【名古屋市が新たな路面公共交通システム「SRT」を導入予定 人が主役になる道路空間へ】

名古屋市は地下鉄の環状運転、優先レーンを走る基幹バス、ガイドウェイバス、リニモの導入など、国内でいち早く先進的な交通システム導入してきた都市です。現在は、進化していくまちの姿を見据えながら、路面公共交通システム「SRT」の導入に向けた意見交換や社会実験などが行われています。

まちとまちのストレスフリーな移動を提供する「SRT」

2027年のリニア中央新幹線の開業で東京-名古屋間が約40分で結ばれることにより、名古屋市の交流圏が大きく拡大しようとしています。2026年には「第20回アジア競技大会・第5回アジアパラ競技大会」の開催、名古屋城の天守閣の木造復元も予定され、外国人旅行者(インバウンド)の増加など、今後、ますます来訪者が増えていきそうです。目的地まで迷うことなく待たずに行ける、待っても快適に過ごすことができる、利用しやすい公共交通が必要になるでしょう。

「名古屋交通計画2023策定」では、既存の路線バス交通に加え、先進技術を活用した誰もが快適でスマートに移動できる「最先端モビリティ都市」を目指しています。そこで、今後の状況もふまえ、名古屋市は都心の魅力ある地域をつなぎ、回遊性を高めて、にぎわいを面で拡大していく新たな路面公共交通システム「SRT」の導入を進めています。
SRTはSmart Roadway Transitの略で、「先進性・快適性を備え洗練されたデザイン(Smart)で路面(Roadway)を走る新たな移動手段(Transit)」を表しています。まちとまちをシームレスにつなげ、ストレスフリーな移動を目指しています。

名古屋市の繁華街、栄の風景。名古屋駅、大須、名古屋城エリアをSRTで結ぶことにより、快適にアクセスできるようになります
SRTのイメージは「まちとまちを結ぶ横のエレベーター」

名古屋駅と栄を結ぶ「東西ルート」、大須や名古屋城などをプラスした「周回ルート」の実用化

SRTの導入を目指し、これまでに、2011年9月に「なごや新交通戦略推進プラン」を策定、新たな交流社会を創出する「みちまちづくり」を提唱してこれを具体化するために、2014年9月「なごや交通まちづくりプラン」が策定されました。2017年3月には「新たな路面公共交通システムの導入に係る基本的な考え方」にて、従来のLRTやBRTの優れた点を持ち合わせた、最先端で魅力的なタイヤベースシステムの導入を検討する方向性が決まりました。
そして、2019年1月に「新たな路面公共交通システムの実現を目指して(SRT構想)」が策定されたことにより、社会実験やアンケート等の結果を踏まえながら実用化に向けた取り組みが行われています。

今後の予定として名古屋市は、2026年に愛知県内で開催予定の「アジア・アジアパラ競技大会」までに、名古屋駅と栄区間を結ぶ「東西ルート」を実用化します。「アジア・アジアパラ競技大会」開催時に国内外から多くの来訪者があることを見据えて、運行ルートでの効果や課題を検証・検討しながら、リニア中央新幹線開業の2027年までに、中心部2箇所と名古屋城や大須エリアなどを結ぶ構想の「周回ルート」の導入を目指しています。
「東西ルート」は広小路通を利用し、外観のシンボル性や社内の快適性を備えた連節バスを運行する方針です。ルート沿いには、テラス型の乗降・待合空間の設置も検討されています。「周回ルート」は名古屋駅地区、名城地区、栄地区、大須地区の拠点間とその間にある魅力ある地点もつながります。運行は10分間隔が想定されているので、利便性がさらに高まりそうです。

運行ルート案
東西ルートの運行に使われる広小路通

コンセプトに基づいたトータルデザイン

名古屋駅周辺を世界に誇れるスーパーターミナルを実現するために、統一感あるSRT全体のデザインが進められています。2023年度から2024年度にかけては「トータルデザイン懇談会」が行われます。懇談会委員にはまちづくり、デジタル文化、デザイン、交通の分野から6名の方が選ばれ、それぞれの分野から、SRTの魅力を高める付加価値、デザインコンセプト(案)や車両仕様、乗降・待合空間についてなどの意見聴取を行います。

また、SRTは今までにない新しい公共交通となるために、「最先端」をキーワードに、システムやソフトを実験的に取り入れながら実装チェックをする実証フィールド「riding lab(ライディング・ラボ)」としての活用も検討されています。

誰もが心地よく感じられるシステムに

SRTのコンセプトは次のとおりです。
・みちの再生による都心の魅力向上
・地区間の連携を強化する基幹公共交通
・まちを訪れる人に新しい移動価値を提供

最終的にはどのようなシステムがイメージされているのか「新たな路面公共交通システムの実現をめざして(SRT構想)」では、車両、走行空間、乗降・待合空間や運行サービスが相互に連携し、一体的に機能することをSRSの特徴としています。

シンボル性のある魅力的な「車両」
存在感があり、シンボル性がある、誰もが安心して快適に乗車できる先進的な車両を新たに開発・導入されます。車いす使用者やベビーカー使用者も含めて、誰もがスムーズに乗降でき、快適に過ごせる広い車内が確保されます。また、乗りたくなる魅力的な車両デザインをはじめ、運転手を補助する自動運転機能の導入実現や、また、海外や岐阜県岐阜市ですでに導入されている連節バスの導入も考えられています。

先進的ながらまちに溶け込むような、車両エクステリアのイメージ
車内のイメージ。移動しやすいフラットな車内で開放感のある大きな窓が印象的

安全で快適な「走行空間」と「乗降・待合空間」
バスの運行で重要な安全性と利便性に配慮した、スムーズで快適な走行環境の整備が検討されています。具体的には、まちの美観に配慮したレーンの着色、路面表示(ピクトグラム)でルートの存在感を高めること、また、歩道側車線の専用レーン化や公共交通の走行を優先させる仕組みで、渋滞等による運行の遅延を低減することを目指しています。

走行空間のイメージ。バスレーンの着色や路面表示(ピクトグラム)が表記されています

バス停は歩道を前に出したテラス型にすることで、広い乗降空間と歩行者空間が確保でき、沿道での駐停車車両の影響を受けずに発着できるメリットがうまれます。また、乗降・待合空間との間に段差のないシームレスでバリアフリーな乗降環境を整備することで、利用者のスムーズな乗降を可能にします。
また、快適にバスを待つことができる空間づくりも考えられています。デザイン性が高い上屋や待合用のベンチを整備しながら、歩道との一体性を高めること、まちの情報案内機能を備えたデジタル案内板のせっちも考えられています。歩道の休憩施設や沿道の建物と連携することで憩いやにぎわいの空間を創出し、待ち時間やほかの公共交通と連携できる、行き来しやすいまちの回遊拠点としての機能ももたせます。

乗降・待合空間のイメージ。まちのアイコンになるような上屋、デジタル情報版、バリアフリーな乗降環境が整備されています
テラス型バス停のイメージ

SRT導入に向けた社会実験も実施中

名古屋市では、公共交通と歩行者が中心となる社会実験やアンケート実施を行っています。2022年度7月のネット・モニターアンケートでは、「広くゆったりしている車両を求めている」や「SRTが名古屋の都心の主な交通手段の1つになると思う」など、などSRTに期待をしている声があがりました。アンケートや社会実験の結果をふまえ、今後の取り組みが検討されていきます。

連節バスの体験乗車
2022年9月の社会実験では、一般モニターによる連節バスの体験乗車が実施されました。走行区間は名古屋駅-栄間。2日間で約600名が体験しました。体験乗車参加者にアンケートをとると、「見た目が目立つ」「車内にゆとりがある」「利用したいと思う」「乗っていて楽しい」などの意見が多くありました。「まちのシンボルになりうる」「一度に多くの人を運ぶことができる」など、連節バスならではの特徴も挙がっていました。また、沿道で連節バスを見かけた人にとったアンケートでも「連節バスに乗ってみたい」など、好意的な回答が寄せられました。

2022年9月の社会実験として、体験乗車で利用された連節バス
社会実験で広小路通を走った連節バス

乗降・待合空間「なごまちテラス」の設置
2023年9月16日〜11月30日まで、広小路通のバス乗り場をテラス型にする「なごまちテラス」の社会実験が行われました。期間中、納屋橋バス停2番バス乗り場と広小路本町バス停7番のりばの2箇所にテラス型のバス停「なごまちテラス」を設置。さらに、各テラスに1台ずつデジタル案内板も設置し、バスの時刻表や目的地までのルート検索に加え、周辺の見どころやイベント、またSRTのPRに関する情報などが表示されました。バス乗降のしやすさ、まちの回遊拠点としての機能、一般交通への影響の検証が行われました。

納屋橋バス停2番バス乗り場の「なごまちテラス」の様子
「なごまちテラス」にはベンチが置かれ、バス利用者はもちろん、歩行者の休憩にも利用されていました

交通事業とまちづくりを一体で進めるSRT

なごまちテラス設置の期間中は近隣イベントと連携を図り、まちとまちがウォーカブルにつながりました。交通事業だけの整備ではなく、まちづくりと一体的に行うことで相乗効果を生み、名古屋市全体の回遊性向上やにぎわいをうみだす新しい事業がSRTです。SRTの実現により、名古屋の広い道路空間が、利用しやすい公共交通空間、歩いて楽しい道路空間に生まれ変わります。

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