2023年3月23日、同年1月1日時点の地価を表す地価公示が公表されました。これを見ると、住宅地・商業地とも上昇率の全国平均が増加しています。コロナ禍の収束にともない、全国的に地価の上昇傾向が顕著に現れる結果となりました。
全国の状況に対し、神奈川県の地価はどのような状況なのでしょうか。この記事では、神奈川県の地価概況と最近5年の地価推移について解説していきます。
地価公示とは
地価公示とは、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を同年3月に公示するものです。複数の不動産鑑定士による鑑定結果をもとに、国土交通省の土地鑑定委員会が適正な地価を公示します。
地価公示法に基づいて行われる地価公示の目的は、適正な地価の形成に寄与することです。公共事業用地の買収価格算定に用いられるほか、不動産鑑定価格や土地取引価格における指標としても機能しています。
標準地(2023年調査時で全国2万6,000地点)で毎年調査が行われるため、あるエリアにおける地価推移を確認するのにも役立つ指標です。なお、標準地は「標準地の選定基準」にしたがって選ぶことになっており、適格でなくなった標準地は変更される場合もあります。
全国の地価推移の概況
神奈川県の地価推移について見る前に、まずは2023年公示地価における全国の地価推移概況を確認していきましょう。
2022年・2023年公示地価における変動率
上の表を見ると、2023年公示地価の全国平均における変動率は全用途平均・住宅地・商業地ともに、前年よりも上昇幅が拡大しています。住宅地・商業地どちらも、コロナ禍前への回復傾向を示しているといえるでしょう。
三大都市圏で見ると回復傾向はさらに顕著で、全用途平均で前年の0.7%から2.1%へと大きく上昇。都市圏での地価上昇の流れが地方都市へと波及している状況です。
神奈川県の地価推移の概況
全国的に地価が上昇傾向にあるなか、神奈川県はどのような状況なのでしょうか。ここからは神奈川県における地価推移の概況について見ていきます。
都市部は地価上昇傾向
神奈川県における地価推移は、都市部とそうでないエリアで傾向が異なります。
県内に3つある政令指定都市(横浜市・川崎市・相模原市)を中心とした東京に近い都市部では、地価の上昇傾向が鮮明です。また、強いブランド力を誇る湘南エリア(藤沢市・茅ヶ崎市・平塚市など)や鎌倉市なども、住宅地・商業地ともに地価が大きく上昇しています。
一方、県西部(南足柄市・山北町など)や三浦半島(横須賀市・三浦市)の地価は下落傾向にあります。2023年は2022年に比べて下落幅は縮小しているものの、依然としてマイナスが継続している状況です。
県全体では住宅地が2年連続、商業地が11年連続の上昇となっていますが、地域差が大きいのが実情です。
低金利が住宅需要を下支え
神奈川県を含めて住宅地の地価が上昇している背景には、歴史的な超低金利環境が継続していることがあります。とりわけ住宅ローンの変動金利は過去最低レベルになっており、最も低いところでは年0.2%台という金融機関も登場(2023年7月現在)しています。
さらに、住宅ローン控除をはじめとした住宅取得者に対する支援策も充実しており、住宅需要は相変わらず堅調です。コロナ禍により自宅でのテレワークが増加し、郊外の住宅へのニーズが高まったことも、郊外の地価上昇の要因の一つと考えられます。
こうした不動産取引の活性化が、全国的な地価上昇につながっています。
好調な他県と比べると見劣りする面も
先ほども紹介したとおり、三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)はどこも地価上昇が続いており、地価の面では好調です。
近隣都県における2023年公示地価の住宅地変動率は東京都が2.6%、千葉県で2.3%、埼玉県は1.6%となっています。いずれも、神奈川県(1.4%)を上回る数字です。神奈川県は2022年の変動率でもほかの3都県と比べて数値が低くなっており、東京圏においては少し伸びが見劣りする面もあるといえるでしょう。
また、都県庁所在地を比較しても新宿区が4.2%、千葉市が1.9%、さいたま市で2.8%であるのに対し、横浜市は1.5%とやや勢いに欠ける印象です。
神奈川県の最近5年の地価推移
続いて、神奈川県における最近5年(2019〜2023年)の地価推移をグラフで見てみましょう。
以下では、各年の詳細について解説していきます。
出典:神奈川県「かながわ地価レポート」
2023(令和5)年公示地価
神奈川県全体における2023(令和5)年の公示地価、および用途別の上昇率は以下のとおりです。住宅地は2年連続、商業地は11年連続、工業地は10年連続の前年比プラスとなっています。
住宅地で計41市区町、商業地では計43市区町が前年比で上昇となりました。近年にない高い上昇率を記録し、コロナ禍後のさらなる上昇傾向が鮮明になっています。
2022(令和4)年公示地価
次に、2022(令和4)年の神奈川県全体における公示地価、用途別の上昇率をまとめると以下のとおりです。
前年マイナスとなった住宅地が再びプラスに転じるなど、全用途でコロナ禍による落ち込みからの回復傾向がみられました。住宅地の変動率はコロナ禍前の水準に回復したものの、商業地の伸びは依然として低い状態です。
2021(令和3)年公示地価
2021(令和3)年の神奈川県全体における公示地価、用途別の上昇率をまとめると以下のとおりです。
住宅地の変動率が8年ぶりのマイナスに転じたのをはじめ、商業地・工業地の上昇率も大幅に縮小。住宅地の上昇地域は前年の35市区町から14市区へ減少、商業地の上昇地域は前年の38市区から23市区へ減少するなど、前半を中心にコロナ禍の影響を大きく受けた年でした。
2020(令和2)年公示地価
2020(令和2)年の神奈川県全体における公示地価、用途別の上昇率についても同様にみていきます。
この年はコロナ禍直前の状況を表しており、住宅地は3年連続の上昇となりました。上昇地域は35市区町(前年は31市区)に上り、コロナ禍前は住宅地が好調だったことがうかがえます。商業地についても高い上昇率を記録しました。
2019(令和元・平成31)年公示地価
最後に2019(令和元・平成31)年の神奈川県全体における公示地価、用途別の上昇率を確認していきましょう。
住宅地・商業地とも前年とほぼ同様の地域で地価が上昇。上昇率は住宅地が前年0.1%から0.3%、商業地が前年1.9%から2.4%と、いずれも拡大基調となりました。
まとめ
2023年公示地価における神奈川県の上昇率は住宅地1.4%、商業地2.9%でした。全国的な地価上昇局面ということもあり、神奈川県の地価も堅調に上昇しています。過去5年の地価推移をみても、コロナ禍の影響が大きかった2021年を除き、全用途で上昇傾向にあります。
特に、横浜市・川崎市をはじめとした都市部や湘南エリアは上昇傾向が顕著です。一方、西部の山間部や三浦半島では地価下落に歯止めがかからず、県内でも二極化の傾向が顕在化しています。