2024年4月1日から施行される、「土地・建物の相続登記の申請義務化」。これまでは任意とされていましたが、施行されると、相続した土地や建物の登記が義務となり、正当な理由がないにも関わらず申請をしないと罰則が科されることになります。
施行まであと1年という時期に、日本司法書士会連合会が独自に調査を実施しました。相続登記の義務化の認知度は高まっているのでしょうか?
相続登記義務化の認知率はいまだ27.7%に留まる
この調査結果を見ると、あと1年足らずと施行が迫っているにも関わらず、義務化の認知率は27.7%に留まっていました。およそ4人に3人は、相続登記が義務化になることをまだ知らないということになります。
図1【相続登記義務化の認知率】
Q:社会問題となっている所有者不明土地問題などの対策として「相続登記」を義務化する法律が2021年4月に成立しています。あなたは「相続登記」が義務化されることをご存知ですか。
空き家や所有者の不明な土地が数多く発生している背景に、相続が発生しても相続登記がされていないという要因があります。そこで法改正が行われ、相続によって不動産を取得した相続人は、「その取得を知った日から3年以内に土地・建物の相続登記を申請しなければならない」と義務化されることになりました。
登記申請の義務がある人が、正当な理由もなくその申請を怠ったときは、「10万円以下の過料に処される」という罰則規定もあります。この罰則についての認知率は、わずか10.8%でした。
図2【10万円以下の過料が科せられる罰則の認知率】
Q:もし「相続登記」の申請を怠った場合、10万円以下の過料があることをご存知ですか。
また、相続登記の申請が「3年以内」であることの認知率は、昨年調査の9.7%から増加して、12.3%になりましたが、それでも認知率は低いという状況です。
図3【相続登記申請が3年以内の認知率】
Q:「相続登記」の申請が「3年以内」に必要となることをご存知ですか。
過去に不動産を相続した場合も対象になる!
「しばらくは相続の予定がないから、知らなくても問題ない」と思っているとしたら、大間違いです。相続登記の申請義務は、過去に発生した相続も対象になるからです。すでに不動産を相続しているのに登記をしていない場合、施行日の2024年4月1日から3年以内に申請をしなければなりません。たとえ、不動産を相続したことを知らなかった場合でも、知った日から3年以内に申請する必要があります。
特に過去の相続については、登記する際に相続人をすべて特定する必要があります。未登記の期間が長期化している場合は、祖父母以前の親族までさかのぼることにもなりかねません。かなりの労力と費用が掛かる可能性もあるわけです。
プレスリリースに添付された詳しい調査結果の資料を見ると、直近3年以内に相続人になった経験がある人を対象に、相続登記を行ったかどうかについて聞いています。相続登記をした人は43.3%と半数を切り、相続登記をしなかった人が35.8%もいました。ただ、相続登記をしなかった理由の最多(41.7%)が「相続財産に不動産がなかったから」ということなので、問題にならない事例も多いようです。一方で、「わからない/覚えていない」(16.7%)、「遺産分割協議がまとまらなかったから」(12.5%)、「手続きが面倒だったから」(12.5%)といった事例もあり、義務化によって登記が必要になる人も一定数いることがわかります。
相続人の負担を軽減する措置もある?
相続については、いわゆる法律で定められた「法定相続」という方法がありますが、ほかにも、相続人が全員で遺産の分割について協議して決める「遺産分割協議」という方法もあります。遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する必要があります。
この遺産分割協議が難航してまとまらない、ということも起こります。遺産分割協議がまとまるまでは、法律上、すべての相続人がその不動産を共有している状態になります。協議がまとまるまで時間がかかるので、いったん相続人で共有する形で相続登記を申請しようとした場合、全員が合意してそれぞれの戸籍謄本などを用意する必要があります。
こうした負担を軽減するために、相続登記の申請義務化と同時に「相続人申告登記」の制度が創設されます。遺産分割協議がまとまらずに相続登記を申請できない場合は、自分が相続人であることを法務局の登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる制度です。この制度を利用すれば、自分が相続人であることを示す戸籍謄本を提出するだけで済みます。
ただし、申告した人だけが申請義務を果たしたことになります。また、協議がまとまって不動産の相続人が確定したら、その相続人に協議後3年以内に相続登記の申請義務が生じます。
ほかにも、相続登記の未登記が長期化するのは、その不動産の価値が低いなどの理由が挙げられます。使い道がない不動産を手放したいけど引き取り手がいないという場合、不要な土地を国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」も設けられました。こちらは、2023年4月27日に施行されました。ただし、国の承認が必要で、審査手数料や負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付することも求められます。
相続登記だけでなく、住所等変更登記も義務化される
相続したときの登記だけでなく、登記簿上の所有者の住所や氏名が変更になった場合も、変更日から2年以内に変更登記の申請が義務化されることになっています。
「住所等の変更登記の申請義務化」は2026年4月までに施行される予定で、こちらも正当な理由がないのに義務に違反した場合は、5万円以下の過料の対象となります。住所等の変更登記が放置されている場合も、義務化の対象になります。
住所等の変更登記は、他の公的機関との情報連携によって、所有権の登記名義人の住所などが変わったら不動産登記にも反映されるようになる仕組みも導入されることになっています。
このように、相続した不動産の登記を確実に行うような仕組みを整備する動きが加速化しています。施行まであと1年を切った相続登記の申請義務化ですが、ほとんどの人が十分理解をしていないという状態です。相続登記については、相続する人を明確にするだけでは足りず、相続する財産を漏れなく明確にしておくことが大切です。今からできることをしておきたいものです。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)