東京都が、夫婦の家事・育児分担に関する実態や男性の家事・育児状況について、東京都在住の18歳以上70歳未満の子育て世代(未就学児がいて、配偶者と同居している男女)に調査を行いました。この「令和5年度 男性の家事・育児実態調査」の中から、「夫婦の家事分担」に関する結果に注目したいと思います。夫婦の家事分担の実態はどうなっているのか、どうやったら家事分担がうまく行くのかなどを考えていきましょう。
「名もなき家事」の認識に男女間で大きな差
「名もなき家事」というワードをご存じでしょうか? 筆者が「名もなき家事」を知ったのは、2017年5月12日に大和ハウス工業が公表した、「20代から40代の共働き夫婦の“家事”に関する意識調査」のリリースでした。うまく名付けたものだと記事にまとめたのですが、このワードはそれ以降、かなり頻繁に使われるようになりました。
最近はテレビドラマなどでも、男性が「ゴミ捨ての家事をしている」と言うと、女性が「室内のゴミ箱のゴミを集めて、リサイクルの分別をしたうえで、それぞれをゴミ袋に詰めて、ゴミ捨て場に持っていくまでがゴミ捨てだ」と言い返す、というシーンが登場したりします。家からゴミ置き場にゴミ袋を運ぶより前の行為が、名もなき家事の代表例でしょう。
東京都の調査でも、「名もなき家事」について調査しています。細かい家事について誰が行っているかを、自分/配偶者/夫婦で分担に分けて聞いたものです。その結果をいくつか見ていきましょう。
男女ともに、配偶者よりも「自分」がやっているという回答が多いようです。ただし、男性は「夫婦で分担」という回答も多いですし、女性のほうが「自分」がやっているという比率が男性よりも高いですから、その認識には大きな開きがあります。名もなき家事は見えづらいだけに、認識の差は家事分担の満足度を下げることになりかねません。
家事・育児分担の満足度(「とても満足している」「どちらかと言えば満足している」)を聞いたところ、満足度は男性が78.3%だったのに対して、女性は48.0%に留まり、むしろ不満を感じている人が多いということが分かります。
では、配偶者に対する不満はどこに現れるのでしょう? 配偶者に対する不満を聞いたところ、男性は「特に不満はない」が47.0%と最多で、次いで「家事・育児をしても、文句や口出しをされる、やり直しを求められる・やり直される」(23.0%)となりました。女性は、「自分が言わないと、家事・育児をしてくれない」が 37.7%で最多。次いで、「家事・育児をやってくれるのが当たり前だと思っている」(30.5%)となりました。
男性はせっかく家事をしてもダメ出しされることに不満を、女性は言わないとやらないのではなく積極的に家事に参加してほしいという不満を持っているわけですが、自由記述の回答を見ると、互いに家事をやってくれることに感謝の気持ちは持っていることがうかがえます。
家事や育児の時間は圧倒的に女性が長い
東京都の調査では、「平日」と「土日」の家事時間・育児時間を聞いています。いずれも女性のほうが圧倒的に長くなっています。
注目したい結果は、「名もなき家事の認知度」による差で、認知している男性ほど家事時間が長く、認知していない男性ほど家事時間が短くなる傾向が見られることです。名もなき家事にまったく気付かない男性は、そうした細かい家事に気づかないので、より短くなるということかもしれませんね。
そうは言っても、実は男性はもっと家事や育児に参加したいと思っているのです。「もっと家事・育児をしたい、残業がなかったらしたい」という回答は、男性で23.4%。「どちらかと言えばしたい」まで含めると、57.2%がもっとしたいと思っているという結果になりました。
では、どうしたら家事・育児分担の満足度を上げられるのでしょうか? 「家事・育児分担の満足度を上げるために重要だと思うこと」を聞いたところ、男女とも「夫婦でよく話し合い、協力する」(男性65.8%・女性67.8%)、「お互いが感謝の気持ちを伝える」(男性60.4%・女性66.8%)という回答が上位となりました。
「気づいてほしい」では伝わりません。男性は家事分担の満足度が高いのですが、家事に受け身になることなく、互いに協力して女性の負担を軽減することを考えてほしいものです。女性も自分のやり方を押し付けたり、違うやり方を拒んだりせず、きちんと話し合うことが大切でしょう。
住まいの間取りや動線で家事分担しやすくなる!?
では、どうやったら家事分担は上手くいくのでしょうか? まず、家事のやり方をすり合わせることが考えられます。女性は、家事の手順が違う、やり方が違うので結局やり直すといったことが不満になりがちです。男性のほうも、文句を言われる、やり直しをさせられるといったことが不満になりがちです。自分のやり方にこだわらずに、最適な方法を選ぶようにすると互いの不満が軽減されるでしょう。
次に、住まいの間取りや動線について考えてみましょう。家事動線をシンプルにすることがポイントなります。家事は、「ごみ箱に捨てる、ごみをまとめる、ごみを出す」や、「洗濯物を洗う、干す、取り込む、たたんでしまう」など、一連の作業が続くことが多いもの。家事コーナーなどがあって、作業を集中的に行うことができたり、動線がスムーズで動きやすかったりすれば、家事参加しやすいのではないでしょうか。
また、収納については、しまう場所をそれぞれ決めておくと、「ママしか分からないから」といったことが避けられます。
キッチンについては、キッチンの作業台の高さを主に家事をする人の高さに合わせていることが多いのですが、男性には低かったり、子どもには高かったりします。踏み台などを使ったり、作業スペースを別に設けるなどの工夫をしたいものです。また、狭いキッチンだと複数が入ると動線がぶつかって動きづらいといったことがあります。広めのキッチンを選んだり、出入り口が1つではなく回遊できるようなものを選ぶと、相手が邪魔になるといったイライラも軽減されるでしょう。
東京都の調査で、「男性は仕事が忙しくても、家事・育児に参加すべきか」と聞いた結果、「そう思う」(男性41.6%・女性44.8%)「どちらかと言えばそう思う」(男性44.2%・女性42.5%)となり、男女ともに9割近くが男性も家事・育児参加すべきと考えています。
住まいの工夫に加えて、話し合いと感謝の気持ちで上手に家事の分担をしてほしいものです。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)
(最終更新日:2024.01.03)