勤労世代における在宅勤務の普及をきっかけとした地方移住が注目されていますが、定年後や子どもの独立を機にした「老後移住」もまた話題となっています。老後移住に興味がある人は少なくありませんが、実際に踏み切った人は、そこまで多いとはいえません。
老後移住が実際どのようなものか知りたいけれど、なかなか体験談なども聞けずよくわからない、という人も多いでしょう。そこでこの記事では、老後移住についての特集を行います。
老後移住希望者は少ない?
内閣府の2015年の世論調査によると、老後も現在の地に住み続けたいという人の割合は79.2%でした。別の地域へ移住したい人は19.1%で、老後移住に関心のある人は全体の5分の1弱にとどまっています。
しかし、2014年の別のアンケートでは、東京在住の50歳代男性の半数以上が地方移住を検討したいと考えているという結果も出ています。移住に憧れや希望は持っているけれど、実行に移す気が起きない人が多いのかもしれません。
ちなみに移住先については、内閣府の世論調査における老後移住希望者の55.2%が地方都市部、14.0%が大都市部、そして9.6%が海外と答えています。老後は程よく自然があり、病院やスーパーなどへのアクセスもよい地方都市部が人気なことがわかります。
地方では老後移住が歓迎されている
人口が多い首都圏では、今後の高齢化による医療・介護の担い手不足が懸念されています。そこで、首都圏から地方に高齢者が移動する老後移住が注目されています。共同通信社のアンケートでは、東京圏や大阪圏の知事は反対していますが、西日本を中心に賛成する都道府県が13県を超えていました。
所得や資産を持つ高齢者が定住すると、深刻化している空き家対策にもなるといったことから、地方圏では高齢者の移住は歓迎されています。定年退職をしている高齢者だと移動もしやすく、地方活性化の一端として高い期待が寄せられています。
高齢者向けの制度が充実している自治体
老後に移住をするとなると、なるべく高齢者向けの制度が充実しているところがよいと考える人は多いでしょう。そこで、高齢者が住みやすい制度を用意している自治体の例を紹介します。
北海道伊達市
室蘭や洞爺湖に近い北海道伊達市は、北海道のなかでは気候が温暖で降雪量も少ないことから、高齢者にも人気の地域です。
伊達市では今後ますます進む高齢化社会に備え、誰でも住みやすい街にしようという目標のもと、伊達ウェルシーランド構想という政策を行っています。具体的には、60歳以上なら誰でも入居できる賃貸マンション(伊達版安心ハウス)の建設や、高齢者が移動しやすい会員制相乗りタクシー事業(愛のりタクシー)の導入などです。
こういった政策が効果を発揮し、2005年~2010年の5年間で、60歳以上のすべての年齢層での転入超過を記録しています。
山梨県北杜市
八ヶ岳や南アルプスに囲まれ、リゾート地として有名な山梨県北杜市も、移住先として注目されています。森林療養や温泉セラピー、農林業体験など、長期滞在者へのアピールも行われてきました。リゾートエリアのなかでも比較的地価が安いこと、東京圏からの距離が近いことなどから、首都圏の高齢者に人気の地域です。
北杜市では、介護用品の支給や市営温泉施設を利用した相互交流イベント、タクシー券の支給(条件あり)といったさまざまな高齢者向けの政策に取り組んでいます。自治体をあげて、高齢者が孤立せずに安心して暮らせるような街づくりを目指していることがわかります。
福岡県宗像市
福岡県宗像市は、福岡市と北九州市の中間にあって便利な一方、海に面しており静かで暮らしやすい場所です。
宗像市では、新たに三世代同居を始めた親、または子世帯に最大40万円の補助を行っています。子世帯と同居を始めるよいきっかけとなるでしょう。
また、GPS機器を貸与し、徘徊時にも場所を特定できる徘徊高齢者等位置検索サービス事業や、定期的な配食サービスによる安否確認なども行っています。1人暮らしや子世帯と同居していない高齢者が、安心して暮らせるような制度が整っています。
石川県能美市
金沢市の南西に位置し、海あり山ありの自然豊かな石川県能美市。
能美市で行っている高齢者支援には、車いすなどをレンタルする日常生活用具貸与事業や、ボタン一つで緊急対応サービスにつながる緊急通報システム設置事業などがあります。高齢者にとってけがや病気は心配ですが、こういった制度があると1人暮らしでも住みやすくなるでしょう。
買い物や調理が難しくなってきたときには、安否確認も兼ねた配食サービス事業もあります。
栃木県小山市
2023年大河ドラマの主人公・徳川家康が小山評定を開いたことでも知られる栃木県小山市。東京から約60kmと程よい距離で、小山駅は新幹線の停車駅でもあることから、利便性にも優れています。
小山市では、安心して暮らし続けられるように在宅でも看護師や医師のケアを受けられる在宅医療支援や、徘徊を見守るための機器を導入するための初期費用助成など、体が弱ってきても安心して暮らせるような支援があります。
また、シルバーカーの購入助成もあるため、運転免許を返納予定の人でも暮らしやすいでしょう。
借入可能額や毎月の返済額をチェック!
老後移住を成功させるコツ
老後移住には、若い人とは違った難しさがあります。老後のために蓄えた貯蓄を無駄にしないためにも、こちらの成功させるコツを参考にしてみてください。
目的を明確にして移住先を決める
ただ漠然と住んでいる場所を変えるのではなく、なぜ移住したいのか、移住した先でどのような暮らしをしたいのか、目的を明確にしてみましょう。
高齢者支援が充実しているところで安心して暮らしたい、自然が多い場所でのんびりしたい、スーパーや病院へのアクセスがよく便利なところがよい、など人によって目的はさまざまです。そのうえで、自分に合っている自治体を探してみてください。
おためし移住や2拠点生活で様子を見る
いきなり自宅を引き上げ本格的に移住するのではなく、まずはおためし移住がおすすめです。
地域によっては、移住体験ツアーなどを行っているところもあります。そういったサービスを利用しながら、本当に住めそうな場所かどうか確かめてみてください。自宅を手放す前に短期賃貸マンションなどを活用し、2拠点生活をしてみてもよいでしょう。
医療機関の場所を把握する
高齢になると、どうしても病気や怪我をしやすくなります。そういったときに困らないように、移住先は医療機関からアクセスしやすい場所にすることをおすすめします。どこに医療機関があり、自家用車がなくても通えるのかどうか確認してみてください。車でなければ通えない病院であると、免許を返納したときに不便です。
まとめ
「老後移住をしてみたい」と考える人は少なくはないのですが、実際に行動に移す人は多いとはいえないのが現状です。他方で、老後移住を歓迎する地域や、高齢者に優しい支援が充実している自治体は数多くあります。
各地の特徴や制度を調べ、自身に合った場所への移住を検討してみてはいかがでしょうか。
(最終更新日:2024.04.19)