異常気象の影響もあって、近年は台風や線状降水帯などの発生が相次ぎ、大雨や洪水、暴風による被害が頻発しています。災害を予測することは難しいですが、助けになるのがハザードマップです。では、ハザードマップについて、どの程度理解されているのでしょう。
防災意識は高くても、ハザードマップを見ていない人も多い
イタンジ株式会社は、首都圏在住の20代・30代の男女1,135人(部屋探し経験者:802人、部屋探し未経験者:333人)を対象に、「部屋探しと防災意識の調査」を実施しました。
その結果を見ると、部屋探しの経験がある802人では、部屋探しでの防災意識について「とても必要だと思う」が39.5% 、「多少必要だと思う」が50.9%と回答するなど、約9割が防災意識の必要性を認識していました。
さらに、ハザードマップの認知について聞くと、「知っており、見たことがある」が61.7% と高い割合を占めていますが、一方で「知っているが、見たかわからない」が25.2%、「知っているが、見たことがない」が8.9%、「知らないし、見たことがない」が4.2%と、約4割がハザードマップを見たことがないという結果でした。
次に、ハザードマップを「見たことがない・見たかわからない」人に、ハザードマップを見ていない理由を聞いたところ、部屋探し経験者・未経験者ともに、「確認するのが面倒」が最も多く、次いで「見方がわからない」「どこで見ることができるのか分からない」が続きました。
「ハザードマップを見たことがない」ことの背景には、ハザードマップの見方が分からない、入手方法が分からないという基本的な問題もありそうです。
そもそも、ハザードマップとはどんなもの?
では、ハザードマップとはどんなものでしょうか?
国土地理院は、「ハザードマップ」を「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」と定義しています。
ハザード、つまり自然災害による危険性については、「地震」「火山」「土砂災害」「洪水」「内水※」「高潮」「津波」などの種類があります。ハザードマップは、国や都道府県の情報を参考にして市区町村が作成するのが一般的ですが、必ずしもすべての自然災害についてハザードマップが作成されているとは限りません。
※大雨によって下水道などの排水能力を超えた場合の浸水被害
これらのハザード中でも、「洪水」「内水」「高潮」「津波」のハザードマップを総称して、水害ハザードマップと言います。法律によって、市区町村は水害ハザードマップを作成・周知することとされていますので、多くの市区町村が水害ハザードマップを作成しています。
ハザードマップはどんなときに使えばよいのでしょう? ハザードマップを活用したいのは、次の2つのシーンです。
(1)ある地点の災害リスクを把握する
→ ハザードマップで周辺のリスクを事前に把握し、たとえば浸水リスクがあれば、土台をかさ上げして家を建てるなど「住まい方の工夫」に役立てることができます。
(2)ある地点からの避難ルートを確認する
→ 気象情報や自治体からの避難勧告などでリスクが高まったときに、ハザードマップを見て、具体的な避難場所や避難経路を確認できます。
ハザードマップはどこで入手できる?
ハザードマップは、住んでいる市区町村に確認すればどういったものが作成されているかがわかりますが、お勧めなのは国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」です。このポータルサイトでは、「わがまちハザードマップ」と「重ねるハザードマップ」の2つが提供されています。
「わがまちハザードマップ」では、市区町村のハザードマップの有無やインターネット上で公開されている場合にはそのリンク先を知ることができます。
加えて、ポータルサイト独自の「重ねるハザードマップ」では、地図上で複数の災害リスクを重ねて表示することができます。たとえば、住んでいる場所の自然災害リスクをまとめて調べることができますし、避難指示によって避難する際に、道路の冠水想定箇所や洪水浸水想定区域などを地図上に重ねることで、安全な避難ルートを確認することもできます。
2023年5月30日にハザードマップポータルサイトのリニューアルが行われ、「重ねるハザードマップ」で住所入力やスマートフォンなどの位置情報から、その地点の自然災害や災害時に取るべき行動が表示される機能が追加されました。さらに使いやすくなったことも、このポータルサイトを勧める理由です。また、目が不自由な人でも音声読み上げソフトを使用して音声で情報を把握できるといった工夫もされています。
「使い方」の説明資料も公開されていますので、上手に活用すれば多くの情報を入手することができるでしょう。
不動産の取り引きの際に、水害ハザードマップ上の位置提示を義務化
先ほどの調査では、ハザードマップを「⾒たことがある」⼈に、最初にハザードマップを⾒たきっかけについて質問しています。部屋探し経験者では、「避難に備えるため⾃ら調べた」が37.6%で最も多く、次いで「引越しの際、不動産会社からの提供を受けた」が26.3%になっています。
実は、不動産会社から提供を受けた人が一定数いるのには、理由があります。近年は大規模な水災害が甚大化しているため、不動産の取り引きをする上で、水害リスクはその判断に大きく影響すると考えられます。このことから、国土交通省では、不動産の取り引きの際に宅地建物取引業者(宅建業者)が行う「重要事項説明」で、説明すべき項目として、災害に関するリスクの説明を増やしています。
これまでも、取り引きの対象となる物件が「土砂災害警戒区域内か否か」、「津波災害警戒区域内か否か」については契約前に宅建業者が説明する項目になっていましたが、2020年8月28日以降は水害ハザードマップに対象物件の位置を示すことが義務化されました(なお、市区町村が水害ハザードマップを作成していないときは、作成されていないと説明されます)。
不動産会社からハザードマップの提供を受けたという回答が26.3%になったのは、この義務化を受けたものと考えられます。
繰り返しハザードマップを見よう
不動産を買ったり借りたりする場合に、その場所にどんな災害リスクがあるかを事前に把握しておくことは重要です。加えて、住んでからも災害リスクが高まったときに避難行動をとる可能性もありますので、住んでいる自治体のハザードマップは繰り返し確認するようにしましょう。ハザードマップの情報は、もとになる災害想定が変われば、危険性も変わってきますので、常に最新の情報を確認するようにしたいものです。
また、勤務先や旅先で災害リスクが高まるという可能性もあります。ハザードマップの見方に慣れておくと、いつどんなときにも正確な情報を入手して判断することができるでしょう。備えあれば憂いなしです。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)