2023年4月27日から、相続した土地を手放したいとき、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。遠方で管理ができない宅地や、後継者がいない田畑や森林などを相続する人にとっては朗報と言えるでしょう。しかし、どんな土地でも国に引き取ってもらえるわけではありません。どんな人が申請できてどんな土地なら手放せるのか、手続きや費用はどうなるのか、気になる制度の概要について知っておきましょう。
土地を手放したい人が増える背景
自宅以外の宅地を所有する人に対して国土交通省が行ったアンケート調査によると、相続で宅地を取得した人の51.4%が負担を感じたことがあると回答しています。いらない土地だからと名義変更されないまま何世代も放置されると、「所有者不明の土地」として処分も活用もできなくなってしまいます。こうした所有者不明の土地を増やさないように、2024年4月1日から相続人への名義変更(相続登記)が義務化されます。
しかし、2016年度地籍調査によれば、所有者不明の土地の割合は全国の20.3%を占め、すでに九州の土地面積を超えています。所有者不明の土地が増える背景は、都市部への人口集中や、少子高齢化による人口減少で、土地利用そのものへのニーズが減少していることなどが原因です。不要な土地に固定資産税を支払ったり、庭木や建物の手入れなど近隣に迷惑をかけないように維持管理に手間やお金がかかったりすることも原因の一つです。
不要な土地は相続放棄もできますが、相続放棄をすればいらない土地だけでなく、預貯金などほかの財産も放棄しなくてはなりません。そのため相続が発生しても、相続登記をしないまま放置され、3代、4代と世代が進むにつれて、法定相続人の数が増えて権利関係が複雑化し、だれがその土地の所有者かわからなくなってしまう現状があります。
相続土地国庫帰属制度の概要
所有者がわからなくなると、国や自治体は税金が入ってこなくなるだけでなく、道路建設など公共的な目的でその土地を利用したい時に利用できないという不都合が起こります。こうした事情から、一定の要件を満たす宅地や田畑、森林などの土地を相続または遺贈(自分の財産を遺言によって指定した人に贈ること)で所有した人が、不要な土地を手放して国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」が制定されました。
では、どのような人や土地なら手放せるのか、手続きの流れや費用とともに具体的にお伝えします。
申請ができる人
「相続土地国庫帰属制度」を利用して土地を国に引き渡す申請ができるのは、相続や遺贈で土地を取得した相続人です。制度開始前(2023年4月27日以前)に相続した土地でも申請できます。
相続により兄弟など複数の相続人で所有する共有の土地でも申請可能です。ただし共有の土地を申請する場合は、所有者全員で申請する必要があります。1人でも反対する人がいれば申請はできません。また、生前贈与で土地を取得した相続人や売買等によって取得した人、法人は申請できません。
制度を利用できる土地の要件
その土地に建物がないことなど、法令で定める「引き取れない土地」に当てはまらなければ制度を利用できます。国が所有し管理や処分をするにあたり、多くの費用や労力がかかる土地は、制度の利用対象外です。
対象外となる土地は「①申請段階で却下となってしまう土地」と「②審査段階で該当すると却下になってしまう土地」の大きく2つのグループに分けられます。
① 申請段階で却下となる土地の例
A:建物がある土地
建物が老朽化すると管理や維持コストが高額になり、最終的に建て替えや取り壊しが必要となるため
B:担保権や使用収益権が設定されている土地
金融機関等により抵当権が設定されている土地や借地など国以外に権利者があり、国が所有権を失う可能性がある土地
C:他人の利用が予定されている土地
道路として利用されている土地、墓地内、境内地、水道用地、用悪水路、ため池として利用されている土地など、すでに用途が決まっている土地。
D:特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
E:境界が明らかでない土地、所有権等について争いがある土地など
出典:政府広報オンラインより筆者作成
② 審査の段階で該当すると不承認となる土地の例
A:一定の勾配・高さの崖があって管理に高額な費用や労力がかかる土地
勾配30度以上+高さ5メートル以上の崖地で、擁壁工事が必要な土地など
B:土地の管理・処分を阻害するものが地上にある土地
果樹園の樹木や枯れた樹木等定期的な伐採が必要な樹木、廃屋、放置車両等がある土地
C:土地の管理・処分のために除去しなければならない有体物が地下にある土地
産業廃棄物・屋根瓦などの建築資材・既存建物の基礎や配管・浄化槽・井戸・大きな石など
D:隣地との争訟によらなければ管理・処分できない土地
公道に通じない土地(袋地)、池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に出ることができない土地。崖があって土地と公道に著しい高低差がある土地
不法占拠者がいる土地、隣地から生活排水などが定期的に流入している土地等
E:その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
土砂崩壊の保護工事を行う必要がある土地、埋め立ての必要がある土地、水を排出する必要がある土地、鳥獣・害虫等(スズメバチやヒグマなど)が生息する土地
間伐を実施していない人工林、標準伐期齢に達していない天然林など
出典:政府広報オンラインより筆者作成
申請にかかる費用
1筆(登記上の土地の個数を表す単位)の土地ごとに、1万4,000円の審査手数料がかかります。さらに法務局の審査を経て承認されると、土地ごとの標準的な管理費用から算出した10年分の土地管理費用相当額の負担金を納付しなくてはなりません。
負担金は、宅地や田畑は面積にかかわらず1筆ごとに20万円が基本です。隣接している同じ種目の土地であれば、2筆以上でも20万円が基本です。市街化区域など一部の市街地の宅地・田畑と森林は面積に応じた負担金となり、面積が大きくなるほど1平方メートル当たりの負担金は少なくなります。
相談先・手続き・申請先
制度を利用して土地を手放す手続きの流れは以下の①~③の流れとなります。
① 法務局へ相談→②申請書類の作成・提出→③承認後の負担金の納付
① 法務局への相談
下記(1)から(3)の書類を持って法務局・地方法務局(本局)の窓口で相談、または電話相談ができます。「法務局手続き案内予約サービス」で事前相談の予約をし、相談時間は1回30分です。土地所有者本人だけでなく家族や親族も相談できます。
相談の時に準備する書類
(1)相続土地国庫帰属相談票(法務省ホームページよりダウンロード可)
(2)相談したい土地の状況についてチェックシート
(3)土地の状況が分かる写真や資料
登記簿謄本・地図・公図・地積測量図・土地全体が分かる写真など
② 申請書類の作成・提出
必要な申請書類を作成、用意して法務局・地方法務局(本局)に提出します。
作成する書類
(1) 承認申請書
(2) 申請する土地の位置・範囲を明らかにする図面
(3) 隣地との境界点を明らかにする写真
(4) 申請する土地の形状を明らかにする写真
用意する書類
(1) 申請者の印鑑証明書
(2) 固定資産税評価額証明書(任意)
(3) 境界等に関する資料(あれば)
(4) 現地案内図(任意)
(5) その他提出を求められた書類
申請先は承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門です。支局や出張所では申請できません。窓口に持参するか郵送でも受けつけてくれます。申請書には審査手数料分の印紙を貼りますが、土地を引き取ってもらえなくても手数料は返ってきません。
③ 負担金の納付
審査の結果、国が引き取ってくれる場合は承認の通知とともに、負担金の通知が申請者にきます。通知が来てから30日以内に納付しないと、申請のし直しとなります。
まとめ
少子高齢化が進む中で、管理ができない遠く離れた親の家や田畑、森林など不要な土地はますます増えるでしょう。不要な土地をスムーズに国に返すには、「引き取れない土地」とならないように維持管理をしなくてはなりません。相続が発生した後も更地にするなど、国が管理しやすい土地にするための費用が掛かります。さらに、「相続土地国庫帰属制度」の申請費用や、10年間の土地管理費用相当額の負担金もかかります。
親が所有する土地を手放すのか引き継ぐのかは、親だけ、子だけで勝手に考えるのではなく、お金の準備も含めて親が元気なうちに親子で話し合っておくことが、ますます重要になるでしょう。