住宅の購入にあたり、父母や祖父母など直系尊属から資金の援助を受ける場合、一定金額までの贈与税が非課税になる制度があります。住宅の種類によっては1,000万円まで非課税になるため、資金援助を受けるならぜひ利用したい制度です。
今回は、この非課税制度について、2023年現在の概要と利用上の注意点、手続き方法などについて解説します。
住宅資金の贈与を受けた場合に活用できる非課税措置の要件とは?
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、「住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置」が受けられ、その資金のうち一定の金額までの贈与税が非課税になります。
非課税となる限度額については、以前は最大3,000万円だったこともありましたが、近年は税制改正による減少傾向がみられます。
非課税限度額
贈与税の非課税限度額は省エネ等住宅の場合1,000万円、それ以外の住宅の場合は500万円です。(適用期限は2023年12月31日まで)
省エネ等住宅とは、以下の3つの基準のいずれかに適合する住宅用の家屋であり、さらに住宅性能証明書など一定の書類を贈与税の申告書に添付することによって証明されるものをいいます。
基準1:断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上
基準2:耐震等級(構造駆体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
基準3:高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
また、すでに非課税の特例の適用を受け、贈与税が非課税となった金額がある場合には、その金額を控除した額が非課税限度額となる点に注意してください。
受贈者の要件
贈与を受ける者は、以下の全ての要件を満たさなければなりません。
1.贈与を受けたときに、贈与者の直系卑属であること
2.贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること。ただし、2022年3月31日以前の贈与については20歳以上であること。
3.贈与を受けた年の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下(対象となる家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は1,000万円以下)であること。
4.2009年から2022年分までの贈与税の申告で、住宅取得等資金の非課税の適用を受けたことがないこと。
5.対象となる住宅が自分の配偶者や親族などから取得したものではないこと。またはこれらの方との請負契約等により新築または増改築等をしたものではないこと。
6.贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅取得等資金の全額をあてて、家屋の新築等を行うこと。
7.贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること。
8.贈与を受けた年の翌年の12月31日までにその家屋に居住していること。
住宅の要件
また、対象となる住宅にも要件があります。
まず、日本国内にあるものに限られ、さらに新築もしくは取得、または増改築等によって要件が異なるので注意が必要です。
(新築もしくは取得の場合)
新築もしくは取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの場合は専用部分の床面積)が40平方メートル以上240平方メートル以下、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が居住用でなければなりません。
また、取得した住宅については、以下のいずれかに該当する必要があります。
・建築後使用されたことがない
・建設後使用されたことがある家屋で、1982年1月1日以降に建築されたもの
・建設後使用されたことがある家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであり、それが一定の書類によって証明されたものであること。
(増改築等の場合)
・増改築後の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの場合は専用部分の床面積)が40平方メートル以上240平方メートル以下、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が居住用であること。
・増改築の工事が自己所有かつ居住している家屋に対して行われたもので、一定の工事に該当することについて、「確認済証」や「検査済証」など書類によって証明されたものであること。
・増改築等にかかった費用が100万円以上であること。また、増改築等の工事に要した費用の額の2分の1以上が、居住用の部分の工事に要したものであること。
住宅取得等資金の贈与の非課税措置を活用する注意点とは?
非課税措置を活用する場合、適用によって贈与税額が0円となった場合でも、申告が必要です。贈与税の申告期限(贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日)内に必ず申告するようにしてください。
また、相続の際に土地の相続税評価額が80%引き下げられる小規模宅地等特例と併用はできないため、将来的に相続税を多く支払わなければならなくなる可能性があります。
さらに、住宅取得等資金の贈与の非課税措置を使うと、原則として生前贈与として扱われるため、相続が発生した際に遺産分割協議で揉める原因になる可能性があります。
住宅取得等資金の贈与の非課税措置はとても有意義なものですが、将来相続が発生したときのことも考えて利用するようにしましょう。
非課税の特例を受けるために必要な手続きとは?
上でも少し述べたとおり、非課税の特例を受けるためには、贈与税の申告が必要です。これは、特例の適用によって贈与税額が0円になる場合でも行わなければなりません。
具体的には、非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に必要な書類を添付して、受贈者の住所地を管轄する税務署に提出します。
申告期限は贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までなので、忘れないようにしましょう。
申告の際に必要な書類については、以下のとおりです。
・戸籍謄本
・贈与を受けた年分の源泉徴収票など
・新築、取得、増改築等を行った家屋や敷地の登記事項証明書
・新築、取得した際の売買契約書や建築請負契約書の写し
また、省エネ等住宅の場合、住宅性能証明書や建設住宅性能評価書の写し、増改築等を行った場合、増改築等工事証明書なども添付する必要があります。
そもそも贈与税とは?
他人から財産をもらうと、贈与税の課税対象になります。ただし、会社から財産を得た場合は、贈与税ではなく所得税(一時所得)の対象です。
贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、どちらかを選択できます。ただし、一度相続時精算課税を選択したら、暦年課税に戻すことはできません。
暦年課税とは、その年の1月1日から12月31日までにもらった財産の額に対して贈与税がかかる仕組みで、110万円の基礎控除が設けられています。
一方の相続時精算課税は、贈与者および受贈者が一定の要件を満たした場合に、2,500万円の特別控除が受けられるものです。相続時精算課税の適用を受けた贈与財産と相続財産と合算した金額を基に相続税が計算され、贈与税額は最終的に相続税で精算することになっています。つまり、すでに納めている相続時精算課税にかかる贈与税相当額よりも相続税額が多ければその差額分を納税し、少ない場合は相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。
相続税と贈与税では、基礎控除額や税額計算の際の課税区分金額や控除額が異なるものの、最大税率は両方とも55%です。
2024年から贈与税が変わる!?
2022年12月に公表された「令和5年度税制改正大綱」によると、相続税と贈与税の一本化が盛り込まれるなど、今後大幅な変更が予定されています。
具体的には、生前贈与の金額を相続財産に加算する期間が、現行の3年から7年に延長されます。また、相続時精算課税制度については、年間110万円以下の贈与税の申告が不要になるなどの変更内容が記載されています。
ただし、税制改正大綱は確定事項ではありません。今後国会で審議され、正式に決定されれば施行されることになるので、今後の動向に注意しておきましょう。
そのほかに取り上げられている内容としては、
・教育資金の一括贈与および結婚子育て資金の一括贈与の適用期間延長そして内容の見直し
・空き家特例の見直し
などがあります。
今後の贈与税・相続税対策はどう変わるのか?
今回の令和5年度税制改正大綱の内容が正式に決定となった場合、
・相続時精算課税制度
・年間110万円以下の贈与
・住宅取得等資金の贈与の非課税措置
などを上手に組み合わせながら、効果的に生前贈与を行うことにより、今まで以上に贈与税や相続税の節税が可能になると見込まれます。
従来の相続時精算課税制度ではすべての贈与について毎年の贈与税申告の対象としていましたが、改正されれば110万円以下の贈与は申告不要です。
現時点の相続時精算課税制度では2,500万円の特別控除があり、それを超えた部分については一律20%の贈与税が発生します。一方の暦年課税では、年間110万円の基礎控除が用意されており、それを超えた部分について贈与税が発生する仕組みです。
また、贈与税率については贈与者と受贈者の関係によって課税価額の区分や税率、控除額が異なり、直系尊属からの贈与のほうが税率的に優遇されています。
したがって、大綱どおりに税制が改正されると、暦年課税では相続発生前7年以内の贈与が相続財産に加算されるため、よほどの富裕層でなければ、相続時精算課税制度を選択するほうが節税効果は高くなるといえそうです。
生前贈与は、最終的にどの方法が最も相続税の負担が少なくなるかを考えながら行う必要があるといえるでしょう。
まとめ
贈与税には、さまざまな非課税制度が設けられています。住宅資金贈与の非課税特例だけに注目するのではなく、各種非課税制度を組み合わせて活用することで最終的な節税効果が高くなることが期待できます。
ただし、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置を利用する際には、小規模宅地等の特例と併用できないなどのデメリットがあることも知っておかなければなりません。
今後も課税関連の制度については逐次改正されていくことが予想されるので、制度変更の動向にアンテナを張っておきましょう。