マンションは買ったら終わりではなく、維持管理のためのランニング・コストがかかります。これは、新築でも中古でも変わりありません。このランニング・コストの額が、上昇しているといいます。どのように上昇しているのか、なぜ上昇しているのかを見ていきましょう。
管理費や修繕積立金は年々増加している!
マンションの維持管理をするために、毎月「管理費」と「修繕積立金」を持ち分に応じて負担します。つまり、専有面積が広い住戸ほど金額も大きくなります。住宅ローンの返済と合わせて、維持管理のためのランニング・コストを捻出することになるので、家計に占める住宅費もばかになりません。
「新築・中古マンションのランニング・コストに関する調査レポート(2022年)」を、東京カンテイが公表しました。これによると、新築マンションのランニング・コスト(毎月の管理費+修繕積立金)は年々増加しています。
首都圏の場合で見ていきましょう。70平方メートルで換算した管理費の平均額は、2013年では1万5,581円だったものが、2017年には1万6,531円になり、直近の2022年では1万9,548円に増加しています。修繕積立金も同様で、2013年では6,788円だったものが、2017年には7,120円になり、直近の2022年では7,946円に増加しているのです。管理費も修繕積立金も、2013年と比べると2割程度増えている計算になります。
新築マンションでランニング・コストはなぜ増加する?
ではなぜ、年々増加していくのでしょうか? 理由はいくつか考えられますが、第一にそれぞれのコストが上昇していることです。
管理費の中で最も大きいのは、管理会社への管理業務委託費です。管理業務委託費は大きく分けると、管理業務に関する費用、点検に関する費用、清掃に関する費用などになります。管理業務委託費の中でも多くを占めるのが、管理員の人件費です。特に管理員は人手不足が指摘され、近年は人件費が上がっています。法律に定められた設備の点検をするのも、清掃をするのも人が関わりますので、人件費の上昇はさまざまなところに影響します。管理会社が設定する管理費も上げざるを得ないということになってきます。
また、大規模修繕工事の工事費用も上がっています。建築資材の価格が上がっていることもありますが、建設工事での人手不足は深刻です。工事費用上昇の大きな要因になります。同じ長期修繕計画であっても、工事単価が上がれば工事費用の総額も上がります。その影響から修繕積立金の額も増加することになります。
東京カンテイでは、ランニング・コストは、マンションの坪単価の上昇と連動する形で上昇していると指摘しています。マンションの価格が上昇すれば、ランニング・コストも上昇するというわけです。
その理由については触れられていませんが、たとえば首都圏では、新築マンションで高額なマンションやタワーマンションが増えています。高額なマンションでは、建物の性能や仕様を引き上げますし、24時間常駐管理など管理内容を手厚くしています。タワーマンションでは、多様な共用施設の維持管理も必要になります。こうした場合、一般的なマンションよりも管理費や大規模修繕工事費用が高くなります。このように、高額マンションの影響によってランニング・コストが上がるということも言えるでしょう。
新築マンションの修繕積立基金も年々増加している
新築マンションの場合、毎月負担する費用とは別に、購入時の費用として「修繕積立基金」も必要です。「修繕積立準備金」、「修繕積立一時金」とも呼ばれます。
マンションを引き渡してすぐは、まだ修繕積立金が貯まっていませんが、修繕が必要になる事態がすぐに生じる可能性もあります。こうした事態に備えて当初から資金を貯めておくためのものが、修繕積立基金です。修繕積立基金をストックすることで、毎月の修繕積立金を抑える効果もあります。
この修繕積立基金の額が年々増加しています。首都圏と近畿圏では、特に2022年で大きく増加しています。が、中部圏では2021年より低下し、2019年以降おおむね横ばいとなっています。
中古マンションで見られる、築浅での管理費・修繕積立金の逆転
次は、中古マンションのランニング・コストです。東京カンテイのデータは、2022年に中古市場に流通したマンションのランニング・コスト(70平方メートル換算)を築年数別に算出しています。首都圏の事例で見ていきましょう。
まず、管理費を見ると築年数が10年程度までは徐々に下がっています。先ほどの新築マンションでは、年々管理費が上昇していましたので、ある意味当然と言えるでしょう。
一方、おおむね築15年以降は、管理費があまり大きく変わっていません。新築マンション並みに上昇しないのは理由があります。マンションの場合、毎年、管理業務委託費用などを管理会社と管理組合で合意する必要があります。管理組合側から見れば、管理費が上がるのは望ましくないですし、管理会社の変更を考えるきっかけにもなります。こうした背景から、管理費の上昇はある程度抑制され、管理組合と合意しながら慎重に上げていくというのが実態でしょう。
次に、修繕積立金ですが、管理費とは逆に、築年数の短いマンションのほうが低額で、築5年から築15年くらいまでかけて高額になっていく傾向が見られます。この要因の一つが、修繕積立金の徴収方法の違いです。
近年、新築マンションでは、同じ額をずっと積み立てる「均等積立方式」ではなく、当初の金額を抑えて段階的に額を引き上げる「段階増額積立方式」を採用する事例が増えています。この方式の場合、当初の積立金の額は抑えられますが、10年ごとなどのタイミングに積立金の額を引き上げていくことで、長期修繕計画の費用をまかなう形になります。この方式のマンションが多いことで、築年数の短いマンションで修繕積立金が低額になっているということが考えられます。
一方、築年数の古いマンションでは、「均等積立方式」を採用している事例が多いのですが、かつては修繕積立金を積み立てていった額では、第2回目の大規模修繕工事で費用が不足するという場合も多くありました。買いづらさを軽減するために、低額で設定したからです。そのため、国土交通省はガイドラインを作成するなどして、長期修繕計画をしっかり立てて、少なくとも2回の大規模修繕工事に費用を確保するように指導しています。国土交通省のガイドラインが作成される前の古いマンションでは、不足する分をまかなうために途中で修繕積立金の値上げをする必要がありました。
おおむね築15年以降は修繕積立金の額が横ばいになる傾向が見られますが、こうしたマンションで値上げが進んだことで、修繕積立金の額が安定していったと考えられるでしょう。
積立修繕金の額は変動することを考慮に
見てきたように、ランニング・コストは変動します。特に、修繕積立金は、長期修繕計画に基づいて算出されるもので、長期修繕計画は定期的に見直すとされています。その際に、物価上昇などで工事費用が上昇すれば、大規模修繕工事に必要となる費用が不足することもありえます。
ほかにも、修繕積立金の徴収方法によっては、将来の値上げを織り込んでいる場合もあり、ランニング・コストが想定外に増えるということも考えられます。
購入当初のランニング・コストのまま続くのだと安易に考えないで、値上げの予定はあるのか、長期修繕計画の工事が積立額で不足しないかをしっかり確認しておくことが重要です。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)