「経済効果」とは? 大阪万博の経済効果は? 専門家がわかりやすく解説

大阪万博の開幕まで500日を切りました。ニュースを見ていると当初の予定よりも膨らみ続ける建設費用や工事遅れなどネガティブな内容が多く報じられる一方で、その経済効果を背景に大阪万博の意義を説く論説も目にします。そもそも、「経済効果」とはどのように計算されているのでしょうか?

ネガティブなニュースの多い大阪万博

大阪万博の開催まで500日を切りました。本来であれば2025年4月の開幕に向けて次々に明るいニュースが報じられていく予定が、ここのところ目にする万博関連のニュースはネガティブなものが多くなっています。

会場建設費は当初見込まれていた金額から約1.9倍となる2,350億円まで膨らみ、これとは別に国の負担も約837億円になるとも言われています。さらに運営費も、万博協会が当初想定していた809億円から1,000億円を超える金額に引き上げる方向であることも報じられています。

なぜこのように費用が膨らんでしまっているのかというと、昨今の人件費の上昇や、円安による輸入価格の上昇、エネルギー・資源価格の高騰が反映された物価上昇などが挙げられます。また、国内外で発生した人混みでの事件や事故を受けて、混雑対策や要人警護の費用も当初の予定よりも大幅に引き上げられたのでしょう。
 
メキシコやエストニアなどパビリオンの出展を撤退表明した国も出始めており、そもそも巨額の費用をかけてまで大阪万博を開催する意味があるのか、と懐疑的な目を向ける人も増えています。

一方で、大阪万博による経済効果は2兆円を超えると試算されていることから、費用が多少膨らんでも開催すべきであるとする意見も目にします。

そもそも経済効果とは?

たしかに、経済効果が2兆円を超えるのであれば、現在報じられている当初の予定よりも膨らんだ費用の金額は十分回収できるように思えます。しかし、そもそも経済効果とは何か、ということをしっかりと理解したうえで判断をしなくてはいけません。
 
経済効果は「直接効果」と「波及効果」に分けて考えることができます。さらに、波及効果は第1次波及効果、第2次波及効果と細かく分けることもできます。
 
たとえば、今回の万博で考えると、パビリオンなど関連施設が建設されるだけでなく、公式グッズや会場で飲食物も販売されます。これらによって生み出される経済効果は直接効果とされ、私たちが最もイメージしやすいも経済効果だと思います。
 
しかし、実際には更なる経済効果が生じます。たとえば、パビリオンなどの関連施設を建設するうえでは資材が必要になることから、万博開催によって建材メーカーや鉄鋼業者など関連産業で生産量が高まります。これを第1次波及効果といいます。さらに、万博開催によって関連産業で働く人の所得が増えたり、新たな雇用が発生したりすることで、人々の消費活動がより活発になることが期待されます。これを第2次波及効果といいます。
 
つまり、経済効果は「パビリオンを建てるのにいくらかかるから〇〇億円」という単純なものではなく、関連産業への波及や副次的な消費行動までも含むということなのです。

経済効果の算出方法

それでは、経済効果はどのように算出しているのでしょうか。1つの方法としては、総務省が5年毎に公表している「産業連関表」を使うという方法があります。総務省では産業連関表について、以下のように説明をしています。

ある1つの産業部門は、他の産業部門から原材料や燃料などを購入し、これを加工して別の財・サービスを生産し、さらにそれを別の産業部門に対して販売します。購入した産業部門は、それらを原材料等として、また、別の財・サービスを生産します。このような財・サービスの「購入→生産→販売」という連鎖的なつながりを表したのが産業連関表です。 産業連関表の仕組みを利用して、ある産業に新たな需要が発生した場合にどういう形で生産が波及していくのかを計算することができます。

紙幅が限られているため、ここでは実際に「産業連関表」を用いた経済効果の算出方法を説明することは割愛しますが、それ以外にも簡易的に経済効果を算出することも可能です。

たとえば、大阪府のGDPは40兆円程度であり、うち半分強が消費によって生み出されていますので、万博によって大阪府内の消費が10%押し上げられると仮定すれば、それだけで2兆円の経済効果といえるわけです。

あまり数字を鵜呑みにしてはいけない理由

とはいえ、このような数字は鵜呑みにしてはいけません。たとえば、先程簡易的に算出した例だと2兆円の経済効果となりましたが、そもそも万博によって大阪府内の消費が「10%」押し上げられるという仮説の正当性が全く分かりませんよね。つまり、計算に用いる数字をどのように設定するかによって、いくらでも結論は変えられるということです。
 
また、産業連関表を用いて精緻な算出をしようとしたとしても、産業連関表は5年に一度しか更新されません。そのため、その間に技術革新が起きたり、産業構造が変化すると、現実に沿わない数字が出てくる可能性もあるのです。
 
今回の万博に限らず、オリンピックやワールドカップなど、大きなイベントの際には必ずといっていいほど経済効果に関する報道がなされます。数字を額面通りに受け取るのではなく、可能であればその数字がどのようにして算出されたのか、というところまで確認したほうがよいといえるでしょう。

(最終更新日:2023.12.25)
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