「東京一極集中」に変化? 東京都の転入超過が3年ぶりに大幅増&周辺3県も転入増加

コロナ禍でテレワークが定着し、通勤の負担が減ったことにより、ワークスペースなど広い住まいを求める傾向が強まりました。それを受けてか、2020年、2021年と東京都への人口の流入が減り、一極集中に歯止めがかかりました。しかし、2022年にはコロナ禍による行動自粛が解除され、テレワークから出社に切り替える企業も増えたためか、再び東京都特別区部への人口転入が回復しました。

2021年、東京都特別区部では「転出超過」だった

バランスの取れた国土の発展を目指すため、東京への一極集中を是正、地方創生を計ることが、長い間、日本の大きな課題でした。政府は、東京から地方への移住に対して、最大300万円の支援金を支給しているほどです。

それが、図らずも2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大によってテレワークが普及したこともあり、東京への人口の流れに歯止めがかかりました。東京都への転入超過数(転入者数から転出者数を差し引いた数。転入超過数がマイナスの場合は、転出超過を示す)は、2020年には3万1,125人だったのが、2021年は5,433人に減少。なかでも、東京都特別区部は転出が転入を上回り、2014年の集計開始以降、初めて転出超過になりました。

テレワークの定着によって、密になる可能性の高い公共交通機関を利用しての通勤やオフィスへの出勤が減少しました。そのため、通勤時間を重視した住まい選びから、郊外に住まいを求める人が増えたわけです。

東京都と東京都特別区の転入超過数
出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2022年結果

郊外や地方の広い住まいが求められるように

通勤時間の問題だけではありません。自宅にテレワーク用のスペースが必要になり、より広い住まいを求めるようになったことも、郊外や地方への移転を後押した要因の一つでしょう。

また、家族全員が在宅する時間が長くなったことで、ついつい関係がぎくしゃくしてくることも。それを回避するために、一人ひとりの時間を過ごせる空間が必要になりました。外出しにくい状態が続いたので、住まいのなかで運動したり、趣味の時間を持ったりすることなどが求められ、広い住まいが必要になった、という事情もあります。

そのため、都心やその周辺から多少遠くなっても、「今より広めの住まいを」、「マンションよりは戸建て住宅を」という人が増え、郊外化・地方化が進んだと言えるでしょう。

テレワークが減少して出社が戻ってきた

しかし、その流れは一過性のものにとどまりそうです。

新型コロナウイルス感染症拡大から3年を経て、2022年にはテレワークを継続する企業は引き続き多いとはいえ、なかには社員全員に出社の復活を求める企業も登場してきました。

図表2は、テレワークの実施率の推移を示しています。新型コロナウイルスが感染拡大した2020年当初には、テレワークの実施率は3割を超えていました。しかし、2021年には20%前後に減少、2022年半ばから後半にかけては20%を切り、10%台に減っています。従業員規模別に見ると、従業員100人未満の小規模企業では、10%を少し超える程度にとどまっています。

従業員規模別テレワークの実施率
出典:公益財団法人日本生産性本部「第11回働く人の意識に関する調査

周辺3県への流入が続いている

テレワーク実施率が減少し、出社が復活してきたことで都心やその周辺の会社への通勤に便利な場所に住まいを求める傾向が強まっているためか、再び東京都への人口の転入が増加してきています。

図表3にあるように、東京都への転入超過数は2021年には5,433人でしたが、2022年には3万8,023人に増加しました。転入者数が前年の約7倍以上に増えたのです。

転入超過数の多い都道府県と少ない都道府県
出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2022年結果

注目したいのは、2022年の神奈川・埼玉・千葉の周辺3県の転入超過数。前年よりも転入超過数は減っているものの、東京都だけでなく周辺3県への転入も多いことがわかります。47都道府県のうち、転入超過数が最も多かったのは東京都ですが、次いで神奈川県が2万7,564人の2位、埼玉県が2万5,364人の3位でした。千葉県は8,568人と転入超過数がやや少なくなりますが、それでも全国4位で、5位の大阪府を上回っています。

これを見ると、東京都への一極集中ではなく、東京圏への一極集中という見方ができます。

さいたま市は年間1万人近い転入超過に

「東京圏への一極集中」は、市区町村別の転入超過数に表れています。

図表4にあるように、2022年の市区町村別の転入超過数のトップは東京都特別区部ですが、2位にはさいたま市が入っています。周辺3県の市区町村も健闘し、8位に千葉市、9位に藤沢市、10位に船橋市が入りました。

転入超過数の多い市区町村TOP10
出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2022年結果

なかでも、注目したいのがさいたま市です。大宮、浦和など人気の街を擁するさいたま市の転入超過数は年間1万人近くに達しており、大阪市を上回っているほどです。

ここにはありませんが、11位以下でも、神奈川県の相模原市、川崎市、大和市、海老名市、千葉県の流山市、柏市、埼玉県の所沢市などの周辺3県の市区町村が入っています。

東京都、それも東京都特別区部だけではなく、周辺3県を含めた、東京圏全体で流入が増えています。まさに、東京一極集中から東京圏一極集中への転換が起こっていると言えるのではないでしょうか。

神奈川、埼玉、千葉なら東京23区の6割前後でマイホームが手に入る

東京一極集中から東京圏一局集中への転換は、エリアによる住宅価格の違いが大きく影響していると考えられます。企業や教育機関などが都心やその周辺に多いので、通勤・通学の交通アクセスや生活の利便性などを考えれば、東京都特別区部がいいという人は多いでしょう。ただし、残念ながら利便性が高いぶん、価格が高くなります。

2022年の新築マンション平均価格で見ると、図表5にあるように、東京23区の平均は8,236万円。これに対して、神奈川県は5,411万円、埼玉県は5,267万円で、千葉県は4,603万円です。神奈川県なら東京23区の平均価格の65.7%、埼玉県は64.0%、千葉県は55.9%。おおむね東京23区の6割前後で購入できます。

首都圏新築マンション発売価格と中古マンション成約価格の平均
出典:新築は不動産経済研究所、中古は東日本不動産流通機構

これは、中古マンションについても同様です。東京23区の成約価格の平均は5,776万円で、神奈川県は3,477万円、埼玉県は2,743万円、千葉県は2,603万円です。東京23区の平均価格に対する割合を見ると、神奈川県は60.2%、埼玉県は47.5%、千葉県は45.1%。中古マンションなら東京23区の半額程度で取得できる計算です。

出勤が復活してきたといっても、毎日ではなく週や月に数回の出勤だったり、フレックスタイム制によって通勤時間をずらして出勤していたりする人も少なくないでしょう。

であれば、会社への通勤時間が長いエリアでもそこまで不都合はなさそうです。周辺3県への転入が多くなるのも自然な流れと言っていいでしょう。

千葉県なら23区に比べて11万円も負担が軽くなる

東京23区と周辺3県の価格の差を、多くの人が利用するであろう住宅ローンの返済額に落とし込んでみると、周辺3県に転入先が広がっていることへの納得度がさらに高まります。

便宜的に、平均価格の全額の住宅ローンを利用するとします。その場合、金利1.5%、35年元利均等・ボーナス返済なしで計算すると、東京23区の新築マンション平均価格8,236万円では、返済額は毎月25万2,173円。対して、神奈川県の平均価格5,411万円なら16万5,676円、埼玉県の5,267万円なら16万1,267円、千葉県の4,603万円なら14万936円にダウンします。
最も平均価格が安い千葉県なら東京23区の55.9%、金額にすればおよそ11万円も負担が軽くなります。

これは中古マンションであっても同様で、さらに差が大きくなります。東京23区では返済額が月額17万6,852円になるのに対して、千葉県は7万9,699円。10万円を切り、東京23区の45.1%まで負担が軽くなります。これだけの差を見ると、周辺3県に転入する人が増えるのも納得できるでしょう。

これから、東京圏での住まい選びを考える場合、まずは自分たちのライフスタイルや出勤形態などに応じたエリア選びから入るのがよいのではないでしょうか。

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