マイホーム購入の際、親から援助の申し出を受けている方もいるでしょう。住宅購入の資金贈与を受ける場合、一定の金額まで贈与税が非課税になる制度があります。しかし、非課税の限度額は年々縮小しています。
本記事では、その背景と今後の見通し、利用する際の注意点などを解説します。
親からの援助で住宅が購入できる「住宅購入資金の非課税贈与」とは?
マイホーム購入の際に両親や祖父母から資金を援助してもらう場合、最大1,000万円まで非課税で贈与を受けられる「住宅取得資金贈与の特例」があります。
通常の贈与では贈与額が年間110万円を超えると10%~55%の贈与税が課税されますが、この特例によって最大1,000万円まで非課税で贈与が可能です。
非課税限度額が縮小される背景と今後の見通し
有効に使いたい「住宅取得資金贈与の特例」ですが、近年3,000万円から1,500万円、1,000万円と非課税限度額が縮小されています。その背景について詳しく解説します。
消費増税の負担軽減措置
2019年に消費税が8%から10%に引き上げられました。消費税増税に伴う国民負担を軽減するため、様々な負担軽減措置がとられた経緯があり「住宅取得資金贈与の特例」もその一つです。
しかし増税から3年以上が過ぎたことにより、この措置も役目を終え非課税限度額が縮小されています。
新型コロナ対策による優遇の解除
2020年には新型コロナウイルスの影響による収入減に対処するため、限度額の縮小は2021年12月まで延期されました。
しかし、2022年に入ると新型コロナウイルスの状況も徐々に改善してきたため、1月以降は限度額の縮小が実施されています。
相続税と贈与税の一体化
非課税枠限度額縮小の根幹には「相続税と贈与税の一体化」という目的があります。「相続税と贈与税の一体化」とは、親子間の資産移転において相続や贈与のタイミングにかかわらず一律に課税すべきという考えです。
親から子への資産相続時には、一定額以上で相続税がかかります。しかし生前に非課税の範囲内で贈与を行うことによって、相続税の節約が可能です。特に、住宅資金や教育資金の贈与は非課税枠が大きく、富裕層の節税対策として利用されてきました。税制の公平性から鑑み、非課税贈与制度に対する廃止論が根強く存在します。
このような状況から「住宅取得資金贈与の特例」は大きな転換期を迎えたと言えるでしょう。
住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるための要件
「住宅取得資金贈与の特例」を使ってマイホームを購入する際の注意点について解説します。
贈与を受ける人の要件
マイホームの新築や取得・増改築のための資金援助があった場合、特例を受けるためには、贈与を受ける人に一定の要件が定められています。次の要件をすべて満たす人が非課税の特例の対象です。
1. 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。
2. 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること。
3. 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下(新築等をした住宅用の家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満である場合は1,000万円以下)であること。
4. 平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」の適用を受けたことがないこと。
5. 自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋を取得したものではないこと、又はこれらの人との請負契約等により新築若しくは増改築等をしたものではないこと。
6. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
7. 贈与を受けた時に、日本国内に住所を有し、かつ、日本国籍を有していること。
8. 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること又は同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
(国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」より引用)
新築・購入する物件に関する要件
贈与を受けて新築・購入する家屋についても要件は細かく定められています。対象となる家屋は日本国内にあるものに限られます。
1. 新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が40㎡以上240㎡以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。
2. 取得した住宅が次のいずれかに該当すること。
a. 建築後使用されたことのない住宅用の家屋
b. 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、昭和57年1月1日以後に建築されたもの
c. 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
d. 上記b.およびc.のいずれにも該当しない建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その住宅用の家屋の取得の日までに同日以後その住宅用の家屋の耐震改修を行うことにつき、一定の申請書等に基づいて都道府県知事などに申請をし、かつ、贈与を受けた翌年3月15日までにその耐震改修によりその住宅用の家屋が耐震基準に適合することとなったことにつき一定の証明書等により証明がされたもの
(国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」より引用)
住宅取得資金贈与の非課税特例の申告方法
非課税の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、下記の書類を納税地の所轄税務署に提出します。
● 非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書
● 戸籍の謄本
● 新築や取得の契約書の写しなど
贈与税の申告書に不動産番号を記載すれば、土地・建物の登記事項証明書は添付不要となりますが、必要な場合は登記所やオンラインでの請求が可能です。
住宅資金贈与の特例を使う時の注意点
住宅資金贈与の特例を使う時に、特に気をつけるべき注意点について解説します。
贈与を受ける時期
贈与を受ける時期を間違えると特例は受けられません。
贈与を受ける時期は、新居に入居する前である必要があります。例えば、住宅ローンを組んで住宅を購入し、居住後に贈与を受けてローンの返済に充てた場合には特例は受けられません。
また工事のスケジュールによっては、特例の対象外になる場合もあります。例えば土地購入の段階で贈与を受けたものの、家屋の完成が遅れ入居期限の翌年3月15日を過ぎてしまった場合、特例の対象にはなりません。
贈与はできるだけ入居に近いタイミングで行いましょう。
他の特例との組み合わせ
他の特例との組み合わせにも注意が必要です。
住宅取得資金贈与の特例を利用する場合「小規模住宅等の特例」は併用できません。「小規模住宅等の特例」とは相続などによって取得した宅地のうち、一定面積まで減税が受けられる制度です。
一方で「相続時精算課税選択の特例」は、特定の条件を満たす場合に住宅取得資金贈与の特例と併用することが可能です。通常、贈与を受けた際には贈与税を払う必要がありますが、この特例を利用することで相続の時に税金を清算し支払うことができます。
「小規模住宅等の特例」と「相続時精算課税選択の特例」を混同しないように気をつけましょう。
土地のみ購入は対象外
親から贈与を受けた者が土地だけを購入し、配偶者が住宅ローンで建物を新築したケースでは特例は受けられません。対象となるのは、贈与を受けた人が所有する家屋とそれに付随する土地なので、土地のみでは対象外です。
贈与者が複数の場合には合算される
親から1,000万円、祖父母から1,000万円、計2,000万円の贈与を受けた場合を考えてみましょう。それぞれ1,000万円ずつ非課税にはなりません。2人分を合算した2,000万円のうち最大1,000万円までが非課税になり、残りの1,000万円には課税されます。贈与者が増えても非課税限度額は変わりません。
しかし、夫と妻がそれぞれの親から贈与を受ける場合には、それぞれ1,000万円、計2,000万円までが非課税となります。
諸費用、家具・家電、引越し費用は対象外
特例の対象は家屋とその敷地です。諸費用(登記費用・手数料等)や、家具・家電、引越し費用などは特例の対象にはなりません。贈与を諸費用に充てた場合は、基礎控除の110万円を超える部分が課税となるので気をつけましょう。
贈与契約書の作成
住宅取得資金贈与の特例を受けるためには「いつ」「誰に」「いくら」贈与を受けたかが重要なポイントです。重要なポイントを第三者にも証明できるよう「贈与契約書」の形で残しておくとよいでしょう。また贈与の際には、現金ではなく銀行振込などを利用して受け渡しの記録を残すことも大切です。
まとめ
この記事では「住宅取得資金贈与の特例」について、制度の概要や利用条件を解説しました。
「住宅取得資金贈与の特例」をかしこく利用し、贈与税の負担を最低限にして理想のマイホームを手に入れましょう。
【今の年収でいくらまで借りられるの?】
>>「アルヒの無料住宅ローンシミュレーション」でチェック!