児童扶養手当はひとり親を対象とした手当ですが、母子または父子家庭であれば誰もがもらえるわけではありません。所得制限などの条件があり、給付対象から外れてしまう人も多くいます。
児童扶養手当を受給中だったり、今後ひとり親で子育てをする可能性があったりする人は、所得制限の内容が気になるのではないでしょうか。この記事では、児童扶養手当の所得制限や今後の制度の見通しについて説明します。
児童扶養手当とは
そもそも児童扶養手当とは、離婚や死別などで児童がひとり親となった家庭に対し、生活の安定と自立を促し、子どもの福祉の増進を図ることを目的としています。もともとは1961年に母子福祉年金の補完的制度として発足し、母子家庭を対象とする制度でしたが、2010年の法改正により父子家庭にも支給対象が拡大されました。
この法改正の背景には、雇用情勢の不安定化などにより経済的に困窮する父子家庭が増えたことが理由とされています。その後も改正が繰り返され、児童扶養手当の受給対象もさらに広がり、支給される金額も徐々に上がってきています。
児童扶養手当を受け取れる条件
2023年8月現在、児童扶養手当の支給対象となるのは18歳になった年度の3月31日を迎える前の児童(一定以上の障害がある場合は20歳未満)を監護している母、または監護しかつ生計を同じくする父、もしくは父母に代わってその児童を養育している人です。
さらに、その児童は以下のいずれかに該当しなければなりません。
・父母が婚姻(事実婚を含む)を解消した後、父または母と生計を同じくしていない児童
・父または母が死亡した児童
・父または母が政令で定める障害の状態にある児童
・父または母の生死が不明である児童
・父または母がどちらかの申し立てにより保護命令を受けた児童
・父または母から1年以上引き続いて遺棄されている児童
・父または母が法令により1年以上引き続いて拘禁されている児童
・婚姻によらないで生まれた児童
・父母が不明な児童(棄児など)
児童扶養手当の支給には所得制限がある
前出の条件に加えて、児童扶養手当の支給には所得制限も設けられています。参照する所得は請求者および請求者と生計を同じくする扶養義務者などの前年の所得です。
所得制限の対象となる限度額は以下のとおりです。
例えば、父母どちらか1人と子ども1人(扶養1人)の世帯の場合、所得額が87万円未満だと児童扶養手当の全額支給、230万円未満だと一部支給となります。
祖父母と父母どちらか1人子ども1人(祖父母と父または母の扶養が1人)の場合も同様です。ただし、祖父もしくは祖母の所得額が274万円を超えると児童扶養手当は支給されません。
所得には養育費も含まれる
児童扶養手当における所得は、所得税など税法上の所得とは異なるため注意が必要です。税制上では、元配偶者から受け取った養育費は基本的に所得には含まれません(非課税所得)。しかし、児童扶養手当の所得算定においては、養育費の8割に相当する金額が所得として加算されます。
児童扶養手当のために働くのを控えるべき?
児童扶養手当には所得制限が設けられているため、いわゆる「~万円の壁」と同様の、働き損が生じる可能性があります。
子どもが1人の給与所得者の場合、満額を受け取るには、「年間給与総額-55万円(給与所得控除)-8万円(児童扶養手当における一律控除)+養育費の8割<87万円」に収めなければなりません。つまり、養育費をもらっていないと仮定するなら年間給与総額150万円が満額受給の壁ということになります。
しかし、子どもの将来を考えると、児童扶養手当に頼って働くのを控え続けるというわけにはいかないでしょう。
そもそも、2008年(平成20年)の法改正により、児童扶養手当の受給開始から5年を経て特段の理由がない場合などは、支給額が2分の1に減額されるようになりました。これは、児童扶養手当の目的が「自立の促進に寄与」することにあるためです。
したがって、児童扶養手当を収入の柱と当てにするのではなく、正社員を目指すなど収入の安定を図ったほうがよいという世帯も多いでしょう。
児童扶養手当を受給している人の割合
厚生労働省が発表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子世帯では69.3%、父子世帯では46.5%が児童扶養手当を受給しているとされています。
男女ともに、最終学歴が低いほど受給者の割合が高くなる傾向があり、母親が中学校卒の世帯における受給者は83.9%に達します。また、離婚による父子世帯では児童扶養手当の受給世帯割合が48.8%と半数未満にとどまっているのに対し、母子世帯では71.7%におよび、シングルマザーの自立が困難な状況が浮き彫りとなっているといえるでしょう。
児童扶養手当と児童手当、特別児童手当との違い
児童扶養手当と名称が似ていて、混同されがちなものに児童手当と特別児童手当があります。ここからは、それぞれどのような違いがあるのかについて説明します。
児童手当とは
児童手当とは、中学校卒業までの児童を養育している人に支給される手当です。児童の生活の安定と健やかな成長に資することを目的とするもので、父親や母親のほか、児童を養育する未成年後見人なども支給の対象となります。
支給額は、3歳未満であれば一律1万5,000円、3歳以上小学校修了前は1万円(第3子以降は1万5,000円)、そして中学生は一律1万円です。また、児童扶養手当と同じく所得制限が設けられています。
所得が上限限度額以上となると、児童手当は支給されません。所得制限限度額以上で所得上限限度額未満の場合は、児童1人当たり月額一律5,000円が特例で給付されます。2023年8月現在の所得制限限度額と所得上限限度額は以下のとおりです。
特別児童手当とは
続いて特別児童扶養手当とは、20歳未満で精神または身体に障害(中程度以上)のある児童および長期療養中の児童を監護・養育する人に対して支給される手当です。支給額は2023年(令和5年)4月分から改定され、障害の等級が1級であれば月額5万3,700円、2級では3万5,760円となっています。
特別児童扶養手当にも扶養親族の数に応じた所得制限があります。前年の所得が限度額以上となった場合は、8月分から翌年7月分までの手当が支給されません。また、手当の請求者本人以外にも、その父母、祖父母、子、兄弟姉妹といった扶養義務者および配偶者にも、限度額が設定されています。2023年8月現在の限度額は以下のとおりです。
児童扶養手当と特別児童扶養手当、児童手当はすべてを受給可能
以上に挙げた三つの手当は、名称は似ているもののそれぞれ別の制度であり、どれか一つしか受給できないというわけではありません。条件さえ満たせば、すべてを併給してもらうことも可能です。
いずれも窓口は居住している市区町村ですが、手続きは個別に行います。併給を希望する場合は申請漏れがないようにしましょう。
児童扶養手当の所得制限は撤廃される?
三つの手当とも所得制限が設けられていますが、児童手当については制限を撤廃する方向で議論が進められています。その背景には、子どもの健やかな成長を目的とする児童手当について、養育者の所得による制限を設けること自体が制度の趣旨に反するという意見や、世帯主の所得を基準とすることに対する不公平感などがあるとされています。
同時に、より困窮しやすいひとり親世帯を対象とする児童扶養手当についても、所得制限緩和や支給額引き上げといった拡充が要望されるようになりました。政府が「異次元の少子化対策」をうたうなか、児童扶養手当の所得制限も緩和される可能性は、十分にあるといえるでしょう。
まとめ
児童扶養手当とは、ひとり親世帯を対象として支給される手当です。給付を受けるには所得制限があり、所得が限度額以上となると全額または一部の支給がストップします。
所得制限の設定については批判も強く、物価の高騰に賃金の上昇が追い付いていない現状では撤廃を求める声も高まっています。今後は、所得制限の緩和が進む可能性があるため、情勢を注意深く見守る必要があるでしょう。