新築住宅が高くなりすぎて手が届かない―。そんな嘆きの声を耳にしますが、対象を築年数の古い中古住宅まで広げれば、一気に視界が開けてきます。しっかりした選択眼と、チェックの目を持っていれば、世界に一つだけの納得のマイホームを手に入れることができます。
東京23区の新築マンションはかなりの年収がないと買えない状況
マンションや戸建て住宅の価格が上がり続けていて、新築住宅にはなかなか手が届かなくなっています。
不動産経済研究所によると、2022年に首都圏で分譲された新築マンションの平均価格は6,288万円で、東京23区に限ると8,236万円でした。首都圏のなかでは比較安い千葉県でも4,603万円と、5,000万円近いレベルに上がっているのです。
6,288万円の新築マンションを288万円の自己資金、残り6,000万円のローンを組むとすれば、35年元利均等・全期間固定金利1.5%・ボーナス返済なしの毎月返済額は18万3,710円になります。年収500万円の場合、年収の44.1%を住宅ローンの返済に充てることになります。そもそも、そんなに負担率が高いと、金融機関が融資してくれないでしょう。年収700万円なら31.5%にダウンしますが、それでもかなり生活は厳しくなりそうです。
もう少し収入が増えるのを待つ、あるいは貯蓄を進めて自己資金を増やす必要がありますが、その間にマンション価格がさらに上がっては元も子もありません。
築古マンションなら築浅の3分の1以下の価格
そこで、検討したいのが新築に比べて価格が格段に安い、築年数の古い中古住宅、いわゆる築古物件です。
図表1は、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が、首都圏の中古マンションの成約状況を築年数帯別に分析したデータをグラフにしたものです。
「~築5年」のいわゆる築浅マンションは、そもそも市場に出回る物件数が限られていることもあり、成約件数が1,000件以下と少なく、成約価格も6,968万円と高くなっています。前述の不動産経済研究所のデータによると、2022年に売り出された新築マンションの平均価格は6,288万円なので、築浅マンションは新築マンションより高くなっているのです。新築物件が出にくいエリアを中心に、築浅マンション価格がかつての新築の相場より高くなっているようです。
しかし、築年数がたつにつれて成約価格はどんどん下がります。「(築16年)~20年」で5,000万円台に、「(築21年)~25年」で4,000万円台に、「(築26年)~30年」で3,000万円台に、そして「築30年~」になると、2,220万円に。築30年以上の築古マンションなら、築浅マンションの3分の1以下で手に入ることになります。
しかも、成約件数も2,864件と格段に多くなり、選択肢が広がるというメリットもあります。
築古の戸建て住宅価格は築浅の2分の1以下に
これは、戸建て住宅にも通じる傾向です。
図表2は、東日本レインズによる首都圏中古戸建住宅の築年数帯別の成約件数と成約価格を示したものです。
「~築5年」の築浅物件は5,012万円。東日本レインズによる新築戸建住宅の2022年の平均価格は4,128万円ですから、マンション同様に築浅物件は新築住宅よりむしろ高い傾向が見られます。
それが、築年数が経つにつれ成約価格は低下します。「(築16年)~20年」で3,000万円台になり、「築30年~」は2,419万円に。マンションの築古物件は築浅の3分の1以下でしたが、戸建て住宅は2分の1以下に下がります。土地は経年によって価値を落としていくものではないため、土地の比率が高い戸建ては、マンションほどは価格が下がらないのではないでしょうか。
築古戸建て住宅は土地や建物の面積が大きくなる
築古物件は価格が安くなると同時に、面積の広い物件が多くなるのもメリットです。
マンションの場合、「~築5年」の築浅物件の平均専有面積は63.4平方メートルですが、「(築6年)~10年」は65.9平方メートルになり、築年数が経つほどじわじわと面積が拡大。「(築21年)~25年」は、69.7平方メートルに広がります。これは、近年では価格上昇を抑えるために専有面積の圧縮傾向が強まっているので、少し前に分譲されたマンションのほうが広いつくりが多いためです。
ただし、「築30年~」では56.0平方メートルに狭まります。特に、1960年代、1970年代に分譲されたマンションは2DKなどが多かったので注意が必要です。
戸建て住宅では、「~築5年」の築浅物件の平均は図表3にあるように、土地面積115.4平方メートル、建物面積は97.5平方メートルです。そこから「(築26年)~築30年」になると、土地が152.4平方メートル、建物が119.2平方メートルに広がります。この広さがあれば、ちょっとした家庭菜園や庭いじりを楽しむことも可能でしょう。
エリアにもよりますが、用途地域の見直しなどで増築したり、現状の建物より広い建物に建て替えられたりする可能性もあるかもしれません。
インスペクションで安全性を確認する
ただし、築年数が経った物件は、当然ながらある程度の老朽化が進んでいます。居住するにあたっては、各種のリフォームが必要になるのが一般的です。
特に、地震大国である日本では、耐震性の確認が欠かせません。1981年(昭和56年)の新耐震基準施行後の物件であれば、まずは安心と言えます。しかし、念のため専門家に建物の調査(インスペクション)をしてもらうのが安心です。なかでも、戸建て住宅については、インスペクションが不可欠と言っていいでしょう。
実際に中古住宅を買った人たちに確認したところ、図表4にあるように、中古戸建住宅では40%以上、中古マンションでも15%近くの人が何らかの形でインスペクションを行っています。
できれば、耐震強化のためのリフォームとあわせて、最新の住宅に劣らないような省エネ性能を確保するリフォームを実施。さらに、老後に備えてバリアフリーに改修するのがいいでしょう。
それだけのリフォームを実施すると、数百万円から1,000万円ほどリフォーム費用がかかるでしょう。しかし、物件価格そのものが新築に比べ格段に安いため、リフォーム費用をかけても十分にメリットがあるはずです。それによって、世界にひとつだけの住まいを確保することができます。リフォームで自分の理想の住まいにできることは、中古住宅、なかでも築古住宅を購入する魅力のひとつではないでしょうか。
中古住宅は新築より各種の支援策が充実している?
しかも、各種の支援策を活用すれば、負担感が大幅に軽減されます。リフォームする場合には、図表5にあるようにリフォーム支援策をフルに活用しましょう。
高断熱窓を設置する場合、1戸あたり上限200万円の補助金を活用できます。同時に子育て支援対応改修、バリアフリー改修などを行うときには、30万円から60万円の補助金を受けることができます。
さらに、住宅ローンを利用するときには、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する【フラット35】リノベを利用できます。中古住宅を取得して、一定の要件を満たすリフォームを実施する場合、当初10年間の金利が0.25%または0.5%引き下げられます(2023年3月31日までの申込受付分に適用)。
2023年3月の【フラット35】の金利は、返済期間15年から20年が1.80%、返済期間21年~35年が1.96%です。金利を0.5%引き下げられれば、それぞれ1.30%、1.46%で利用できます。格段に負担が軽減されるため、事前にどんな支援策を利用できるのかを確認して、活用するようにしてください。
政府の住宅取得支援策も、いい家を建てて、長く大切に使っていくというSDGsの考え方もあって、最近は中古住宅に軸足を移しつつあります。この点も築古物件を取得するメリットと言えるでしょう。
価格高騰でマイホームをあきらめてしまった人も、築古の中古物件に目を向けて選択肢を広げてみてください。家族にぴったりの物件が見つかるかもしれません。