年7月1日時点の地価は、全国平均では全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続でプラス。上昇幅も拡大しており、東京圏は住宅地で3.6%、商業地で7.0%の上昇となっています。
建築費の上昇も続いています。建設物価調査会総合研究所によれば、2024年9月分の東京(集合住宅)の工事原価は、前月比で1.2%上昇。前年同月比では、6.4%の上昇となっており、2015年比では30%を超える大きな上昇です。建築費の上昇要因として挙げられるのが、建築資材や人件費の高騰。大幅な円高など特殊な要因がなければ、建築費の上昇トレンドは続くとみてよいでしょう。
今後の新築マンション価格はどうなっていくのでしょうか。新築マンションの用地仕入れから分譲開始までには、少なくとも数年の時間差があります。そのため、地価が上昇トレンドにあるのか下落トレンドにあるのか、さらに地価上昇の程度も将来の新築マンション価格を左右します。2024年9月に発表となった令和6年都道府県地価調査の結果から、地価動向について見てみましょう。
インバウンド需要の高まりで浅草エリアの地価が大幅にアップ
「都道府県地価調査」とは、都道府県知事が毎年1回、各都道府県の基準地について不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、これを審査、調整し、基準日の7月1日時点における基準地の正常価格を公表しているもの。地価公示価格と同様に、一般の土地取引の指標として活用されています。公示地価は毎年1月1日時点における標準地の正常価格を公示するものなので、「都道府県地価調査」を確認することで地価トレンドの把握がしやすくなります。
令和6年都道府県地価調査で顕著なのは、都市部の地価の上昇。三大都市圏では、 全用途平均は4年連続、住宅地は3年連続、商業地は12年連続で上昇し、それぞれ上昇幅が拡大しています。地方圏では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇。全用途平均・商業地は上昇幅が拡大し、住宅地は前年と同じ上昇率に。いっぽうで、災害が地価下落に影響するケースもありました。また、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方四市では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも12年連続で上昇しましたが、上昇幅は縮小しています。
基準地価の住宅地上昇率トップは、《沖縄県 国頭郡恩納村字真栄田真栄田原36番外》の+29.0% 。基準地価の住宅地下落率トップは、《石川県 輪島市河井町壱五部90番56外 》の-14.8%。基準地価の商業地上昇率トップは、《熊本県 菊池郡大津町大字室字門出176番4 》の+33.3%。基準地価の商業地下落率トップは、《石川県 輪島市新橋通八字2番18》の-17.1%でした。
低金利環境の継続などにより引き続き住宅需要は堅調で、地価上昇が継続しています。また、人気の高いリゾート地では別荘やコンドミニアムに加え、移住者用住居などの需要が増大し、高い上昇となった地点が見られています。熊本県など大手半導体メーカーの工場が進出する地域では、関連企業も含めた従業員向けの住宅需要のほか、関連企業の工場用地や店舗等の需要も旺盛に。住宅地、商業地、工業地ともに高い上昇となっています。
首都圏では、アフターコロナによる都市部の商業・オフィス・住宅需要の回復が顕著です。商業地トップの上昇率は、インバウンド需要が急回復している台東区浅草エリアの《台東区西浅草2-13-10》の25.0%上昇。次いで、オフィスやコンサートホールなどの開業が相次ぐ横浜のみなとみらい21地区の《横浜市西区みなとみらい4-4-5》の21.6%上昇。3位は、渋谷サクラステージの開業など再開発が活発な渋谷エリアの《渋谷区円山町22-16》で20.8%の上昇です。
首都圏エリアの商業地の動向
東京23区全体では9.7%上昇で、前年の5.1%上昇から伸びが拡大。全ての区で上昇幅が拡大しています。タワーマンションなどの高度利用可能な場所や再開発等により、さらなる発展期待のある地点が上位にランクイン。商業地の上昇率の大きい順に、渋谷区の13.1%上昇(前年4.5%上昇)、台東区 12.5%上昇(前年7.0%上昇)、文京区の11.7%上昇(前年6.8%上昇)となりました。
東京都市部においても主要駅のある商業地需要は旺盛で、立川市 7.8%上昇(前年4.1%上昇)、国分寺市 7.3%上昇(前年6.2%上昇)、府中市 7.3%上昇(前年4.1%上昇)と、上昇幅が拡大しています。
埼玉県では、さいたま市全体が4.5%上昇(前年3.7%上昇)。さいたま市全10区のうちでは、再開発等によりさらなる発展期待のある大宮区など6区で上昇幅が拡大、岩槻区など3区で上昇幅が縮小となりました。JR埼京線または京浜東北線沿線で都心への接近性に優れる戸田市、川口市、蕨市では店舗需要のみならず、旺盛なマンション用地需要との競合もあり上昇幅が拡大しています。
千葉県では、東京都に隣接・近接する浦安市、市川市、船橋市、松戸市、柏市において、店舗・オフィスの需要が高い主要駅で地価が堅調に推移。旺盛なマンションの用地需要との競合により、上昇幅が拡大しました。千葉駅周辺の再開発が活発な千葉市では、6.7%上昇(前年4.6%上昇)し、全区で上昇幅が拡大。中央区では、7.5%上昇(5.5%上昇)となっています。
神奈川県では、東京都に隣接する川崎市が8.4%上昇(前年5.6%上昇)。川崎市全7区で上昇幅が拡大しています。また、横浜市では7.4%上昇(前年5.3%上昇)し、こちらも全18区で上昇幅が拡大しています。みなとみらい21地区といった中心部では、店舗・オフィスの供給は堅調で、神奈川区 8.6%上昇(前年7.0%上昇)、西区 9.5%上昇(前年7.6%上昇)、中区 9.7%上昇(前年5.5%上昇)と高い伸びとなりました。
首都圏エリアの住宅地の動向
首都圏の住宅地も東京23区が堅調です。東京23区全体では、6.7%上昇(前年4.2%上昇)。全ての区で上昇幅が拡大しています。上昇率が大きい順に、中央区 12.4%上昇(前年4.4%上昇)、渋谷区10.2%上昇(前年4.1%上昇)、目黒区 9.6%上昇(前年5.3%上昇)。住宅需要が堅調で、都心区及びこれに隣接する区の利便性や住環境に優れた地域では、マンション、戸建て住宅ともに需要が旺盛で上昇幅が拡大しています。
首都圏の住宅地の上昇率上位は、1位《新宿区市谷船河原町19番8外》の+17.1%。2位が《流山市おおたかの森南1丁目27番3》の+15.9%。3位が《渋谷区神宮前三丁目13番13》の+15.9%でした。千葉県流山市は、4位に《流山市おおたかの森西1丁目28番4外》入るなどトップ10に4地点も入っており、子育て世帯が住みやすい街として注目を高めているようです。
「母になるなら、流山市。父になるなら、流山市。」
千葉県流山市の代表的な街である流山おおたかの森は、「本当に住みやすい街大賞2023」において、2位にランクインしています。
「母になるなら、流山市。父になるなら、流山市。」を掲げる流山市は千葉県北西部に位置し、都心から25キロメートル圏内。つくばエクスプレスで都心へ最短21分でアクセスできるほか、羽田空港への直行バス、常磐自動車道につながる流山インターチェンジもあります。つくばエクスプレス線が開業した2005年から5万人超の人口が増加。2024年11月1日現在の流山市の総人口は21万3,061人となっています。
駅前にスーパーや映画館が入る「流山おおたかの森S・C」や「COTOE流山おおたかの森」といった大型商業施設が立地。園児の通園をサポートする「送迎保育ステーション」を設置し、児童増加に対応すべく新たな小学校も開校するなど教育環境も良好。商業エリア・住宅地・公園や自然を近接した形で配置する「アーバンパストラル」をテーマにした街並みが駅を中心に形成するなどコンパクトで住みやすい住環境に。上昇率2位の《流山市おおたかの森南1丁目27番3》の地点は、駅からほど近い住宅街の一角。整った街区の美しい景観が心を和ませます。
商業地の上昇率トップの《台東区西浅草2-13-10》は、外国人旅行者の増加でホテル需要が堅調な浅草エリアの一角。近くには浅草ビューホテルが立地しています。こうした浅草、渋谷、新宿などの外国人旅行者に人気のあるスポットでマンション用地を取得することは難しくなるでしょう。
いっぽう、千葉県や神奈川県、埼玉県などの郊外エリアは東京都心に比べ地価上昇が緩やかで、新築マンション価格の大幅な上昇も見られません。中古マンションの成約平米単価を前年同月と比べても、東京23区が10%を超える上昇幅であるのに対し、埼玉県は7.4%、千葉県は5.4%、神奈川県全体はマイナス0.8%と、郊外エリアではまだまだ手が届くマンションはありそうです。
川崎や船橋、浦和など通勤利便性が高い街のマンション価格が上昇する一方で、JR東海道線「平塚」駅やJR京葉線「稲毛海岸」駅、東武東上線「ふじみ野」駅などの新築マンション価格は比較的リーズナブル。予算を重視するファミリーなら、こうした街を狙うのも良いかもしれません。