住宅価格が高騰していると言われています。一般の世帯にはなかなか手が届きにくい価格になって、購入から賃貸に切り替える層がいることで、ファミリータイプの賃貸住宅の賃料が上昇しているとも言われています。そんななか、三菱UFJ信託銀行の「不動産マーケットリサーチレポートVOL.232」など、いくつかおもしろいレポートが公表されました。どうやら、希望エリアに変化があるようです。
投資ではなく、マイホームとして買う層の注目は、アクセスの良い郊外へ向かう
三菱UFJ信託銀行が公表した「不動産マーケットリサーチレポートVOL.232」では、過去10年間で首都圏の新築分譲マンションの販売価格のボリュームゾーンが大きく変化したことを指摘しています。2012年と比較すると、2022年の首都圏の平均価格は38.5%上昇して6,288万円に、東京23区では55.9%上昇して8,236万円になりました。その販売価格のボリュームゾーンは、2012年は 3,000万円~5,000万円だったものが、2022年には5,000万円~1億円台へと移っているというのです。
こうした価格上昇がもたらす影響として、同レポートは3つの変化を挙げています。
(1) 供給戸数が減少する
(2) 都心物件は資産性が一層着目される
(3) 実需層の注目はアクセスの良い郊外へ向かう
ここでは、(3)の実際に居住するために新築分譲マンションを購入する、いわゆる「実需層」の注目エリアを見ていきましょう。同レポ―トが着目したのはJR中央線。東京駅から吉祥寺駅までの沿線は販売価格が大きく上昇して高嶺の花になりつつありますが、三鷹駅から八王子駅までの沿線は比較的受容できる価格水準であるため、デベロッパーが新たに分譲するマンションの用地を取得する傾向が郊外エリアで高まっているというのです。三菱UFJ信託銀行によるデベロッパーへの調査の結果(図表13)に、そのことが見て取れます。
ただし、全般的に郊外が注目されているわけではなく、郊外の中でも通勤利便性が高く、販売価格が受け入れられやすい場所に注目していると言います。図表14では、コロナ禍でリモートワーク中心だった時期に、郊外にマンション用地を取得する傾向が高まったのですが、今は出社が増えたこともあって、用地取得の検討はコロナ前に戻りつつあります。つまり、郊外の中でも、交通アクセスの良い場所とそうでない場所の選別がなされていると考えてよいでしょう。
リクルートが毎年「住みたい街(駅)ランキング」を発表しています。2022年ランキングでは「都心エリアの低迷と郊外エリアの上昇」が指摘されましたが、2022年と2023年ランキングでは4位の恵比寿を押さえて、横浜、吉祥寺、大宮がTOP3になっています。また、2022年では船橋や流山おおたかの森が、2023年では舞浜や立川がランクアップするなど、郊外人気が続いています。こうした東京23区外でも、利便性が高くて価格上昇を受け入れられる層が好むエリアが、注目されているということでしょう。
検討者の希望エリアは都心から外側へ、郊外から内側へ
別の調査結果を見てきましょう。野村不動産では報道関係者向けに新築分譲事業に関するスモールミーティング(勉強会)を年に1回程度開催しています。その勉強会では、同社のマンションへの問合者・契約者・モデルルーム来場者を分析したデータも提示されました。対象は限定されますが、新築マンション検討者や契約者の動向が読み取れるデータです。
同社が首都圏在住の問合者・契約者・モデルルーム来場者(有効回答2,074件)に行ったインターネット調査の結果を見ると、昨年と比べて「希望エリア」に変化が見られました。「価格と広さ、利便性のバランスから都心6区を除く23区エリアを希望する動きが見られる」というのです。
2022年では都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)を除く23区から、都心6区へ、または郊外への動きが見られたのに対して、2023年はその逆の動き、つまり都心6区からその他の23区へ、または郊外から都心6区を除く23区へと、「都心6区を除く23区」が選ばれる動きが見られたのです。
具体的なデータを見ると、
・「都心6区」から「都心6区を除く23区」を希望 2022年16.0% → 2023年22.3%
・「都下(23区外)」から「都心6区を除く23区」を希望 2022年10.9% → 2023年31.6%
となります。埼玉県から都心6区を除く23区を希望する比率も高まっています。
ただし、これは調査対象者が、共働き世帯が約60%、世帯年収1,000万円以上が約63%という前提を考慮する必要があります。というのも、プラウド契約者データの特徴は、世帯年収が高いからです。マンションの販売価格が年々上昇していますが、契約者の世帯年収も年々上昇していることから、住宅ローンの負担感はあまり変わっていないという層なのです。
したがって、余裕のある世帯については、野村不動産のレポートのように都心6区を除く23区へと、一般的な世帯については、三菱UFJ信託銀行のレポートのような「アクセスのよい郊外」へと、注目エリアが移っていると言えるでしょう。
長谷工総合研究所が発行する「CRI」№545に、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏が寄稿しています。転入転出の人口移動に着目して分析していますが、「東京圏における郊外化の動きは現在も続いている」と指摘しています。特に、子育て世代の郊外化が顕著だと言います。
いずれの調査も、新築マンションの販売価格が上昇している影響を受け、価格と広さのバランスを考慮して、希望するエリアを変えていることがうかがえます。加えて、アクセスのよい場所、つまり資産性のある場所に限定して、エリアを選んでいく傾向もうかがえます。
2024年は金利上昇気配が高まるなどの環境変化も起きているので、不動産市場の転換期になるといった指摘も出ています。今住宅取得を考えるなら、将来売ったり貸したりすることも視野に、資産性のある郊外に目を向けるという選択もあるでしょう。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)