住宅価格の上昇を受けて、所有する不動産を売却する意向が強くなっているようです。最近、売却の意向や仲介する不動産会社選びに関する調査結果がいくつか公表されています。その結果などを見ていきながら、賢く売却するための不動産会社選びについて考えていきましょう。
「売れるときに売りたい」「高いうちに売りたい」
まず、リクルートが実施した『住まいの売却検討者&実施者』調査(2022年 首都圏)を見ていきましょう。調査は、首都圏に住む20歳~69歳の男女を対象に、2022年12月に実施したもので、有効回答は1,239人です。
「過去1年間に土地や居住用不動産の売却を検討しましたか」と聞いたところ、売却検討意向は2年前の調査結果より5.8ポイント増加して、18.3%になりました。売却を検討した人のうち、実際に売却した割合は、36.3%で2年前より10.0ポイント増加した一方で、売却を検討したものの途中で検討をやめた人の割合は、18.1%で2年前より11.2ポイント減少しました。
2年前よりも、不動産の売却検討意向が高まり、実際に売却に至った人も増加していることが分かります。
この調査で特徴的な結果として、「売却しようと思った理由」が挙げられます。最多の理由は「売れるときに売るため」(30.2%)で、次いで「住む場所を変えるため」(28.9%)、「高いうちに売るため」(26.9%)、「より条件のよい住まいに移るため」(23.2%)と続きます。2年前と比べて違いが目立つのが、「高いうちに売るため」が増加する一方、「より条件のよい住まいに移るため」が減少したことです。
たしかに、近年は「住宅価格が上昇している」という市場調査の結果が数多く見られます。いまなら高く売れると考えて、積極的に売却を検討する人も多いということでしょう。売るなら、買い手の多い売りやすいとき、住宅相場が上がって高く売れるときに売りたいと考えるのは、間違いではありません。
地域密着や規模の大きさ、担当者の信頼性など、不動産会社選びの理由はさまざま
不動産を売却しようと思ったら、通常は仲介を依頼する不動産会社を選びます。では、不動産会社選びの際に、何を重視して選んでいるのでしょう?
まず、全国の30歳~69歳の男女で世帯年収500万円以上の4,000人に対して、「おうち売却の達人」が調査した結果を見ていきましょう。
戸建てまたは分譲マンションの売却経験がある662人に対して、売却を依頼した不動産会社を聞いたところ、「中小または地元の不動産会社」は50.5%、「大手不動産会社」は49.6%で、拮抗する結果となりました。それぞれに「その不動産会社を選んだ理由」を尋ねると、「中小または地元の不動産会社」に依頼した人では「地域密着型」が最多の42.2%で、「大手不動産会社」に依頼した人では「有名・規模が大きい」が最多の48.2%になり、いずれも半数近くがそれぞれの特色を理由に挙げていました。
このほかでは、いずれも「担当者のコミュニケーション能力」や「担当者の知識や経験が豊富」を上位に挙げています。
別の調査でも、売却を依頼した不動産会社を選んだ理由について見ましょう。2022年12月~2023年1月に、不動産の売却及び購入の経験を持つ20歳以上の全国2,219人に調査した、(株)And Doホールディングスの『不動産売却・購入に関するインターネット調査』です。こちらでは、年代別に選んだ理由を公表しています。
この調査によると、どの年代も「地元に強いと感じた」、「担当者が信頼できた」が上位に挙がり、地域密着で担当者の信頼が厚い不動産会社を選んだことが分かります。
また、20代~40代では「対応スピードが速い」ことが上位に挙がり、40代、50代では「査定額が高かった」が、60代以上では「大手だから」も上位に挙がっています。年代別に不動産会社を選ぶ理由が少し異なる点は、注目したい点です。
これから売却するなら、重視するのは「査定価格」!?
再び、おうち売却の達人による「住宅売却時の不動産会社選び」の調査結果に戻り、「もし、また戸建てや分譲マンションを売却することになったら、何を重視して不動産会社を選びますか?」に対する回答を見ていきましょう。
売却するとしたらという想定では、なんと「査定価格」が最多になりました。地域密着や規模の大きさよりも、担当者の知識や経験・コミュニケーション能力よりも上位になる結果です。
冒頭のリクルートの調査結果で、「売れるときに売るため」や「高いうちに売るため」が上位に挙がったことと関係しているのかもしれませんが、今売るならできるだけ高く売りたいと考えている可能性が考えられます。
査定価格の違いだけで選んで本当に良い?
では、査定価格を重視して不動産会社を選ぶという方法は適切なのでしょうか?
不動産の売却の特徴は、ある地域にある特定の不動産を売り手の希望に応じて特定の買い手に売ることです。多くの商品を広範な地域で多くの人に売るわけではありません。その地域の不動産相場に精通していることが極めて重要になります。まして、できれば高く売りたいというのが売り手の心情ですから、不動産相場に基づいて適切に売り出すことがカギになります。
不動産会社であれば、「○○駅から○分の築○年、○平方メートルのマンション」という条件検索で、過去の成約事例のデータを入手することができます。こうしたデータを使って、査定価格を提案することはそれほど難しいことではありません。
ところが、同じ○分のマンションでも、道路を隔てた場所では相場がかなり違うといったこともありえます。地域特性やその地域の買い手の志向などを十分理解していれば、適正な査定価格の提示ができます。その価格は他社の価格よりも低いかもしれませんが、それが相場なら、結果としてその額の前後で売れるのが実態です。
また、なかには売却を依頼してほしいがために、あえて高い査定価格を提案するという不動産会社もいるでしょう。その価格で売れると信じて実際に売り出してみても、買い手がつかずに時間が過ぎ、結果として価格をどんどん下げていくといった事態は避けたいものです。
重視したいのは「査定価格の根拠」です。集めたデータをどう分析して査定価格を割り出したかを確認しましょう。たとえば、データによる査定は過去の成約事例を分析して出されるものです。その地域に新しく大型施設が建つ予定だったり、逆に閉鎖される予定だったりといった地域事情があれば、それを加味して割り出すと査定価格は変わるでしょう。
担当者の説明に納得できるか、信頼できるかが重要
筆者が何を重視すべきかと聞かれたら、迷わず「担当者の知識や経験が豊富」なことと、「担当者のコミュニケーション能力」が高いことを挙げます。
地域密着か規模が大きいかも、実はあまり重要ではありません。地域密着の会社だから担当者に地域の取引の知識・経験が豊富であったり、規模が大きい会社だから担当者に売るための販売戦略の選択肢が多かったりといった関係性はあるかもしれませんが、最終的には、会社よりも担当者の力量を見極める必要があるのです。
また、売り手は高く売りたいと思うものですが、早く売りたい事情がある場合も考えられます。高く売るために販売を長期化させるより、希望の売却日に間に合うように戦略を立てるといったことも、担当者に求められることです。そのためには、売り手の希望を適切に把握して、どういった販売戦略を取るべきかをきちんと説明できるという、コミュニケーション能力が重要になります。
結論としては、それぞれの担当者に不動産相場や最近の取引事例、買い手の動きなどを聞いて、その説明に納得できるかどうか、その担当者が信頼できると思えるかどうかを、不動産会社選びの決め手にすることがよいと思います。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)