住まいの場所選びでは、通勤・通学先への所要時間がまずは気になるところですが、あわせて、どれくらいの混み具合の路線なのかも重要です。多少通勤時間が長くなっても、ゆったりと座っていければストレスもなく、仕事の能率も上がるかもしれません。反対に通勤時間が短くても身動きできないような混み具合では、体力を消耗し、仕事に集中できない可能性も。その混み具合の目安となるのが、混雑率です。
コロナ禍が明けて混雑率が上昇傾向に
国土交通省では通勤通学時間帯における鉄道の混雑状況を把握するため、毎年度「都市鉄道の混雑率調査」を実施しています。各路線別に、最混雑時間帯1時間の平均を調査するものです。
2024年に発表された調査によると、東京圏31区間の平均混雑率は図表1にあるように2023年度は136%でした。
2019年までは160%台だったのが、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大によってテレワークや在宅勤務が増加したことで、2020年には107%と大幅に低下。通勤地獄が一時的に緩和されました。その後はじわじわと出社が増えて、混雑率が次第に高まってきました。しかし、2019年までに比べるとまだまだ低い水準で、通勤にもかなりのゆとりがある混雑率といっていいのではないでしょうか。
ただし、最近では社員全員に毎日出社を求める企業が増加しています。今後は混雑率が右肩上がりで高まっていくと予想されるだけに、住まいの場所選びにあたっては、混雑率がどうなっているかを十分に調べておいたほうがいいでしょう。
100%以下なら座って通勤できる可能性が高い
この混雑率の目安は図表2のようになっています。
混雑率100%以下なら、座席につくか、座れないまでもドア付近の柱や吊革につかまることができるので、ゆとりを持って通勤できます。ある程度慣れてくれば、どの車両のどの辺りが空いているのかが分かるようになります。早めに出かけて並べば、座れる場所を確保できるようになるのではないでしょうか。
それが150%になると、乗客同士の肩が触れ合うほどではありませんが、ドア付近では人が多くなって、ゆとりがなくなります。さらに、180%では乗客同士の肩が触れ合うようになって圧迫感が強まり、200%だとほとんど身動きできない状態になります。
コロナ禍前でも首都圏の平均混雑率は160%台でしたから、圧迫感があるほどではないものの、通勤時間が長くなると疲労感が残るようになるのではないでしょうか。2023年までの混雑率の右肩上がりの状態をみると、何年かすれば再びそのような状態になるかもしれないので、注意しておいたほうがいいでしょう。
首都圏の混雑率トップは東京メトロ日比谷線
混雑率は、路線や区間によって大きく異なります。これから自由に沿線などを選択できるのであれば、混雑率にも注意して、できるだけ混雑率の低い路線、区間を選ぶようにしたいところです。
そこで、まず混雑率の高い路線、区間をみると、トップは東京メトロ日比谷線の三ノ輪・入谷間の162%でした(図表3)。2023年で162%ですから、出社を求める企業が増えてくるにつれ、今後は170%台、180%台と高まってくる可能性もあり、通勤負担が重くのしかかってくるかもしれません。日比谷線は、秋葉原、銀座、六本木などにつながっていますから、混雑する時間が長くなってくるでしょう。
首都圏の混雑路線としては、東京メトロ東西線、JR常磐線などをイメージする人が多いかもしれません。たしかに、東西線は東京メトロのなかでも平均輸送人員が最も多い路線で、かつては混雑率の高さが有名でした。しかし近年では、1時間に27本の高密度な運行を実施するなど、混雑緩和作戦が効果を挙げて混雑率が低下しています。
この国土交通省の調査では、最も混雑する木場・門前仲町間でも148%と150%以下となっています。
中央線なら快速ではなく各停を使う手も
次いで、JR埼京線の板橋・池袋間が160%、JR中央線快速の中野・新宿間が158%などとなっています。
以下はJR武蔵野線の東浦和・南浦和間と都営地下鉄大江戸線の中井・東中野間が152%と、やや混雑率に開きがあります。
このうちJR中央線快速については、工夫すればゆったりと座って通勤する方法が考えられます。混雑率158%は快速電車の数値であり、中央線には快速だけではなく、緩行線、いわゆる各駅停車も並行して走っています。その代々木・千駄ヶ谷間は、図表4にあるように混雑率92%にとどまっているのです。各駅停車を利用すれば、ゆったりと座って通勤できる可能性があります。
三鷹駅、中野駅は、中央線各駅停車の始発駅となっています。三鷹、中野以遠の人も少し早めに自宅を出て、三鷹駅、中野駅などで各駅停車に乗り換えて通勤するという方法があります。多少時間はかかりますが、その分、ゆったりと座って通勤できるので、仕事を効率的にできるようになるのではないでしょうか。
都心でも混雑率100%を切る区間がある
図表4にあるように、首都圏で混雑率が最も低いのは東急電鉄新横浜線の新綱島・日吉間の46%です。新横浜線は2023年3月に開業した新線で、日吉駅、新綱島駅、新横浜駅の3駅から成ります。これにより、相鉄線と東急線の相互直通運転が可能となり、相鉄線利用者が乗換えなしで東京の都心に向かうことができるようになりました。渋谷駅に直結しているだけではなく、都営地下鉄三田線とも相互乗入れで日比谷駅、大手町駅にもつながっているため、通勤・通学が格段に便利になりました。
それでいて、新綱島・日吉間の混雑率は50%以下であることから、横浜市方面の住まいを考えている人にとっては穴場といっていい路線、区間かもしれません。
混雑率が100%以下の路線は、郊外の路線、区間が多いですが、なかには、先にも触れたように、JR中央線緩行の代々木・千駄ヶ谷間の92%、東京メトロ銀座線の赤坂見附・溜池山王間の98%など、都心周辺でも混雑率の低い路線、区間があります。それらの沿線上を住まいの立地先候補に付け加えてみてはいかがでしょうか。