不動産の売買契約や賃貸借契約を締結する際に発行されるのが重要事項説明書です。その名のとおり重要事項について説明する書類ですが、具体的にどのようなもので何が記載されるのでしょうか。
この記事では、今後家を購入したり借りたりする予定がある人に向けて、重要事項説明書の概要や重要なポイントなどを解説します。また、売主や貸主側の人を対象に、重要事項説明書の作成方法などに関しても補足します。
(参考)e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
重要事項説明書とは?
重要事項説明書とは、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)第35条の規定に基づいて宅地建物取引業者(以下、宅建業者)が作成する文書のことです。不動産の売買や賃貸借の契約を締結する際には、契約前に宅地建物取引士(以下、宅建士)による重要事項の説明を行うことが定められています。このとき、説明とともに発行が義務付けられているのが重要事項説明書です。
重要事項説明書に記載すべき項目として、宅建業法で定められているのは次のような内容です。
⚫︎ 対象物件の登記に関する事項(登記された権利の種類、登記名義人など)
⚫︎ 都市計画法、建築基準法などによる制限の内容
⚫︎ 飲用水・電気・ガスの供給設備、排水設備の整備状況
⚫︎ 購入代金や賃料以外に授受される金銭の額と授受の目的
⚫︎ 契約解除に関する事項
⚫︎ 損害賠償や違約金に関する事項
⚫︎ 契約不適合責任に関する事項 など
重要事項説明書を発行する際は、宅建士による記名(押印)を行います。なお、2021年5月に制定されたデジタル社会形成整備法により、宅建士の記名(押印)ではなく、記名だけで足りるようになりました。
重要事項説明の際に必ず確認しておきたい大切なポイント10選
不動産を買ったり借りたりする場合、重要事項説明書を用いて宅建士から重要事項説明を受けることになります。重要事項説明書には専門的な部分もあって少し難解なことから、適当に聞き流してしまっている人も多いのではないでしょうか。
重要事項説明書の内容は名前の通りどれも重要ですが、「これだけはチェックしておくべき」という大切なポイントを10点紹介します。
【売買・賃貸】宅地建物取引士証
宅建業法第35条では、重要事項説明は宅建士が行うよう定めるとともに、同条第4項において、説明相手に対して宅地建物取引士証(以下、宅建士証)を提示するよう規定しています。通常は説明者から宅建士証が提示され、宅建士であることを確認してから重要事項説明が始まります。宅建士証が提示されない場合、説明前に必ず提示するよう求めましょう。
なお、重要事項説明書に記名(押印)する宅建士と重要事項説明を行う宅建士が異なる場合もあります。
【売買・賃貸】契約や物件の概要
重要事項説明書で最初にチェックすべきは「どのような契約に関する説明書なのか」という点です。具体的には次に挙げる項目をしっかり確認します。
⚫︎ 締結する契約の種類(売買契約、賃貸借契約など)
⚫︎ 売主/買主(賃貸借契約では貸主/借主)の情報の正誤
⚫︎ 購入もしくは賃借する物件の基本情報(住所や号室、面積、設備、構造などが事前に確認したパンフレットや従来の説明・資料と違わないかを確認)
⚫︎ 購入価格/家賃、管理費、手数料の金額、更新料の要否など
⚫︎ 支払期限、引渡し予定日、契約期間や更新の可否(賃貸)、解約時の対応など
⚫︎ 土地の権利(所有権、借地権など)
上記は契約の根本にかかわる重要な内容のため、少しでもわからないことや従来の説明と異なる点があった場合、不動産会社や売主・貸主に質問して疑問を解決しておくとよいでしょう。
【売買】法令上の制限
建築基準法や都市計画法をはじめとした関連法規・条例による建築上の制限がないか、あるとすれば制限内容はどのようなものかも事前に確認が必要です。チェックを怠ると、大規模修繕や建て替えを行う際などにトラブルへ発展するリスクがあります。
特に築古の中古物件を購入する場合、関連法規の施行前に建てられていると「既存不適格建築物」であることも考えられます。既存不適格とは、新築時には当時の法令の基準を満たしていたものの、現行法の基準を満たしていない物件のことです。特例により違法とはされませんが、増築や建て替えを実施する際は現行法に則る必要があります。
既存不適格だと、前よりも小さな規模でしか建て替えられない可能性もあるため要注意です。
【売買】抵当権
物件に抵当権が付されている場合、引き渡しまでに抵当権が抹消されるかも確認が必要です。契約時点で未処理であれば、引き渡しまでに抹消する旨が契約書に記載されているかチェックしましょう。
抵当権は、住宅ローン契約の際に金融機関が物件を担保にするため設定するものです。抵当権が残ったまま売主の住宅ローン返済が滞ると最悪の場合、物件が差し押さえられて競売にかけられるリスクがあります。
【売買】契約の解除
売買契約の解除を行う際の条件も重要なチェックポイントです。売買契約の解除条件として一般的に設定されるものには、「手付解除」「住宅ローン特約による解除」「契約違反による解除」などがあります。
手付解除とは、買主が売主に対して支払った手付金を放棄することで契約解除できるという規定です。売主側も手付金の倍額を買主に支払うことで解除可能とするケースが多くなっています。
また、売買契約書締結後に住宅ローンの本申し込みを行うため、契約締結時点では融資が正式に決定していません。そのため、買主が融資を利用するときは、融資を受けられなかった場合に無条件で契約を解除できる旨を定める「住宅ローン特約」を、契約書に盛り込む必要があります。
【売買・賃貸】損害賠償・違約金
売買契約で「契約違反による解除」が実行される場合、違反した側は相手方に対して違約金を支払うのが一般的です。このとき違約金の額がどのように設定されているかも確認しておきましょう。賃貸借契約でも、短期間で退去する際などに違約金が設定されるケースが多いため、金額設定は要確認です。
契約解除によって相手方に損害が発生したとき、解除原因となった当事者に対して損害賠償を請求できる旨を定めるケースもあります。損害賠償に関する取り決めも内容を確認しておきましょう。
【売買・賃貸】瑕疵
物理的瑕疵、法律的瑕疵、環境的瑕疵、心理的瑕疵の有無(ある場合にはその内容)も重視すべきチェック項目です。瑕疵とは、取引対象物件で認められる不具合や欠陥のことをいいます。
シロアリによる食害や水漏れ、土台の腐食などは物理的瑕疵に該当します。法律的瑕疵とは法令や条例による制限のこと、環境的瑕疵とは周辺環境に基づく騒音・振動(交通量の多い道路や学校が近くにあるなど)や嫌悪施設(人々に嫌われる公害施設、悪臭を発生させる施設など)などのことです。
また、見た目ではわからなくても、購入・賃借の判断に大きな影響を与えるのが心理的瑕疵です。過去にその物件で人が亡くなっていたり、近隣に暴力団関係者や問題のある住民が居住していたりといった事実が該当します。
瑕疵がある物件は本来期待される機能や役割を果たさないおそれがあり、後で判明したときは売主(貸主)を契約不適合責任に問える可能性があります。瑕疵発見時の補償内容も併せて確認しておきましょう。
【売買・賃貸】ハザードマップ
2020年の宅建業法施行規則改正により、ハザードマップ上での物件所在地も説明すべき重要事項に追加されました。浸水想定区域外にある物件でも、所在地がハザードマップに表示されていれば説明の義務があります。
重要事項説明時には、物件周辺の浸水予想区域図や災害発生時の避難場所をしっかりとチェックしておくことをおすすめします。
【売買・賃貸】禁止事項
集合住宅では、入居者が守らなくてはならない禁止事項を設けているケースがほとんどです。なかでも「事務所利用不可」「ペット不可」「楽器不可」といった制限は多くの集合住宅で見られます。禁止事項を破ると、近隣からのクレームや入居者トラブルの原因になりかねないため、忘れずにチェックしておきましょう。
【売買・賃貸】特記事項
重要事項説明書はフォーマット化されている場合も多く、物件固有の重要な内容は最後の「特記事項」に記載されていることがあります。特に「心理的瑕疵ありの事故物件であること」「近くに嫌悪施設があること」といった、買主(借主)の判断にマイナスの影響を与えるような事項は最後に書かれがちです。重要事項説明書は最後までしっかりと読み、わからないところはすぐに質問するよう心がけましょう。
特記事項として記載されることが多い項目として、ほかにも退去時に支払う金額の取り決め(原状回復費用、ホームクリーニング代など)や敷金の取り扱いに関する事項なども挙げられます。
重要事項説明書に関するよくある質問
ここまで、買主(借主)サイドから重要事項説明書のポイントを紹介してきました。以下では売主(貸主)サイドの視点に立って、重要事項説明書に関してよくある質問に答えていきます。
重要事項説明書の作成方法は?
重要事項説明書は宅建業法で作成を義務付けられている重要書類であり、記載事項に抜け漏れがあってはいけません。そのため、既存のテンプレートを利用するのが一般的です。
以下では公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会のフォーマットをもとに、重要事項説明書の主なページ構成を紹介します。こちらを参考にフォーマットに沿って必要事項を記入しましょう。
1. 売主(貸主)および説明する宅建士に関する情報、供託所に関する説明
2. 物件の詳細(売買の場合は土地・建物それぞれに記載)
3. 登記内容、物件に付された権利項目
4. 都市計画法・建築基準法等による制限の概要
5. 都市計画法・建築基準法以外の法令による制限の概要
6. 造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域に関する説明
7. 石綿使用調査結果の記録についての説明
8. 耐震診断に関する説明
9. インフラ設備の整備状況
10. 代金(賃料)に関する事項
11. 代金(賃料)以外に授受する金銭の種類と目的
12. 契約解除に関する事項
13. 損害賠償額の予定、違約金の設定
14. 金銭の貸借に関する事項
15. 契約不適合責任に関する取り決め
16. 特記事項
(参考)公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会「重要事項説明書[土地建物の売買・交換用]」
宅地建物取引士以外が重要事項説明書を作成しても大丈夫なのか?
結論からいえば、宅建士以外が重要事項説明書を作成しても問題はありません。重要事項説明書の作成は宅建士の独占業務(宅建士のみに許される業務)ではないため、テンプレートへの入力等の作成作業は、宅建士以外の人が行っても法律的に問題はないのです。
ただし、重要事項説明書への記名(押印)と重要事項説明の実施は宅建士の独占業務です。最終的には宅建士が重要事項説明書の内容を確認したうえで、上記の業務を行う必要があります。
なお、宅建士の記名(押印)のない重要事項説明書には公的な効力がないとされるため、記名(押印)を忘れないようにしましょう。
重要事項説明が必要ないケースとは?
不動産に関する取引であっても、重要事項説明および重要事項説明書の作成が不要なケースもあります。
代表的なのが「直接賃貸」です。直接賃貸とは、文字どおり貸主と借主が直接、賃貸借契約を結ぶことをいいます。賃貸借契約を結ぶにあたっては、不動産仲介会社に仲介(媒介)を依頼するのが一般的です。賃貸の媒介業務は「宅建業」に該当するので宅建業法の制約を受けます。
一方、不動産仲介会社を介さない直接賃貸は宅建業に当たらないため、宅建業法で定められた重要事項説明は必要ありません。不動産会社自身が貸主となる場合も直接賃貸に該当するので、同様に重要事項説明は不要です。
ただし、重要事項説明には双方の意識を合わせる意味合いもあり、トラブル防止に役立ちます。法的に不要な場合であっても、重要事項説明は実施したほうが安心でしょう。
まとめ
重要事項説明書とは、宅地建物取引業法第35条の規定に基づいて作成される文書です。不動産の売買契約や賃貸借契約を交わす際には、重要事項説明書の記載内容に基づいて、宅地建物取引士による重要事項説明を受ける必要があります。
住宅を買ったり借りたりするときは、重要事項説明書で確認すべきポイントを事前によく理解しておきましょう。疑問や不明点をあらかじめ解消しておくことがトラブルの予防につながります。