不動産業の団体である、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)では、公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会(以下、全宅保証)とともに、毎年「住まいに関する定点/意識調査」を実施しています。
このたび、その結果を「2023年住宅居住白書」として公表しました。その白書の中からいくつかの調査結果を紹介しながら、住まい探しについて考えていきたいと思います。
賃貸派? 持ち家派? 持ち家派が67.5%と多い
白書によると、全国の20歳~65歳の男女5,151人に調査したところ、賃貸派は15.2%に対して、持ち家派は67.5%になり、持ち家派が多数を占める結果となりました。
賃貸派か持ち家派かを尋ねる調査結果はいくつかありますが、おおむねどの調査でも持ち家派が多数という結果になっています。たとえば、国土交通省の令和4年度「土地問題に関する国民の意識調査」でも、「土地・建物については両方所有したい」が65.5%なのに対し、「借家(賃貸住宅)でかまわない、借家(賃貸住宅)が望ましい」は15.1%などとなっています。
持ち家派が優勢と言えますが、実は、持ち家派は減少傾向にあります。全宅連の調査では、持ち家派は前年度の77.9%から67.5%に減少していますが、これは「どちらともいえない、あてはまるものはない」の選択肢が今回新設された影響もあるでしょう。ただし、国土交通省の調査では、持ち家派は5年前(平成29年度調査)では75.7%、10年前(平成24年度調査)では79.8%でしたので、徐々に減少していることが分かります。
持ち家派が徐々に減少している理由は?
なぜ、持ち家派が減少傾向にあるのでしょうか? 全宅連の調査から、持ち家派と賃貸派のそれぞれの理由を見ていきましょう。
持ち家派の理由は、「家賃を払い続けることが無駄に思えるから」や「持ち家を資産として考えているから」といった、金銭的な理由が挙がりました。また、「落ち着きたいから」や「老後の住まいが心配だから」といった、住まいの安定性も理由に挙がりました。
注目したいのは、「マイホームを持つことが夢だから」という回答が8.6%しかないことです。かつては、マイホームを持つことが社会的なステータスだった時代もありました。通勤時間が長くなっても、家族ためにマイホームを持つことは当然といった風潮もありました。ですが、そうした意識は近年では薄れています。
一方で、賃貸派の理由は、「住宅ローンに縛られたくないから」や「税金や維持管理にコストがかかるから」など、こちらも観点は異なりますが、金銭的な理由が挙がりました。また、「不動産を所有しない身軽さが良いから」という、賃貸住宅ならではの理由も上位に挙がっています。
注目したいのは、「不動産の価格が上がりすぎて手が届きそうにないから」(15.5%)という理由です。たしかに、最近は新築住宅の価格の高騰が指摘されています。特に都心部では、一般的な家庭ではなかなか手が届かない価格になっています。郊外の新築住宅も中古住宅も、価格は上昇していますから、手が届きにくいという理由で、購入せずに賃貸に住むという人も少なからずいることでしょう。
加えて、コロナ禍を経て、収入の安定性に不安を感じる経験から、住宅ローンを返済し続けることを重荷に感じて、低金利ではあるものの住宅ローンに縛られたくないと思う人も増えたのかもしれません。
賃貸VS購入、それぞれのメリット
では、賃貸と購入では、それぞれどんなメリットがあるのでしょう?
今はまだ、住宅ローンの金利は低金利ですから、住宅ローンを借りやすい状況です。住宅ローン減税も使えますから、ローンの負担感は少ない環境と言えるでしょう。住宅ローンであっても賃貸住宅の家賃であっても、住宅費用が毎月かかることに変わりはありません。
購入すれば住宅費用が資産になり、キャッシュ化ができます。一方、住宅ローンの返済額は自分の意志で変えることはできません。逆に、家賃なら低額の賃貸に住み替えることができるので、住宅費用の変動性は高くなります。家庭によって事情が異なりますが、収入の安定性によって、いずれを重視すべきか判断が変わっていくでしょう。
どちらが適しているかは家庭それぞれですが、筆者自身は、早く住まいを購入することを勧めています。理由は、収入がある時期に住宅ローンを返済して、老後は住宅のメンテナンス費用だけというように住宅費用を抑えたほうが、マネープラン上でメリットが大きいことです。住宅ローンの額の変動性は低いですが、無理のない借り入れをすれば、リスクを抑えることはできます。若いうちに住宅ローンを組めば、老後までの時間がたっぷりあるので、時間を有効に使えるということから、早めの購入をお勧めしています。
加えて、賃貸住宅は老後に借りづらくなること、マイホーム仕様の住まいのほうが一般的には性能が高いことなどが挙げられます。もちろん、長く住むことになりますので、周辺環境や災害リスクなどについては、しっかり確認する必要があります。
実際にその家庭にはどちらが良いかは、一概には言えません。長期的にライフプランやマネープランを考えて、判断するのがよいでしょう。
住まい選びの工程で重視すべきことは?
賃貸でも持ち家でも、住まい探しは同じような工程になります。まずは、不動産情報サイトなどで、物件を検索することから始めるケースが多いでしょう。「立地」「間取りプラン」「金額」などの基本情報を比較検討するわけですが、この白書では、「基本情報以外にあると便利な情報」について聞いています。
その結果を見ると、過半数が「物件の写真」を挙げました。7位の「物件紹介の動画」と合わせて、映像を重視する傾向がうかがえます。
2位は、省エネや耐震などの「物件の品質情報」です。最近の住宅は性能が高くなっています。特に、国際的な課題となっている省エネについては、確実に性能が向上していますので、こうした点への関心が高まっていることがわかります。3位は「周辺物件の相場」、4位以降は、さまざまな周辺環境が挙がりました。
さて、実際に見学したい物件が見つかったら、不動産会社の店舗に連絡することになります。その際に大きな影響を及ぼすのが、「担当者」です。担当者の知識の豊富さやコミュニケーション力、誠実さなどが、住まい探しの成否を決めるほど重要になります。白書の結果でも、重視するのは「優秀な担当者」が最も多くなりました。
物件を見学して気に入ったとなると、資金面の確認をして、物件に関するさまざまな制限なども確認したうえで、納得できたら契約となります。いったん契約すると簡単には解約できず、違約金を払う事態にもなりかねません。そのため、契約の際には対面で、重要事項の説明を書面で受けてから契約することになっていました(賃貸契約で不動産会社が貸主の場合は重要事項説明の義務はありません)。
ただし、対面となると、遠方にいる場合に時間の調整が難しいといったこともあります。今では、IT化が進んで、不動産の取り引きの際に電子契約をすることができるようになりました。
この白書では「電子契約」についても聞いています。「利用したい」(「積極的に利用したい」+「どちらかと言えば利用したい」)は34.1%で、20代・30代では半数近くが利用したいと回答しました。一方、50代・60代では「わからない」が半数以上で、高齢になるほどIT化に馴染みがないことがうかがえます。
不動産会社の担当者を味方にして住まい探しをしよう
電子契約を行う場合、国土交通省ではいろいろな条件を付けています。そうしたこともしっかり理解して、適切に助言をするのが不動産会社の担当者の役割です。賃貸でも持ち家でも、わが家となる大切な住まいですから、複数物件を見学して、その際に担当者の対応も確認をして、自分の希望をしっかり聞いて、適切な助言をしてくれる優秀な担当者と一緒に、住まい探しをするとよいでしょう。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)